映画『岬の兄妹』「寓話として考えてほしい」衝撃の長編デビュー作を放つ片山慎三監督インタビュー

関西ウォーカー

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『岬の兄妹』のメガホンをとった片山慎三監督


ある港町を舞台に片足が不自由が故に職を失ってしまった兄・良夫が生活に困窮したことにより自閉症の妹・真理子に売春の斡旋を始める物語『岬の兄妹』が全国公開中。韓国のポン・ジュノ監督や山下敦弘監督の作品の助監督を務めてきた片山慎三監督の長編デビュー作で障がい、貧困、性、犯罪などの社会問題が幾重にも折り重なった作品となっている。またポン・ジュノ監督をはじめ多くの著名人が本作に賛辞を送り、『SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2018国内コンペティション長編部門優秀作品賞・観客賞』をW受賞、また上映館が拡大したりと大きな反響を呼んでいる。そんな本作の片山監督にお話を伺った。

【写真を見る】兄妹の印象的な花火シーン(C)SHINZO KATAYAMA


いまの映画業界では制約が多くなかなか思い描く作品を成立させることが難しいと話す監督は、今回自主制作という形で作品を完成させた。助監督経験から「スタッフの人数や、いくらくらいお金がかかるのか、何時間くらい必要なのかという最低限の予測で動くことができました」と振り返った。また、扱うのが難しい題材の本作「やっぱりインディーズ作品、自主映画なのであえて尖った内容をどういう風にどう見せていくのかを考えたい」と本作に対する意気込みを語った。「フィルムの感じが好きなので出来るだけフィルムっぽい質感になるようにできないかとか、あとタイトルの出し方とかは意識的にノスタルジックなものを入れようっていうのはありました。今はやらない、ダサくてやらないっていうのを普通にやるのが逆にいいんじゃないか逆にいいと思われるのではって色々考えました。内容もロマンポルノっぽい内容を意識しましたね」

売春のチラシがばら撒かれて幻想的なシーンに(C)SHINZO KATAYAMA


当初は兄・良夫の手により自閉症の妹・真理子が売春をさせられていたが、真理子は段々と性への快楽、1人の女性として認められていく快感を覚えて『お仕事』にのめりこんでいく本作。監督自身は売春に対して「物凄い『悪』というわけではないのでは」と投げかける。「世界最古の職業と言われていますからね。それほど人にとって売春とは密接なものだと思います。密接でどうしても無くせなくて、存在してしまうもの。僕自身、映画を撮って何か考えは変わったという訳ではないですが、逆に映画を観てもらって考えてほしいですね。罪は罪なんですけどそこまで深い罪として問うことはできるのか?と思います」という意識があったのだと言う。

友人に売春を咎められる(C)SHINZO KATAYAMA


また売春に手を染めてしまう理由として、良夫の失業し生活に困窮する場面があるが「貧困っていう問題はあるんですけど原因は兄妹なんですよ。『お前は足が悪いんじゃない、頭が悪いんだ』って咎められるセリフが好きですね。全くその通りだなって」と良夫が友人に売春を指摘され、非難されるシーンを挙げた。「『累犯障害者』というドキュメントの本があって、真理子のように障がいがありながら売春を繰り返してしまう女性いっぱい居て、刑務所に入って、出てきては売春して捕まって刑務所に入ってという内容で、彼女たちに罪悪感無いんですよ自分の承認欲求を満たすだけの1人の女の子というか。それで抜け出せないループにはまり込んで行く、そういう選択肢しか選ばざるを得ないというところを描きたかった」

自閉症の妹・真理子(C)SHINZO KATAYAMA


そんな承認欲求を満たすために真理子が売春を繰り返していくなか、1人の男性客に「好きだよ」と返事を受けて次第に真理子自身も彼を意識しだすようになっていく本作。しかし、そんな彼も愛しているわけではなく、良夫から真理子と結婚してほしいと懇願されてから拒絶していくようになる。その後の真理子が彼に会いたいと道で駄々を捏ねてしまうカットでカメラがぐぐっと兄妹に近づいて行くシーンが印象的な本作。「あそこはアドリブでカメラマンに指示を出しました。もう一回はできないなって思って。三脚に置いていたカメラを外して変な感じになって本来はカットしなきゃならないところなんですけど…泣き喚く演技がとても良いテイクで、荒々しい感じが出てたのですがなかなか切れなかったですね」と本来の台本以上の思いがけない仕上がりになったと語る片山監督。「あそこまで駄々を捏ねるのは予定になかったのですが、演じてもらっているうちに段々足りないと思ってしまって撮影中もらい泣きしそうになりました」と明かした。

インタビューの直前の舞台挨拶でも交わされた「ここまでの貧困の中、何故2人は福祉に頼らないのか」という意見について、監督は今作は寓話であると説明して、主人公が国の福祉を頼ろうと複雑な法制度の前に悪戦苦闘する2016年公開の映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』を挙げて「同じようにはしたくなかったです。福祉で働いている方からすれば現場はそうじゃないっていう批判もあるだろうし、自分としても日本の法制度や社会を批判するようなゴリゴリの社会派という作品にはしたくなかった」と語った。監督はあくまでも2人の兄妹の物語だとし「劇中に良夫はよく電話をしていますよね。最後にかかってくる電話を受けて兄妹はどういう選択をするのかというところも考えながら観てもらいたい」と述べてくれた。

次回作の予定はまだ未定だが「福祉はどうなっているのか?というツッコミがないような、それでいて、もう少したくさんの人が楽しめる作品にしたいです(笑)」と話した。

桜井賢太郎

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