ロカルノ国際映画祭にも出品! 「無実の加害者」に問われた女の復讐劇 映画『よこがお』深田晃司監督インタビュー

関西ウォーカー

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 カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門で審査員賞を受賞した『淵に立つ』(2016)の深田晃司監督が、同作で多数の賞に輝いた女優・筒井真理子を再び主演に迎えた最新作『よこがお』。一人の女性がある日を境に「無実の加害者」になってしまう人生の不条理さに、人はどう立ち向かうのかを描いた衝撃作について、深田監督に話を聞いた。

映画『よこがお』の深田晃司監督にインタビュー


女優、筒井真理子を通して、人間の多面性を描きたかった。


 誰からも信頼されるベテラン訪問看護師の市子(筒井真理子)。訪問先の大石家では介護福祉士を目指す長女の基子(市川実日子)の勉強をサポートしたり、家族とも良好な関係を築いていた。ある日、基子の妹・サキ(小川未祐)が行方不明になる。すぐに保護されるが、逮捕された犯人は、意外な人物であった。事件への関与を疑われた市子は仕事を追われ、ねじまげられた真実の波に呑まれていくのだが、葛藤の末、復讐を決意し、リサとなってある男と接触していく…

脚本段階から意見交換し、深田監督と濃密な共作を完成させた市子役の筒井真理子(c)2019 YOKOGAO FILM PARTNERS & COMME DES CINEMAS


 身に覚えのないことで、人生が不利な状態に追い込まれるという誰にでも起こりうるかもしれない出来事を描いた今作は、筒井真理子ありきの作品だったという。「『淵に立つ』で、毎日映画コンクールの女優主演賞の授賞後のインタビュー取材で撮られた筒井さんの横顔の写真がとても美しかったんです」と監督。この直後から、筒井真理子を主演にした作品を撮ろうと動き出した。「最初は女性3人の運命が絡み合う群像劇にする案があったのですが、やはり筒井さんとやる以上、市子にフォーカスしたものにしようとプロデューサーとも一致した。じゃあ、市子が犯罪に巻き込まれる? 誰かが誘拐されたら? 最初は基子が雑誌記者で取材相手として市子に近づいて来たらどうだろう、とあれこれアイデアを練りました」と企画当初の裏話も飛び出した。しかし、最終的に、一度には見ることのできない人間の複雑な多面性を描くことをテーマに決めたという。

 その多面性を生みだすために、過去と現在を交互に見せながら、やがて4年後の結末へとつなげるトリッキーな構成を仕掛けた。「これは、自分の中でも初めての試みでしたね。過去を現在の説明として使うのではなく、過去も現在も市子を描くためのものにしたかった。これは、タイトルの『よこがお』にも関わることですが、横顔って、見えているのは片方だけだけど、確実に存在しているのがもう片方。2つを一つに並べることで、人間の多面性や奥行きみたいなものが見えるようにできないかという思いがありました」と語った。「ただ、順撮りではなかったので、今どれくらいの怒りなのか、悲しみなのかという感情のメモリ、ボリュームをコントロールしていくのは課題でした。筒井さんほどの俳優になると、怒っているぞ、という演じ方はしないので、思うように演じてもらい、必要に応じて加減を調整させてもらいました。でも、筒井さんの演技が面白かった時はそのままOKを出しています。これは、本当に繊細な共同作業でしたね」と振り返る。

過去作でも繰り返し挑んできた「加害者と被害者」というモチーフ


 今作は、市子に近しい人が加害者となり、市子までもが加害者として責められる絶望的な展開を描いているのだが、監督は、なぜこのテーマを選んだのだろう。「犯罪に巻き込まれるといった題材を扱う以上、どうしても加害者・被害者というテーマは避けては通れないんです。でも、考えてみると『淵に立つ』でも『さようなら』(2015)でも、毎回このモチーフがでてくるんですよね。繰り返し描いている以上、自分にとって重要なテーマなんだと思います」と監督。

市子は世間から加害者側のレッテルをはられるが、自身は世間から追い詰められた被害者でもある。そして、追い詰める側もまた、感情のままに相手を振り回し痛めつける加害者になる。「そういう二面性は、誰もが持っているものだと思うんですよね。私たちは加害者になったらずっと加害者ではないし、被害者になってもずっと被害者なわけじゃない。でも社会はそれぞれの役割を押しつけてくる時がある。加害者も被害者もうつろいやすいもので、その境界はあいまいです。私たちは、明日、加害者にも被害者にもなるかもしれないという視点をこの作品では描きたいという思いがありました」。

筒井真理子と対峙することのできるふたりの役者が、物語をより厚く、濃密に。


 市子に恋心を抱きながらも、市子を振り回す基子を演じたのは、深田作品初参加の市川実日子。「筒井さんと対峙しても負けない存在感のある人、基子の持っている影のようなものを存在そのもので演じられる人、ということでお願いしました。でも、市川さん本人がものすごく陽気! 底抜けに明るい人だったというのがびっくりでした(笑)。でも、カメラの前に立つと、すっと影が出てくるんです」とギャップを楽しそうに話す監督。

 また、基子の恋人で市子と深くかかわってくる美容師・和道を演じる、こちらも深田作品初参加の池松壮亮もまた「本人は20代後半なのに30代後半のような落ち着き方で、役の人物像に奥行きが出たと思う。この和道と市子が組むことで大人の物語になりました」と絶賛。「当初和道はもっとチャラくて薄っぺらい若者という設定だったんですよ。でも、それでは面白みがないということで、脚本のイメージを裏切って、肉付けしてくれそうな池松さんにお願いしました」と話してくれた。

市子の復讐劇のターゲットのひとり、和道(c)2019 YOKOGAO FILM PARTNERS & COMME DES CINEMAS


「何度見てもいいシーンだと思う」という、やっと叶った念願のシーンとは?


 監督が以前からずっとやりたかったシーンがあるという。それは顔を影にして、登場人物の表情を隠してしまうこと。今回は、市子と基子が夜の公園で相談をするシーンに使われている。「あそこはすごく好きなシーンです。何度も見てもいいシーンだなと思うんです」と監督。夜の公園で市子が基子に自分の身の置き所を相談する重要な場面だ。「基子の顔を隠すことで、なにを考えているかわからない緊張感を出したかった。漫画ではよくあるのですが、映像で顔を影にするとなると、よっぽどの逆光でないと黒くはならない。今回は、撮影の根岸憲一さんと照明の尾下栄治さんに相談して、やっと念願かなって実現しました。基子の顔が見えないことで、観る者は、いろいろな想像が膨らむ。余白を作るために黒くした感じですね」。その狙いは見事にはまり、基子の不気味な黒い影に、観客は、これからの不穏な空気を読み取ることになるのだ。

 また、市子と基子がふたりで動物園を散歩するシーンでも、重要な告白が行われる。「動物って映画的。次の瞬間どう動くかわからないのが面白い。長話をさせるシーンでもあるし、ふたりはちょっと性的な話もするんです。動物園では人も野生に近づいて、生きること、ちょっとむき出しの人間の姿に近づくという、そういう意味合いもありますね」と監督。撮影する動物も生態を調べてから決めたそうで、「サイとフラミンゴは必須でした。特にフラミンゴは、不安定な形で立っていて、しかも、動物園には屋根がないのに飛んで行かない。飛べる動物が飛べない状態でずっとそこに居続けるということの悲しさみたいなものを、伝わらなくてもいい程度の暗喩として取り入れました」と振り返った。

市子と基子。2人の関係が複雑に絡まる(c)2019 YOKOGAO FILM PARTNERS & COMME DES CINEMAS


ロカルノ国際映画祭では最優秀女優賞を狙ってます!


 『よこがお』は、8/7(水)~17日(土)にスイスで開催される「ロカルノ国際映画祭 国際コンペティション部門」に出品されることが決定している。「ロカルノは、近年一番行きたかった映画祭だったんです。賞を獲得している作品はどれも本当に面白い。作品重視で選んでいるなと思うし、選ばれた作品は世界トップクラスだと素直に思える。リスペクトしている日本の親しい監督たちもすでに行っているので、ほんのちょっとだけコンプレックスもありました。だから今回やっと届いた!という感じです。最優秀女優賞は、筒井さんに絶対に取ってほしいなと思ってます」とロカルノへの熱い思いで締めくくった。

「やっとロカルノへ!」という言葉に喜びがあふれる深田監督


映画『よこがお』は、7月26日(金)より、テアトル梅田、なんばパークスシネマ、シネ・リーブル神戸ほか、全国ロードショー。

■映画『よこがお』公式HP

yokogao-movie.jp

田村のりこ

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