連載第13回 2001年「愛しあってるかい!名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史」
関西ウォーカー

面白いドラマ? あるよ!
ついに21世紀! ところがこの時期は〝超″がつくほどの就職氷河期であり、会社員は吹き荒れるリストラの嵐で戦々恐々の日々。海外に目を移しても、アメリカで同時多発テロ事件が勃発。2年後のイラク戦争につながっていく、大変な出来事が起こっていた。映画では「千と千尋の神隠し」が興行成績第1位を記録してカオナシという謎のキャラクターが人気となり、テレビでは「クイズ$ミリオネア」でみのもんたが「ファイナルアンサー?」と回答者に迫り。しかし、当時バラエティーやドラマよりパンチを放っていたのが〝小泉劇場″と言われた政治の世界。メディアを最大限に利用した小泉純一郎氏の発言やパフォーマンスに国民が大注目し、「現実のほうがドラマ以上に予想外な展開が続いていた時代です。およそ21世紀の幕開けです、という明るさはありませんでしたよね。当時は誰もが本当のヒーローを求めたのではないでしょうか」と影山氏は語る。
新しいHERO像と「HERO」
―2001年、飛びぬけて高視聴率を取っていたドラマが、まさに「HERO」ですよね。
すごく厚みのあるドラマだったと思います。木村拓哉さんと松たか子さんのコンビはもちろんですが、阿部寛さん、小日向文世さん、大塚寧々さん、勝村政信さんなど同僚のキャラクターも立っていて、群像劇として見応えがありました。私が当時、面白いなあと思ったのが、連続ドラマで、しかも「月9」で検察官という職業を扱ったこと。そこにスポットライトを当てたか! と感心しましたね。2001年は「カバチタレ!」というドラマもありましたが、これも行政書士という、これまでなかなか注目されなかった職業がフィーチャーされていました。主役は常盤貴子さんと深津絵里さん、そして監修は「ナニワ金融道」の青木雄二さん。マンガが原作なのですが、お金がらみのトラブルを専門的に描いていて、とても興味深かったし勉強になりました(笑)。
「HERO」の魅力の一つもそこですよね。これまでぼんやりしか知らなかった、とても地味だけれど重要な仕事を掘り下げ、しかも「魅せる」ことに成功している。刑事ドラマに比べてものすごく描きにくいと思うんです。けれど、容疑者が逮捕されても検察官が起訴しないと裁判にまでいたらない。起訴するに足らず、とされれば、事件はそこまでなんです。検察官はその段階でどれだけのことをやっているのかを、木村さん演じる久利生公平の破天荒な個性を活かし、しっかりと見せた。久利生は高校中退でも司法試験に合格した努力家で、仕事ができ、しかも自ら直接現場に赴く行動派。同僚全員に影響を与えていく型破りキャラです。彼と敏腕のメンバーを通して、「正しいことはなんなんだ」ということを丁寧に描いたのは見事でした。
私が特に大好きだったのはバー「St.George's Tavern」のシーン。事務所の人たちが、事件が袋小路に入ったり、解決したりしたらその店に行くんですが、「○○食べたいな」と言えば、絶対ないだろうと思うようなメニューでも「あるよ」と何でも作ってくれるんです。田中要次さん演じるマスターのセリフは、一言だけなんですよね。「あるよ」以外、絶対増えない。そして、マスターが直接事件に関わることもありません。けれど、あの「あるよ」がなかったら、視聴率はもっと低かったんじゃないだろうかと思います。それほど、ドラマの中の緊張と緩和のバランスはとても大切です。「HERO」は、こういったホッとする〝オフタイムの表現″も、本当に絶妙でした。漫才のキメみたいに、「くるか、くるか? キターッ!」という感じで安心しましたね。田中要次さんは、この作品でおおいにクローズアップされて、その後「べっぴんさん」など多くの作品で名バイプレイヤーとして活躍しています。あの存在感、素晴らしかったですからね、納得です。主演から脇役まで、キャスト全員、そしてスタッフとの素晴らしいチームワークを感じたドラマでした。
この「HERO」の監督・鈴木雅之さんと木村さんが再びタッグを組んだのが、現在公開されている映画「マスカレード・ホテル」です。小日向文世さん、そして松たか子さんも出演するというのですから、期待が高まらないわけがありません! 木村さんが松さんとの再共演について「言葉にする必要はないよね、って感じた上で、作業を進めることができたんじゃないかな、と」と答えていますが、「HERO」というドラマで、どれだけ信頼関係が築かれていたかが分かる言葉ですよね。木村さんが18年の時を経て、どんなヒーロー像を見せてくれるのか、私も早く観に行かねばと思っています。
つんく♂大ブームと「ムコ殿」
―2001年は、当時、音楽シーンでも大人気だったつんく♂さんがドラマにも出演しています。
私が大好きだったドラマ「ムコ殿」ですね! アイドルが結婚していて、しかも入り婿という設定です。つんく♂さんは、芸能プロの社長役で出演しています。当時は彼がプロデューサーをしていたモーニング娘。など、ハロープロジェクトの勢いがすごかった頃。番組内で使われた「ひとりぼっちのハブラシ」も彼の作詞作曲でしたが、心がふわっとなる、とてもいい曲です。生活感のある言葉選びが、つんく♂さんの持ち味。そこに「想い」と「情」が込められているところが大好きですね。
―つんく♂さんとは昔、MBSラジオの「ヤングタウン」で、いっしょにお仕事をされたこともあるのだとか。
私がプロデューサーを務めていた頃、シャ乱Qの「シングルベッド」が大きなヒットとなった時のことは、今でも鮮明に覚えてます。そんな中、ある日つんく♂さんが私に「影山さん、僕、将来プロデューサーになりたいんです」と言ったんです。その後ほどなく、彼はモーニング娘。のプロデュースを手掛けて大ブレイク。数々のアイドルを世に送り出すことになります。正直、驚きはしませんでした。彼は当時から、夢を実現させるだろう、と思わせるパワーがみなぎっていましたから。有言実行の熱い男でありながら、冷静に「俯瞰」もできるクレバーな才能は素晴らしいです。彼が今後どんな展開を見せるのか、とても楽しみですね。
「ムコ殿」は、ストーリーも素晴らしかったですね。あったかい家族の愛がテーマで、見ていてホッとできるドラマでした。主演の長瀬智也さんは「白線流し」の頃から大好きな俳優です。骨太さと繊細さがうまくマッチングしていて、ドラマに深みを与える人です。器用とは違うのですが、どんな役を振られても、自分の色にしていく稀有なモチベーションがありますね。今年、映画「空飛ぶタイヤ」でアカデミー賞優秀主演男優賞を受賞されるなど、もうすっかり日本を代表する俳優の一人。これからもスケールの大きな作品にどんどん出演されると思います。
上戸彩の動じない魅力、藤木直人の浸透力
この年は長瀬さんのほかにも、アイドル的な立ち位置だった人が、本格的な演技力を開花させた人も多かったですね。特に「3年B組金八先生 第6シリーズ」で性同一性障害という難役をこなしていた上戸彩さん。M-1グランプリで、もう長く司会をされていますが、いつも緊張していないのが彼女なんです。あのナチュラルさが素晴らしい。彼女自身がお笑い芸人ではない、というのはもちろんあると思うんですが、M-1は独特の緊張感が漂っている場ですから、見ている側まで巻き込まれてしまうものです。しかし、彼女は平常心を崩さない。上戸さんはこの翌年の2002年、「渡る世間は鬼ばかり 第6シリーズ」に出演しています。こちらも大御所だらけで緊張感溢れる現場だったと思いますが、その中にもスッと溶け込んでいく。彼女の動じない強さは、見ていてとても頼もしいです。
男性では、「アンティーク~西洋骨董洋菓子店~」に出演していた滝沢秀明さんと藤木直人さん。滝沢秀明さんは太陽のような存在感の持ち主でした。そんな彼が2018年、きっぱりとプロデュースに集中する道を選んだのは清々しかった。年齢を重ねていくに従って、自分が本当にやりたいことを絞った結果の英断だったと思います。そして藤木直人さんは、昔も今も本当に大好きなんですよ。あのシーンが良かった、というのをすぐに思い出せるわけではないのですが、いいなあ、と思うドラマに必ずいる方です。主役の横にいて個性を消されることもなく、そして邪魔をすることもない。本当に不思議な人だなあと(笑)。彼の品と知性がなせるワザでしょう。2006年には主演ドラマ「ギャルサー」で、カウボーイみたいな格好をさせられているんですけど、彼だからこそ成り立ったんじゃないでしょうか。人を輝かせることで自分も輝く。そんな華を持っている俳優だと思います。今期のドラマ「イノセンス 冤罪弁護士」では、クールな理工学部物理学科の准教授という役柄。「グッド・ドクター」の高山役が大好きだった私にとっては、まさに待ってました、という感じですね。
「R-17」そして桃井かおりという生き方
―2001年は桃井かおりさんが「R-17」「ビューティ7」と、2クール連続で出演しています。連続ドラマに頻繁に出るイメージがなかったので、珍しいと思いました。
桃井かおりさんは、もう彼女の生き方そのものが、多くの人に影響を与え続けている人。ドラマ「ちょっとマイウェイ」、映画「もう頬づえはつかない」「幸福の黄色いハンカチ」などで多くの賞を獲ったあとは、ハリウッドに活動の場を見出だしたり、監督をしたりと、アグレッシブに活動されています。2001年の「R-17」では桃井さんの発言がドラマの展開にも影響を与えたとも伝えられています。「先生役だけは、するまいと思っていた」らしいですが、主演の中谷美紀さんの心の深い傷に寄り添うような役柄は、彼女だからこそ深みがありましたよね。「R-17」は若さの暴走、さらには覚せい剤の蔓延というショッキングなテーマを扱っていましたが、桃井さんと中谷さんの知的なコンビネーションによって「刺激的な題材を扱った話題モノ」で終わらず、上質のサスペンスに仕上がっていました。
もう1作「ビューティ7」は、当時の世相も反映していますよね。エステティシャンの話です。90年代後半、カリスマ美容師などがテレビで取り挙げられ、当時はエステ業界人気が頂点。約6000億円市場とも言われていました。桃井さんの決め台詞「ひとつよろしくて?」はクセになりました。「HERO」の「あるよ」もそうですが、やはり安心感ですよね(笑)。これを聞くために見る、という。
去年の7月、中日新聞で桃井さんのインタビュー記事を読んだのですが、「自分の年齢と、年齢に合った働き方」について語っておられる部分が興味深かったです。年齢以上のことはやれないけれど、いかにどうしてもやりたい事を実行し、満足できるか。これは私も常に考えていることで、とても心に響きました。桃井さんは作品のセリフ以上に普段の言葉に重みのある人です。俳優という手段を使って、社会にボールを投げ続けておられるのかもしれませんね。生き方のカッコ良さでは群を抜いてます。これからもその姿を追い続けたい、私のヒーローの一人です。

【ナビゲーター】影山貴彦/同志社女子大学 学芸学部 メディア創造学科教授。元毎日放送プロデューサー(「MBSヤングタウン」など)。早稲田大学政経学部卒、関西学院大学大学院文学修士。「カンテレ通信」コメンテーター、ABCラジオ番組審議会委員長、上方漫才大賞審査員、GAORA番組審議委員、日本笑い学会理事。著書に「テレビのゆくえ」(世界思想社)など。
【インタビュアー】田中稲/ライター。昭和歌謡、都市伝説、刑事ドラマ、世代研究、懐かしのアイドルを中心に執筆。「昭和歌謡[出る単]1008語」(誠文堂新光社)。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」連載。
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