香取慎吾「あまり見たことのない僕を、監督が引き出してくれた」映画『凪待ち』公開直前インタビュー
九州ウォーカー
香取慎吾主演、白石和彌監督の最新作『凪待ち』がいよいよ6月28日(金)に公開される。これに先立ち、6月21日、全国縦断完成披露上映会が福岡で開催された。この映画は宮城県石巻市を舞台に、“崩壊と再生”をテーマに描かれたヒューマンドラマで、“これまでにない香取慎吾”が見られるという話題作。上映会に先立ってマスコミ向けの会見が開かれ、見どころをたっぷり語ってくれた。

「ゾワゾワワクワクしながら役を楽しんだ」

ー作品ができあがって手ごたえはいかがですか。
香取「白石組に初めて参加させてもらいましたが、映画愛にあふれる現場でした。監督を長として、それぞれのスタッフが監督の指示のもと、みんなでぶつかりあって。『白石監督がいうからしょうがねぇあなぁ』なんていいながら動いている。作品への愛がスパークしている感じがありました。その白石組に入れて、僕はみなさんにアツくさせてもらった、そんな現場でしたかね。最初に脚本を読んだ時の印象と、映画になってから感じた印象との違いというのがいつもあって、それが今まで僕がやらせてもらった作品のなかで一番大きかったです。(脚本では読み取れなかった部分が)迫力ある映像で表現されていたところも多くありました。撮影現場で新たに感じることがたくさんある作品でしたね」

ー白石監督が今、この作品を撮ろうと思った理由を教えてください。
白石「今までの作品では加害者が転がり落ちていく映画が多くて、転がり落ちました、おしまい、という映画が多かったんです。転がり落ちてもセカンドチャンスがあって、人ってどっかでやり直せるんだという映画を撮りたいなとずっと思っていました。そして、撮影時は東日本大震災が起こって7年目の年でしたが、その今の東北を切り取りたいという気持ちがありました。香取さんはグループをやっている時から国民のオピニオンリーダーのようになって、被災地に行ったり、率先してボランティア活動をやっていたのを見ていました。香取さんと一緒にできると決まった時には、香取さんとだったら現地にしっかり向き合いながら人間ドラマを紡いでいけるんじゃないかと強く思いました。いろんなことを考えながらこの題材にたどり着いたという感じです」
ー白石監督というと、これまでの作品からバイオレンス中心のコワい映画かなと想像しますが、香取さんがオファーを受けられた時の感想を聞かせてください。
香取「僕は当初は白石監督を深くは存じ上げていませんでした。『日本で一番悪い奴ら』を拝見していたぐらいでしたね。ご一緒できるかもしれないとなった時に『凶悪』を観まして。あれ、これはとんでもない監督だなと(笑)。そのあと劇場で『孤狼の血』を観ました。映画が好きなので、それまで白石監督を知らなかった自分を残念に思いました。もっと早くから最新作を、そのタイミングごとに追いかけていたかったなと。今回は最新作に自分が入れて本当にうれしいです」

ー主人公の郁男は、今までの香取さんでは見たことがない、生々しい役です。チャレンジでしたか?それともワクワクして臨まれましたか?
香取「チャレンジというよりかはゾクゾク、ワクワクしながらこの役を楽しんだ感じでした。挑戦という意味でいうと、本当に『孫悟空』で猿になったりとか、ハットリくんになったりもしているんで(笑)。その挑戦と比べたら、人間なので(笑)。あまり演じたことのない役柄でもあるし、自分の年齢とも近い男ですから。日々、撮影はおもしろく、楽しめました」
「監督があまり見たことのない香取慎吾を、僕の中から出してくれた」

ー撮影を終えて、監督が改めて感じた俳優・香取さんの魅力やパワーについてお聞かせください。
白石「香取さんのことは、トップアイドルとして、エンターテイナーとしてずっと見ていました。お仕事をしてみると、アイドルであることはもちろんですけど、日本のトップ俳優だと感じました。落ちていく役ながらも色っぽさがそこはかとあり、存在感が大きい。また現場でも制作側の思いをよく受け取ってくださる。僕やスタッフ、共演者もみんな思ったと思いますけど、お芝居の作り方が素晴らしく、むしろ僕のほうが勉強することばっかりで、ご一緒できたことが幸せでした」
ー香取さんは郁男を演じるにあたり、自分の中からどういうものを出して、役に向かっていったのでしょうか。
香取「いつもそうですが自分の中から何かを出すというより、監督に見つけてもらって監督の指示通りに、こうしてほしいということをその場でやっていくという感じです。“あまり見たことがない香取慎吾”だと、今回みなさんがいってくれていますが、僕がどう作ったというよりかは、白石監督があまり見たことのない僕を、僕の中から出してくれたんだなと思っています」

ー現場で印象に残っていることは?
香取「ある重要なシーンがあったのですが、太陽やスケジュールの関係で急遽、『今、ここで撮ろう!』となって。『今?!』ということはありました(笑)」
白石「あはは、本当に申し訳ございませんでした(笑)。でもなんかそういうタイミングでしか撮れないものがあるのも映画で、それが事実なんです。不思議なんですけど。用意周到じゃないから生まれるエネルギーというのも当然ありますしね。しかしそう言いながらも香取さんは『えーっ』っていうこともなく、『わかりました』といってくださる。その上でパフォーマンスしてくれるのでだんだん僕のほうは気持ちよくなってきちゃって(笑)。台本にはないけどこういうこともやってもらおうとか。殴られるって書いてないけど、1発ぐらい大丈夫だろう、とか(笑)。僕にそうさせてくれる感じが香取さんにはあって、本当に楽しいやりとりだったと思います」
ー個性派のキャストがそろいました。キャスティングやほかの俳優さんについて、ひと言お願いします。
白石監督「香取さんやリリー・フランキーさんなど、いろんなジャンルで活躍している方にお願いするのは、生き方や考え方、人としての厚み、人間力が役に大きく投影され、役立つからです。そこがよいと思っています。この映画では過去にあったことはあまり説明しすぎてないので、そこは役者に頼る部分がすごく大きかった。みなさん、作品に深みをあたえてくれました。いいキャスティングだったと思います」
香取「僕はキャストのみなさんに引っ張ってもらった部分がいっぱいありますね。郁男は言葉数が多いほうではないので、ひと言のセリフで伝えなくちゃいけない。それ以外は表情だけで伝えなくてはいけない。そんな時、自分以上にまわりの方が動いてくれたり、言葉を発してくれたりすることによって、自分の感情が引っ張られたり、動き出すということが必要な作品だったから、まわりのみなさんの力で郁男が完成していった感じがします」
「白石監督に会えたことが表現者としての収穫」

ー香取さんは脚本を最初に読んだ時の印象を大事にしたいタイプとうかがいました。今の演技のスタイルを確立した経緯はありますか?
香取「実は、最初の印象を大事にして現場に入りたい、というようなきれいな感じではなく、ギリギリまで勉強しない、したくないという感じで(笑)。試験の前日または当日勉強を無理やりする感じのほうなんですけど、どんなに読み込んでも、本番が始まってカットまでの短い時間で、自分のパフォーマンスをどれだけぶつけられるか。瞬間が勝負だなと。100%の自分、さらに120%ぐらいで、監督の指示を超えられるものが、本番の声の瞬間にうまくできればなっていう。…という感じの言い方に変えています、今は(笑)」
ー香取さんがこの作品を通して得た、表現者としての収穫みたいなのがあれば教えてください。
香取「白石監督に会えたことですね」

ーギャンブル、勝負師、競輪。全体的に男っぽさが漂います。女性が観たくなるような一言をお二人からお願いします。
香取「監督もおっしゃっているように、ヒューマンドラマです。ギャンブルとかもありますが、人間たちの心の絆だったり、優しさとか苦悩があふれています。見終わった時には自分の人生と重ね合わせて、みんなで話し合えるような映画になっていると思います」

白石「いつもどんな映画撮っている時も登場人物に愛をそそいで、人間ってなんだ、ということをやっているつもりです。この作品がほかと違うのは、やはり主人公の郁男はそうですが、リアルにロケ地としてお邪魔した東北の人たちの心に“凪”の状態がきてほしいと感じたことです。社会が波立つなかで、ちょっとでも凪がきてほしいなと。それを救いといえるかはわかりませんが、そういう思いで作った映画です。見終わったあとに優しい気持ちになってくれたらいいなと思います」

映画「凪待ち」は6/28公開。福岡では中洲大洋映画劇場、ユナイテッド・シネマ福岡ももちなどで全国ロードショー。
【取材・文=山本陽子、構成・撮影=鶴田知子】
鶴田知子
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