アインシュタインのアバターで成績アップ！VRの最前線ってこんなにすごい

2019年4月25日

東京ウォーカー（全国版）

VR(仮想現実)技術についてのメディア向けセミナー「VRから創るパラリアル市場～バーチャルプラットホームに集う人々の新しいライフスタイル」が4月22日(月)、都内で開催された。

同イベントは、現実世界ではなく、VR(仮想現実)上で行われる展示会イベント「バーチャルマーケット」を主催するVR法人HIKKYが主催するもの。2019年3月に開催された「バーチャルマーケット2」では12万人以上が来場するなど、近年ますます注目されているVRを研究・活用する各分野の専門家をパネリストに招き、セミナーやパネルディスカッションが行われた。

MR映像で時短、アバター医師で“安心感”　医療に広がるXR

最初に登壇したのは、HoloEyes株式会社取締役COO、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員の杉本真樹氏。杉本氏は、VRをはじめ、AR(拡張現実)、MR(複合現実)も含めたXR(クロス・リアリティ)技術が医療にどう活用されはじめているかの事例を紹介した。

ひとつは、レントゲン写真やCT、MRI画像といったデータをもとに3次元データを作成し、MRゴーグルに表示することで空中や患者の体に重ねる形で医療データを見ることができる技術だ。

この技術を用いれば、モニターや紙に表示される平面情報ではなく、立体での情報を様々な角度から見ることが可能で、手術中、滅菌グローブをつけた状態であっても、ジェスチャーで好きな方向から動かせたり、表示を消すことができる。表示された情報は位置合わせをすればズレることがないため、血管や骨の位置をMRデータで体に重ねて表示することにより正確でスピーディーな手術が可能だ。Wi-Fiを用いて表示されているデータを各MRゴーグル間で共有することもできるという。

こうした情報は医師の育成にも有用だ。練習が難しい外科手術でも、立体情報により若手医師でも的確な動きができるようになり、また、バーチャルデータによる練習も可能となる利点がある。さらに、医師の指の動きのような暗黙知も、事前にセンサーでスキャンしておき、アバターに再生させることで、その場にベテランの医師がいなくともいつでも技術を引き出し、また伝承することができるのだ。

さらに、患者側も、本来は見えない背中の手術の様子や出産前の胎児を立体データとして見ることができ、納得や安心につながるという。独居の老人のケアでは、医師のアバターという臨場感により、テレビモニター越しでは聞き出せなかった患者の本音を引き出せたそうだ。

「変身」で能力向上　心を変えるアバター

東京大学情報理工学系研究科講師の鳴海拓志氏は「VRでしか起こらない話」として、人間の体と心の関係を取り上げた。鏡に映る自分の表情を、コンピュータで笑顔に加工して表示させると明るい気持ちになる実験を挙げ、心が体の影響を強く受けていることを説明。バーチャルに体のリアクションを作れば気持ちをある程度誘発できる可能性があるという。

鳴海氏は、VRなどを用いた身体拡張を通じて、人間の能力やコミュニケーションを変化させる工学的手法「ゴーストエンジニアリング」として研究。その一例に、好きな体を手に入れることができるVRアバターを用い、自尊心の低い人にVRでアインシュタインを模したアバターを使わせたところ、認知課題の成績が向上したことを挙げた。楽器を演奏する際も、サラリーマンのようなアバターとノリがよさそうな姿のアバターとで、手の動きの大きさや動作が変化したという。こういったアバターによるパフォーマンスが変化する「変身」を突き詰めれば、TPOに応じた外見の使い分けにつながる可能性がある。

こうした「変身」だけでなく、自分のアバターを複数表示させ、1人2役として振る舞う「分身」や、1つのアバターを複数人でシェアする「合体」など、仮想現実のアバターだからこそできる変化で、心を演出できるのではないかと話した。

その後行われた2つのパネルディスカッションでは、VR関連技術によってもたらされる未来の生活や、現実とVRを行き来するライフスタイルが市場として持つ可能性について議論が交わされた。