鈴鹿の日本GPはレッドブルの圧勝!しかし、ドラマは中盤で起きていた。
関西ウォーカー
すみません。
パドックのプレス・ルームで、38周までプライムタイヤを引っ張っていた小林可夢偉がようやく全体の最後にピットインしたとき、6位まで上がった順位が12位に下がるのを見て、「やっぱりダメか」と思ったのは私です。
鈴鹿は抜きにくい、という意識が強くあって、2005年に雨の影響で上位陣が予選で下位に沈み、決勝でライコネンやアロンソが怒涛のオーバーテイクを繰り返したのが強烈な記憶として残っている。
しかし、今回、その時の彼らと並ぶ、或は過去の常識を書き換えるオーバーテイクを僕らは見た。
鈴鹿の抜きにくさは、きわめて周到に設計されたテクニカルサーキットとしてのレイアウトにあり、普通はシケインが、ほぼ唯一のパッシングポイントといわれる。
しかし、可夢偉は今回、ヘアピンで、トロロッソのアルグエルスアリを2度抜き去ることになる。しかもインとアウト両方から。
このとき、日本人より外国人記者のほうが多いプレスルームは地響きのような拍手で爆発した。ありえないものを繰り返し見たからだ。結局、可夢偉は12位から7位まで、オプションタイヤに変えた残り15周でオーバーテイクを5回繰り返した。まるで、どこが抜きにくいサーキットだって、と言わんばかりに。
理屈で言えば、抜きにくいサーキットの特性を活かしてハードタイヤで長く引っ張り、タイヤのパワーが出るオプションタイヤを、他のタイヤがたれてきている後半に爆発させて抜き去るという戦略なのだが、「言うは易し行うは難し」とレース後の囲みで可夢偉本人が言った言葉どおり、凄まじい能力と鉄のような意志があって初めて可能な作戦だ。この日は、バトンが同じ作戦で4位となっているが、きわめて難しい作戦であることは間違いない。たれやすいタイヤをマネジメントして長い周回を安定して走りきり、残り短い周回で爆発的に抜きにくいサーキットで抜きまくる、これは我慢と獰猛さの両方が試される。
鈴鹿は、本当の能力を持ったチャレンジャーが固い決意で抜こうとすれば微笑みかけてくれる。そのオーバーテイクは車の性能差でやすやすと抜くものよりはるかに美しい。鈴鹿サーキットの本来持つポテンシャルと隠し持っていた更なる美しさを見た気がする。来年からは攻略法や走り方は劇的に変わるだろう。今年の可夢偉の走りで。
今回、サーキットで、或はテレビででも、レースを見た人はきっとF1が好きになる、と思う。フジも入れて11年続けて日本GPを現場で見てきたが、日本人のドライバーがこれほど不敵に憎たらしく試合運びをしたのは見たことがない。土曜に予選が流れた時の可夢偉の囲みインタビューはぶっきらぼうで、僕の知る限り、こういうときの彼は何か手ごたえを持っているときだと感じた。
彼は、まさに自分がイメージしたとおりの戦略をやりきり、その通りの答えを出したのだ。レース後の満足そうな顔は、ずっと見たかった日本人パイロットの顔だった。
【関西ウォーカー編集長 玉置泰紀】
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