連載第16回 2004年「愛しあってるかい!名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史

東京ウォーカー(全国版)

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名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史


平成の中心でさけぶ「助けてください!」


アテネ五輪で日本はメダル37個を獲得し、「チョー気持ちいい」「気合だー!」などの流行語が飛び交った2004年。新紙幣が発行されて1万円札の肖像画は聖徳太子から福澤諭吉に、5千円札が新渡戸稲造から樋口一葉、千円札が夏目漱石から野口英世へチェンジ! 音楽では「マツケンサンバⅡ」が大ヒットし、文学では金原ひとみと綿矢りさの女性コンビが芥川賞をW受賞して、おおいに盛り上げていた時だ。「ドラマは『砂の器』『黒革の手帖』『人間の証明』『奥さまは魔女』など、リメイクものが多かったですね。生みの苦しみの時期だったかもしれません」と影山貴彦氏。そんな中、爽やかな感動を呼んだ名作が。さて、そのタイトルとは…。

青春を切り取ったような「オレンジデイズ」「世界の中心で、愛をさけぶ」


―2004年は前年にNHK・BS2で放送された「冬のソナタ」大ヒットもあり、純愛ブームが起こった時期ですね。

私が大好きだった「オレンジデイズ」も、まさにこの年。もう15年も前になるんですね。当時の教え子ばかりでなく、現役の教え子たちも再放送などに触れ、大好きなドラマに挙げる学生が少なくありません。実は私は当時連載していた記事に、「柴咲コウ演じるヒロイン萩尾沙絵の、耳が聞こえないハンディキャップを抱えている設定は必要だったのか?」と書いたことがありまして。というのも、それがなくても素晴らしく瑞々しい魅力に溢れた青春群像劇として、十分感動していたからです。誰もが恋愛と友情、すべてひっくるめて、ああいう青春を送りたいと憧れる要素がギュッと圧縮されていた。みんなで海に行けばORANGE RANGEがかかったり(笑)。細かいところが本当にさりげなく、ツボをついてくるんですよね。時代的には、もうインターネットやメールも普及していて、みんな二つ折りケータイを持っている。それでもサークルの部室には手帳が置いてあって、メンバーが伝言をいろいろ書き込んでいくんです。やっぱり、どれだけデジタル重視になっても、人と人とのつながり、心のつながりを丁寧に描く時、アナログのやり取りは心に響くもの。その組み込み方が絶妙でしたね。恋愛ドラマの女王、脚本家・北川悦吏子さんの真骨頂といえるでしょう。

特に、主役の結城櫂役の妻夫木聡さんには見惚れましたね。心に残っているセリフに「花火中止だって」というのがありまして。柴咲コウ演じるヒロイン萩尾沙絵との初デートが遊園地なのですが、はぐれてしまうんです。うまく連絡が取りあえぬまま沙絵は一旦家に帰る。ところが櫂は遊園地にいて、雨が降り出してもずっと待つんですよ。時間が経ち、雨が止んだ閉園後の遊園地の入り口に沙絵が再び行くと、櫂がウトウトしながらもまだいる。そして、沙絵を見つけると怒ることもなく「花火、中止だって」と言うんです! いやあ、あの笑顔! 男の私でもキュンキュン来ましたから(笑)。 妻夫木さんから滲み出るやさしさ、柔らかさは、本当にどこからくるんでしょう。完璧です。しかも明るいだけの笑顔ではなく、はにかみの中に母性本能をくすぐるような深みが…。ドラマでももっと見たいのですが、今は映画を中心に活躍されていますね。先日、二宮和也さんと共演する「浅田家(仮)」が2020年に公開することが発表されました。楽しみです!

―2004年は「世界の中心で、愛をさけぶ」もありましたね。やはり純愛モノが強いです。

人間関係や展開をこねくり回すのをやめたといいますか。「世界の中心で、愛をさけぶ」も、学生時代の切なく悲しい恋の思い出を軸とした王道のストーリーです。先にヒットした、森山未來さんと長澤まさみさんによる映画があまりにも素晴らしかったので、ドラマはどうなるのかな? と思っていましたが、いらぬ心配でしたね。山田孝之さんと綾瀬はるかさんがしっかりと魅せてくれました。しかし、森山未來さん、長澤まさみさん、山田孝之さん、綾瀬はるかさん…、こう並べてお名前を見ると圧巻ですね。現在の日本映画・ドラマを引っ張る、すごいメンツです。彼らは〝セカチュー〟から飛び出したんですね。私は聞くことができなかったんですが、東京FMで放送されたラジオ版は、松田龍平さんと宮﨑あおいさんが演じています。これまたすごいですね! それだけの魅力があった原作ということでしょう。

父親役で存在感を発揮した三浦友和


ドラマ「世界の中心で、愛をさけぶ」で存在感を示したのは、主役の2人だけではありません。ヒロイン亜紀の父親役で、再び注目を集めたのが三浦友和さん。もちろん、それまでもコンスタントに映画やドラマに出演されていたのですが、このドラマでグッと役者として活躍の場を広げられた気がします。女性も男性も、俳優は年齢的に難しい年齢があって、特に30代半ばは若い役をするには無理が出てくるし、老け役もまだできないという難しい時期です。そこを脱して、渋さを蓄えた魅力が開花した三浦友和さんの活躍は本当に眩しかった。しかも、その後もいい父親路線に定着せず、映画「アウトレイジ」や「葛城事件」など、ゾッとするような悪役も果敢に演じられていて。演技は控えめなのに、滲み出る空気が役によってガラッと変わる。素晴らしい俳優さんだと思います。

木村拓哉は木村拓哉のままでいい。極めた人の存在感


―この年の大河が「新選組!」でしたが、賛否両論だった覚えがあります。

視聴率は平均で17.4%とあまり振るわなかったですが、DVDは飛ぶように売れましたし、「ザテレビジョン ドラマアカデミー賞」では最優秀作品賞に輝きました。山南敬助役の堺雅人さんが一躍有名になるなど、熱烈なファンがついた作品です。私は主役の近藤勇を演じた香取慎吾さんの大・大ファンでして(笑)。どこが好き、というより、存在そのものが好きなんですね。迫力のある立ち姿に、少年のような無邪気な笑顔が乗っていて。太陽のように明るいのに、どこか危なっかしく内向的。「新選組!」で、そんな彼のカリスマ性とアンバランスさを見事に支え輝かせていたのが、土方歳三役の山本耕史さん。彼とのコンビネーションは、見ていて胸が熱くなるものがありました。

香取さんは私にとって、出ていればそれだけで満足、必ず見る! という俳優の一人です。演技が上手い下手という以前の問題で、彼を見ると元気が出るんですね。私は、極めた存在感を持っている人は演技で自分を消す必要はない、と思っています。石原裕次郎さん然り、高倉健さん然り。存在だけで視聴者にパワーやエネルギーを与えるのは、スターの証です。木村拓哉さんが以前バラエティー番組で、「何をやっても〝キムタク〟と言われる」と仰っていましたが、彼はそれでいいんです。木村拓哉という存在がドラマを輝かせているんですから。それをなにかと批判する人も多いでしょうが、それだけ彼のことが気になっている人が多いという証拠。芸能界で一番怖いのは、話題にならないことですからね。

メディアにおいての革命は必ず叩かれる「ニュースステーション」


大河ドラマに話を戻しましょう。様々な意見はあれど、「新選組!」がこれまでの大河ドラマの流れに大きな石を投じた一作であることは誰もが認めるところで、今放送されている「いだてん~東京オリムピック噺~」も似た動きを感じます。そもそも大河ドラマに宮藤官九郎さんを抜擢したのは、2013年、「あまちゃん」で朝の連続テレビ小説が新たな視聴者層を獲得したように、大河に新たな風を吹き込もうとしているからにほかなりません。そのために、これまでと違う新たな試みをしていくことになりますから、違和感を覚える人達がいるのも当たり前。必ず叩かれるものです。でも、どの世界でも新陳代謝は絶対に必要だし、受け入れられるタイミングがあるはず。「いだてん」も大河の歴史に名を残すドラマになると思いますよ。

ドラマではありませんが、2004年は報道界に新たな風を吹き込んだ「ニュースステーション」が、18年半の歴史に幕を降ろしています。最終回の久米宏さんの挨拶も、道を切り拓いてきた人だからこその凄みがありました。ニュースの後、「よく続きました」と後ろに用意していた冷蔵庫から瓶ビールを出し、自分のグラスだけ用意するんですよ。アシスタントの渡辺真理さんが戸惑うのも気にせずに。そして栓抜きを片手に「想像を絶するような批判も受けましたが、それがあったからこそ長く続いたと思います。皮肉でもなんでもなく感謝しています。ありがとうございます」といった内容のコメントをし、ゴクゴクとビールを飲んで「本当にお別れです。さようなら」。そのままアップでバシッと終わったときは、鳥肌が立ちましたね。これがプロなんだと。ニュースが終わってどのくらい時間が余るとか、今までの経験でしみついてるんでしょうね。

しかし、それだけのことをやっていながらも、久米さんはビールを飲む手が震え、小さなグラスのビールをなかなか飲み干せなかったんです。番組を土台から作り上げてきた達成感、悔しさ、もういろんな感情が画面から溢れ出ていました。新しいことを始める人は大変です。斬新なアイデアを出してそれを実行し、しかも報われるかわからない。逆に戦犯のように扱われることもある。それでも自分を信じて突き進むしかありませんから。だからこそ、私たち受け手も懐を深く持って見届けたい。そう思います。

元毎日放送プロデューサーの影山教授


【ナビゲーター】影山貴彦/同志社女子大学 学芸学部 メディア創造学科教授。元毎日放送プロデューサー(「MBSヤングタウン」など)。早稲田大学政経学部卒、関西学院大学大学院文学修士。「カンテレ通信」コメンテーター、ABCラジオ番組審議会委員長、上方漫才大賞審査員、GAORA番組審議委員、日本笑い学会理事。著書に「テレビのゆくえ」(世界思想社)など。

【インタビュアー】田中稲/ライター。昭和歌謡、都市伝説、刑事ドラマ、世代研究、懐かしのアイドルを中心に執筆。「昭和歌謡[出る単]1008語」(誠文堂新光社)。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」連載。

関西ウォーカー

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