東京五輪に向け、世界選手権で「メダルを獲る勉強」。女子体操のエース・寺本が目指すもの
東海ウォーカー

「誰かのために体操をする」日本女子体操界のエースが東京オリンピックへの思いを語る
「選ばれて当然だと思っているし、選ばれた後のことを考えてやってきました。そこまでしないと代表に貢献できないし、メダルは獲れないと思います」
間近に迫った世界選手権の代表選考について、そう力強く語った寺本明日香。決して大言壮語ではない、これまでの実績と経験に裏打ちされた言葉は確信に満ちていた。
今年4月26日(金)から行われた全日本体操個人総合選手権。寺本は見事、ライバルである村上茉愛を破って4年ぶり2度目の日本一に輝いた。この全日本体操と、5月18(土)と19日(日)に開催されるNHK杯体操選手権は、その年の代表選考を兼ねるため、ある種独特の緊張感に包まれる。多くの選手にとって代表への登竜門になる大会だが、3度目のオリンピック出場、そしてメダル獲得への道筋をその視線の先に見据えている寺本にとっては、一つの通過点でしかないのだろう。16歳で日本代表に選出されて以降、長らく日本女子体操界を牽引してきた寺本に、来年に迫った東京オリンピックへの思いを聞いた。

「世界選手権で結果を出して、日本は強いというイメージを植え付けたい」
寺本にとって初めてのオリンピックは、若干16歳で出場した2012年のロンドンオリンピックだった。寺本自身、日本代表に選ばれるとは思っていなかったという。
「普通に試合をこなしたら代表に入ってしまい、世界選手権も普通に演技をしたらいい点数が出てしまった(笑)」
その勢いのままオリンピック代表の座をつかみ取ると、緊張で会場に飲まれることもなく、個人総合11位、団体8位という成績で初のオリンピックを終えた。4年後のリオオリンピックでは立場が一変。チーム最年長としてキャプテンに任命されたが、意識的にチームをまとめたわけではなかったという。
「私がキャプテンでしたけど、小さい頃からずっと一緒に試合をしてきた子達が代表メンバーだったので、小さい頃のままでチーム全体にジュニア感がありました」
明るく、元気な日本チームを「ワチャワチャしていた(笑)」と表現した寺本。チームワーク抜群の日本女子チームは、伸び伸びした演技で各選手が実力を発揮し、団体4位という好成績を収めることができた。さらに寺本は個人総合で8位となり、日本女子選手として52年ぶりの入賞を飾る。充実した大会を終えた後、残ったのはメダルまであと一歩に迫った達成感と悔しさだった。
「4位はすごくいい成績だったんですけど、やっぱり欲が出てしまうので、メダルがほしかったですね」
今までは夢でしかなかったメダルへの道が、手の届く現実的な目標に変わった瞬間だった。とはいえ、依然としてメダルへの道は高く、険しい。アメリカ、ロシア、中国のメダル常連3か国に加え、最近はブラジルも力を付けてきたためだ。
では、東京オリンピックで日本女子団体がメダルを獲得するためにはどうするべきか。寺本は4種目すべてに強いオールラウンダーが3人そろうことと、オリンピック前の世界選手権での成功体験が重要だと指摘する。
「世界選手権で一回”メダルを獲る勉強”をする。そうじゃないとオリンピックではメダルは獲れないと思います。今年の世界選手権でしっかり結果を残すことで、日本は強いというイメージを周りに植え付けたい」
寺本個人としては、東京オリンピックに向けて更なる演技構成のレベルアップに力を注ぐ。技にはEスコア(※演技実施の完成度を示すスコア)が減点されやすいものと、減点されにくいものがある。いかに自分に合った減点されにくい技をピックアップするか。必要なのは引き出しの多さだ。
「技の引き出しをたくさん持っておいて、その中から自分の得意技や、疲れている時でもできる技、Eスコアが減点されにくい技をピックアップして演技構成を作っていきたいと思います」

「浅田真央さんみたいな応援される選手になりたい」
最近は考え方にも、変化が生まれてきたという寺本。以前は結果が出ないとイライラすることもあったが「それを人が見ていてどう思うか」を考えるようになった。「結果が出なくても前向きに頑張っている選手の方が応援したくなるし、浅田真央さんみたいな応援される選手になりたい」とその理想像を語る。
プレッシャーへの向き合い方も上手になってきた。
「自分の試合を客観的に見て、観客ってこんなに気楽な気持ちで観ているんだって思うようになって(笑)。挙句の果てには、私のことなんか観てないだろうみたいな気楽な感じで演技をしていると、意外とプレッシャーが掛からないし普段の自分が出せるんです」
自身3度目、そして地元日本で開催される東京オリンピックへの思いは当然強い。しかし、結果以上に大事なことがあると寺本は語る。
「結果も大事だけど、自分が体操を楽しんでいることや、誰かのために体操をしているという感情が伝わればいいなと思っています」
こうした思いを抱くようになったのは1年程前からだという。きっかけは、ロンドンオリンピックの体操男子団体で銀メダルを獲得した田中和仁氏(現徳洲会体操クラブコーチ)の動画を見たことだった。
「現役を引退する時に、初めて人のために体操をすることがわかったっていう田中和仁さんの動画を見て、人のために体操をすることがどれだけ大事なことかを考えて、答えを探し始めました。正解かはわからないですけど、理解しつつあるので東京オリンピックの時には和仁さんが言っていた言葉の意味を全部理解して終えたいと思っています」
自分のためではなく、誰かのために体操をする――。東京オリンピックの晴れ舞台でその意味が理解できた時、自ずとメダルへの道が開けてくるはずだ。



中野幸信
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