連載第14回 2002年「愛しあってるかい!名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史」

東京ウォーカー(全国版)

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名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史


私? 私はこのドラマの作り手だ!


いわゆる「ゆとり教育」がスタートした2002年。小柴昌俊氏と田中耕一氏がノーベル賞を、日本人では史上初のW受賞を成し遂げ、日韓共催FIFAワールドカップ開催、松井秀喜選手がニューヨーク・ヤンキース入団……と華々しいニュースが多かった年でもある。テレビでは「トリビアの泉」がブームを起こし、人々は知ってそうで知らない雑学に「へぇ~!」という感心の声を上げていた。影山貴彦氏は「この年はドラマも豊作ですよ」と声を弾ませる。そして「個人的に歴代の月9ドラマ全ての中でダントツナンバー1」と出したタイトルは…。

「ランチの女王」 脚本家・大森美香の持つ軽快さと時代性


― 影山さんが歴代月9で一番好きなドラマが、この年の「ランチの女王」なんですね!

はい(笑)。2001年の「カバチタレ!」で脚本家の大森美香さんに注目し、「ランチの女王」も始まる前から絶対面白いはず、と目を付けていました。その通りだったですね! 舞台は江口洋介さん、妻夫木聡さん、山下智久さん演じる兄弟たちが営む、傾きかけのレストラン「キッチンマカロニ」。そこにやってくるのが、竹内結子さん演じるヒロイン・麦田なつみです。そして、彼女が店と兄弟たちを変えていく、というストーリー。私が大好きなドラマ、桃井かおりさん主演の「ちょっとマイウェイ」と似ているんですよね。両方とも、鼻っ柱の強い性格のヒロインが潰れかけのレストランを立て直す、という流れです。そして時代をしっかりと反映させているところが素晴らしいですよね。「ちょっとマイウェイ」のヒロインが立て直すのは、実家のレストラン。昭和らしい、家族の絆がきちんと描かれています。「ランチの女王」は2000年代にフィットした明るさ、軽さが漂っていました。フラリとどこからかやってきた鼻っ柱の強いヒロインと兄弟たちとの恋愛物語もあって。説教臭くなくて、とてもライトなストーリー運びなんですが、心に残るウェットさもある。軽快さと情のバランスが本当に心地よかったです。

脚本の大森さんは、名古屋テレビに入社し、一般職として経理、秘書業務等を担当されていた時期があるそうです。勝手な分析ですが、私はその時期がすごく作品に生きている気がします。彼女が描くキャラクターやセリフには、生活の息づかいや、そのバックボーンが自然に感じられる。「ランチの女王」はじめ、同じ2002年の「ロング・ラブレター~漂流教室~」、2006年の「マイ☆ボス マイ☆ヒーロー」、2015年朝の連続テレビ小説「あさが来た」、彼女の作品は登場人物が愛おしいんですよね。昨年は宮崎あおいさん主演のドラマ「眩~北斎の娘~」が芸術祭大賞を獲りました。もうすっかり日本を代表する大脚本家です。大森さんの新作、待ち遠しいです。

「空から降る一億の星」から成長した井川遥の粘り


―「ランチの女王」以外にも、「人にやさしく」「空から降る一億の星」と、この年の月9は名作ぞろいです。

「人にやさしく」は香取慎吾さん、松岡充さん、加藤浩次さんという個性派の大人たちの中に、素朴な魅力の須賀健太少年がちょこんといるバランスが好きでした。特に加藤浩次さんは、「うまいなあ」と惚れ惚れしましたね。賢いアウトローというか、ヤンチャで荒々しいけれど、人の痛みのわかる、優しさを感じさせる演技をされていて。今はワイドショーの司会をメインにご活躍されていますが、もっとドラマでも見たい人です。

北川悦吏子さん脚本の「空から降る一億の星」は、木村拓哉さんと明石家さんまさんの競演が話題になりましたが、私の印象に残っているのは、このドラマでデビューした井川遥さん。2018年の朝の連続テレビ小説「半分、青い。」の演技では高い評価を得た彼女ですが、当時はお世辞にもうまいとは言えない状態でした。彼女は「半分、青い。」のインタビューで、「出来なかったあの時の恥ずかしさや悔しい思いが、今に繋がっています」と語っています。「空から降る~」から16年後、「半分、青い。」で北川悦吏子さんにもう一度声をかけられたことで、大いなる感謝とともに、今度こそいいものを見せないと、という万感募る思いで臨んだのだと。これから社会人になる人のエールにもなればと思いますが、誰でも最初は下手なんです。けれど失敗した後に成長がある。井川さんも「空から降る一億の星」でやめていてもおかしくはなかった。でも「もうあかんわ、才能ないわ」の先、踏ん張ったからこそ美しい景色が見えた、ということですよね。

制作側が視聴者に挑戦した「私立探偵 濱マイク」と「木更津キャッツアイ」


2002年は、あまり視聴率を取っていないドラマも非常に面白いんですよ。私が好きだったのは「私立探偵 濱マイク」。若いころ夢中で見た松田優作さんの「探偵物語」と似た、ダークでスタイリッシュなムードがありましたし、とにかく主演の永瀬正敏さんがうまい! 永瀬さんは「才能がある人は多くを語らなくていいんだ」と思わせる俳優の一人ですね。セリフがなくても成り立つ人です。いるだけで物語が進む。樹木希林さん主演の映画「あん」では和菓子屋の主人をやっておられましたが、唸りました。うますぎて。「濱マイク」も、彼の謎めいた魅力と抜群のセンスがギュッと凝縮されていて、大好きでしたね。

ただ、「私立探偵 濱マイク」は、連続テレビドラマとしては絶対にウケないタイプの内容です。というより、制作側はそもそも視聴率なんて期待していなかったんじゃないでしょうか。数字を取るより、視聴者に挑んでいる感じがしましたね。さらに「濱マイク」のすごいところは、こんなコアな内容をプライムタイムで放送している、ということです。普通は人気取りを狙う時間帯であるにもかかわらず、「わかる人だけ見ればいい」という制作側の強気が画面からガンガン出ている。この年放映されたドラマ「木更津キャッツアイ」も同じでした。私も当時、夜21時でよくぞここまでハジけたな! と思って見ていましたから。今や名作として語り継がれていますのはご存じの通りです。作り手が視聴者の顔色を窺うのではなく、「これはどうだ!」とぶつけた2作品。自己満足と紙一重なので、ある意味賭けともいえますが、こういったチャレンジが新しい時代を開くのは間違いないですよね。

「ごくせん」「相棒」愛される続編の立役者


―この年の大ヒットドラマといえば「ごくせん」もありました。

面白かったです。生徒役を見ても、本当にすごいメンバーです。松本潤さん、小栗旬さん、松山ケンイチさん……。彼らの成長を見るだけでも楽しいドラマでしたが、ストーリーもとても爽やかで。実は私も毎日放送を退職して同志社女子大学に転職し、一教員としてスタートしたのがこの年なんです。なので、勝手に自分とヤンクミと重ね合わせて共感するところも多かったですね。とはいえ、決め台詞「私? 私はこの子たちの担任の先生だ!」にはびっくりしました。とても21世紀のドラマとは思えない、懐かしいノリといいますか(笑)。もちろんマンガ原作というのは大きいのですが、流れが時代劇なんです。わかりやすい! 生徒全員が、ものすごくわかりやすいグレ方をした不良です。その中の誰かがトラブルに巻き込まれる、仲間が助けに行く、やられる、そして仲間由紀恵さん演じるヤンクミが満を持して単身乗り込む。で、「お前は誰だ!」「私? 私はこの子たちの担任の先生だ!」。そして一気にやっつける……。いやもう、王道中の王道ですよね。お約束のストーリー展開は、「水戸黄門」さながらでした。こういった熱血モノは廃れないんです。気楽に観ることができるし、最後はちゃんと感動できる。私も突っ込みつつ、気が付けば食い入るように全話を見ていました。

「ごくせん」は続編が第3シリーズまで作られていますが、ベタで気楽というだけでは、ここまで支持されなかったと思います。魅力的な生徒、レギュラー陣のキャラの強化。続編は前のファンをそのまま取り込めてラク、というのはとんでもない話で、視聴者は「変わらないのがいい」と言いつつも、本当に変わらないものを見せたら「変わりばえしない」とはねのけますから。

―なるほど。この年に「相棒」season1が始まりましたが、そう考えると「相棒」の支持の厚さはすごいですね。

もうseason17に突入していますからね。私は歴代相棒の中で、寺脇康文さん演じる亀山薫が一番好きでした。このseason1からseason7までの亀山薫が相棒だった期間は、まさに「相棒」というタイトルの通り、二人の掛け合いで魅せていたと思います。もちろん、「相棒」は今もなお人気ドラマのトップですが、相棒が代わったり、個性が強烈なサブキャラクターが増えたり、どんどん膨らませて今の形に進化しているのはご存知の通りです。続編は、オリジナルからどう加工するかが勝負。演者は年を重ねていきますから、同じテンションで見せていくのは無理が生じます。だからこそ、脚本や演出など、作り手の腕の見せどころ。お約束は壊さないけれど、その邪魔をしないニューパワーをプラスしなきゃいけない。大人気作品を続編から新たに担当させられるものにとっては、もう、とんでもないプレッシャーです。ランニングの途中で入る難しさたるや! バラエティー番組も同じで、私も経験がありますが、すでに看板があるところに入るのは本当に大変です。思い出しただけでも心臓が痛くなってきました(苦笑)。

ドラマ制作の現場にいる限りゴールはありません。ヒットとハズレの繰り返し。やり続ける限りは何か言われます。そんな中で、脚本家の発想とスタッフの粘りと努力によって長く愛される名作が出来上がっていく。常に挑戦と支持される工夫を続ける作り手の方々には、本当にリスペクトしかありません。ゼロから物語を作り出し評価を得る。さらにゼロから1になったものを、引継ぎ成長させていく。私自身もモノづくりにかかわる以上、そうありたいと思います。

元毎日放送プロデューサーの影山教授


【ナビゲーター】影山貴彦/同志社女子大学 学芸学部 メディア創造学科教授。元毎日放送プロデューサー(「MBSヤングタウン」など)。早稲田大学政経学部卒、関西学院大学大学院文学修士。「カンテレ通信」コメンテーター、ABCラジオ番組審議会委員長、上方漫才大賞審査員、GAORA番組審議委員、日本笑い学会理事。著書に「テレビのゆくえ」(世界思想社)など。

【インタビュアー】田中稲/ライター。昭和歌謡、都市伝説、刑事ドラマ、世代研究、懐かしのアイドルを中心に執筆。「昭和歌謡[出る単]1008語」(誠文堂新光社)。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」連載。

関西ウォーカー

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