掟ポルシェのしゃれとんしゃあ通信 〜Vol.1〜前編
九州ウォーカー
日本のサブカル界で異彩を放ち続ける掟ポルシェの新連載!ブログやツイッターでは語らない、“掟ポルシェの今”を赤裸々に語り尽くす居酒屋フリートーク企画「掟ポルシェのしゃれとんしゃあ通信」。あなたの知らない“もう一つの世界”はこんなにもおもしろい!
バンドでの収入は年収8千円くらい

--掟さんのことを知らない人も多いと思うので、掟ポルシェって何をしている人なの?ってところを、自己紹介も兼ねて教えてください。
掟ポルシェ(以下、掟)「『ロマンポルシェ。』というバンドをやっています。ロマン優光というちっちゃくて髭が生えている人と、ちっちゃくて長髪でサンバイザーの掟ポルシェと、ちっちゃい男二人でちまちまやっています。音楽的にはテクノポップというか、ちょっとなんか、見劣りする電気グルーヴみたいな。電気グルーヴを呼べない時の5番手ぐらいのポジションですね。そんな感じに思ってもらえれば」
--なるほど(笑)
掟「で、それがテクノポップバンドなんですけど、曲の合間に説教と称する喋りが入りまして、曲、説教、曲、説教という形で。その説教の内容が「男とは何か、男はどう生きるべきか」みたいなことを、完全に間違った形で伝えるという。で、そういうライブを始めたのが1997年なんですけど、『曲はさておき、説教の方が面白いので君コラムを書きなさい』ということになりまして。で、その、男の間違った価値観をコラムに表したものを雑誌などで連載するという仕事で2000年代初頭は食べてました。バンドの方は相変わらず売れず、バンドでの収入は年収8千円くらい。当時、CDをリリースした事務所ってのがありまして、インディーズだったんですけど、そこの事務所のマネージャーという人にいいようにガッツリやられてまして(笑)。搾取の嵐でしたね。吉本興業の比じゃないくらい。何やってもお小遣い程度しかもらえないみたいな」
--それは辛いですね(笑)
掟「で、そうこうするうちに、テレビの仕事もやるようになりまして。2006年に川を泳ぐところを見せるっていう意味不明な企画で。東海道五十三次を京都から東京まで逆走して、その間にある川を、橋を使わず泳いで渡る『男は橋を使わない!』っていうのを、フジテレビの『くるくるドカン〜新しい波を探して〜』という番組で半年やってました。それが一番メディア的には分かりやすい形で出たので、もしかしたらそういうのを観た記憶があります、みたいな人もいるかもしれません」
--あれは面白かったです。
掟「いまにして思えばあれが一般的人気のピークですよ。パチンコで言えばフィーバーしたけど2並びの単発小当たりだったみたいな人生で。あれが2006年なのでもう13年前ですね。バンドを始めて22年、テレビに出なくなって13年。もうすっかり無かったことになってるくらいなんですけど、まだ一応仕事はしておりまして、主な活動がツイッターでブスの悪口を書くこと」
--(笑)
掟「それは冗談ですが。何ていうんでしょう、いわゆるサブカルチャーって言うんですかね。いわゆるこう、みなさんが知ってるメインカルチャーではなく、いろんなサブカルチャー、例えばプロレスだとか、80年代のニュー・ウェイヴ音楽だとか、黎明期の日本のハードコアパンクだとか。それなりに歴史はあるんだけど誰もが知っているわけではなく、全国にファンが500人から5000人いるくらいのものに詳しいみたいな。アイドルなんかにもそれなりに詳しかったんですけど、昨今アイドルブームになりまして、それと同時に自分の興味もだんだんなくなっていって、あんまり今はもうよくアイドルのことはわからないですね。アイドルの曲だけかけるDJイベントとかもやってましたので、中にはアイドル好きな人として認識してくれている方もいますし、2005年くらいにPerfumeさんと一緒にイベントの司会として廻ってまして、Perfumeが売れてない頃によく行動を共にしてた人として、Perfumeの古参ファンの方々には知っていただいているかもしれませんね。そういう、細かいことをいろいろやってようやく食えている感じです。現在は、嫁の実家が福岡の天神で元々書店をやってまして、そこの仕事を嫁が一部手伝うことになり、2015年の3月から家族で福岡に拠点を移しました。東京にも仕事場を借りて月の半分はいるんですけど、基本的には福岡市の西区に、嫁と子供と犬と住んでる感じです」
--ムカデが出るというご自宅ですね。
掟「家の裏が山で、近くに海があったりで自然が豊か過ぎるんですね。なので、ムカデは出る、猿は出る、蟹はいる、蜂は巣を作る。変形さるかに合戦みたいですごい豪華です。最新情報だと、コガネグモっていう直径10cmくらいのでかい蜘蛛が庭に巣を作ってます。蜘蛛の巣がしっかりし過ぎてバレバレなんで虫全然ひっかかってないのが多少不憫です」
ちょっと怒られるくらいのことをやりたい

--福岡に住んでみてどうですか?
掟「福岡はサブカルが弱い街というか、自分みたいなものが住むには一番向いてない地方都市だと日々実感しています。でも、こうすれば自分にとってもう少し快適だというか、4年住んでるとそういうポイントもようやくわかってきましたね。福岡は郷土愛が日本一強い。自分の住んでるところが世界の中心=つまりメインだと思ってるから、『(福岡は)メインだから、世界の中心だから、サブカルチャーは要らないよ!』みたいな。驚くほどみんながかつてメジャースポーツだった野球をいまでも好んで観ているし、ソフトバンクホークスが大好き。みなさんが同じ方向を向いてるんですね。そんな感じなので自分みたいなのは全く仕事にならない。でもそんな中でも、自分のイベントやると30人くらいはお客さんが来てくれて、その30人だけ異常に熱心でサブカル知識が異常に豊富っていう(笑)。福岡に住んでいることに違和感を持っているその30人の人たちと仲良くやっています」
--福岡はカウンターカルチャーの中心がヒップホップとかレゲエとか分かりやすい感じですよね。
掟「正統派が好まれるんですよね。カウンターカルチャーにしろ、ちゃんと正統派でカッコいいど真ん中のもの。やっぱりこう、(自分は)基本はズルですから。やってること全て。今メインの仕事の一つなんですけど、DJをよくやってまして、アイドルの曲をかけて。普通DJの人って曲から曲をちゃんとスムーズに繋いだりするんですけど、自分の場合スムーズなつなぎを放棄して曲のド頭で全てカットイン、カットアウト。そして何をするかと言うと、とりあえず次の曲に繋いだら、DJブースにいないです。フロアに降りて、ちくわを使ってお客さんとポッキーゲームなどを楽しんでいます。そういう地味なお客さんに対する嫌がらせが、フェスものみたいな時に意外とうけまして。現在それによって息子の給食費などを払っています」
--DJの時とバンドの時は、音楽的には全然違うんですよね?
掟「『ロマンポルシェ。』の時は自分で作った曲を歌ってます。DJの時は、基本人の曲をかけてます。どっちかというとDJの方が楽です。人の曲なんで(笑)。人の曲だから自分で作るよりいい曲が多いです。人が作ったいい曲の集積でできてるので。自分が作った曲って捨て曲みたいなのがいっぱいあるじゃないですか。それに比べたら人の曲っていいですね。だからDJの方が安心しておすすめできるっていうか。万人受けします」
--フロアに向かってハムを投げるDJを初めて見て衝撃でした(笑)。
掟「そうですね。食品はとりあえず粗末にするっていう。ある程度、やってはいけないことをやらなきゃダメですよね。ちょっと怒られるくらいのことをやりたいんですよ」
--何かきっかけはあったんですか?
掟「1989年かな?ラ・フラ・デルス・バウスっていうスペインのパフォーマンス集団が日本で来日公演をやりまして。全身を白く塗って、見た目はリンゼイ・ケンプ・カンパニーみたいな感じなんですけど、やってることは凶悪で。狭い会場の中で暴れてお客さんを汚すんですよ。小麦粉とか水とか使って(笑)。小麦粉をパンストに入れたものを振り回して客を粉だらけにした後、今度は噴霧器みたいなので水を撒くとか。お客さんみんな帰りにはお好み焼きのタネ全身にぶちまけたみたいにドロドロになってるんですけど、何故か晴れやかな気持ちになってる。みんなちょっと汚れたいんですよね。子供が泥んこ遊びをするみたいなもんで。ちょっと汚れるのって気持ちいいんですよ。そういうのをお客さんに軽く味わってもらいたい。あと、大事なのは軽い危機感」
--ああ、いいですね(笑)
掟「それと同時に念頭にあるのは、プロレスの場外乱闘ですね。もう90年代ずっとプロレス観てましたので。しかも怪奇派と言われる、いわゆるレザーフェイスだとか、クリプト・キーパーだとか。なんかそういう覆面レスラーでおっかない感じの恐怖映画を元にしたマスクマンとか。ああいう人たちにチェーンソー持って追いかけられるとか(笑)。そういうのがほんと楽しかったんですよ。若干命の危険を感じるとか。絶対殺されるはずはないんだけど、でもなんか危ないかもしれないみたいな(笑)。ちょっと怖い、ちょっと舐めてると本当に殴られてしまうかもしれないみたいな。あの感じがたまらないんですよね。大好きで90年代はそういうのばっかり観てたんですけど、あれを、ラ・フラ・デルス・バウスのパフォーマンスの汚れる感じと、あとちょっとこう、ロックオンされて小走りで追いかけられたりする感じ、プロレスの場外乱闘の感じを一緒くたにして、それをDJに導入しているっていう」
--すごい!画期的ですよね。
掟「最初は普通にDJやろうと思ったんですよ。でも基本不器用なんで、やっぱダメなんですよね。そもそもアイドル歌謡曲ってアイドルが歌ってれば何でもアイドル歌謡曲なんで、曲調に統一性がないんですよ。四つ打ちのテクノとかだったら簡単にダンダンダンダンとリズムで繋げますけど、(アイドル歌謡曲は)BPMもはっきり決まってないし、繋ぐのが難しいんですよね、実は。だったらもう繋ぎとか無視してやったほうがいいなと。そういう結論に至りました」
DJってこんないい仕事なんだと思って

掟「2005年までは普通にDJやってたんですよ。2005年からちょっとこういうズルを導入するようになったんですけど、最初のうちはただお客さんを煽って踊るだけ。お客さんより自分の方が踊ってるっていう。そういうスタイルでやってました。ORANGE RANGEが売れかけの頃に、日比谷野外音楽堂という非常に大きな野外のライブ会場でORANGE RANGEなど7~8バンドくらい出る日曜日の昼間のイベントがあったんですよ。『申し訳ナイト』ってイベントを主催してずっと自分のことを使ってくれていた、ミッツィー申し訳さんという人がいまして、俺と二人で転換の15分ずつだけDJっていうのをやりました。転換15分DJって、本来、本格的なプロのDJだったら絶対やりたくない尺ですよね。かける曲の流れでフロアを盛り上げていったりしないといけないから。通常のテクノだとかは。ヒップホップでも難しいかもしれないですね。その短い時間にもっとも適していたのが歌謡曲だったんでしょうね。で、我々にお鉢が回ってきまして。ORANGE RANGEのお客さんなんてメインの客層は中学生女子なんですよ。中学生女子には3千円は大金だから、 3千円払ったら3千円払った分だけ楽しみたいですよね。その子たちも最初のうちはメインステージのライブだけ観てたんですよ。我々DJは客席真横のちっちゃいブースでやってたんですが、何とかこうお客さんを振り向かせられないかなと思って。お客さんに煽りを入れて、振り付けで踊らせるようにしたんですよ。同じ振り付けをやってみよう、みたいな。そしたら、最初こちらの存在に気付いてなかったお客さんが徐々に食いつくようになったんですよ。あ、これイケるなと思いましてね。最終的には、ORANGE RANGE観にきたお客さんが全員俺を観てました (笑)」
--おおお(笑)
掟「わあ、これは気持ちいいなと。あ、DJってこんないい仕事なんだとはじめて感じて。それまで人の曲かけるだけだし、しかもちゃんと繋がりよくかけられないし、ああ、なんかお金もらって申し訳ないなと思ってたんですけど、そこからDJでようやくお金をもらってもいいような気持ちになってきましたね」
--そのORANGE RANGEさんのライブに出るきっかけって何だったんですか?
掟「主催者から『申し訳ナイト』のミッツイーさんに要請があったんだと思います。それを観ててORANGE RANGEが気に入ってくれまして、ORANGE RANGEのリミックスとかも一時期やりました(笑)」
--すごいですね!
掟「ま、実際には俺はパソコンのDTMソフトも当時使えないし、リミックスする能力もまったくなかったんで、ミッツィー申し訳さんが、俺が酔っ払って爆睡してる間に怒りながら作ってましたけど(笑)あのときはすみませんでした!」
--あははは(笑)
※〜Vol.1〜中編(7/24配信予定)に続く

掟ポルシェ(おきて・ぽるしぇ):1968年生。男気啓蒙ニューウェイヴバンド『ロマンポルシェ。』&ひとり打ち込みデスメタル『ド・ロドロシテル』、アイドル曲オンリーDJ、コラム著述業、アイドルイベント司会等。
田崎紀之
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