オリンピックで世界を驚かせるか!?ハンドボール界のサラブレッド・東江雄斗
東海ウォーカー
東京オリンピックで実に32年ぶりとなる出場が決まっている男子ハンドボール日本代表、通称「彗星JAPAN」。「フィジカルで劣る日本人には不利」と言われ続けてきたスポーツだが、一人の男がその歴史を変えようとしている。代表チームの司令塔、東江雄斗。オリンピックに向けて掲げた目標を果たすため、心身共に鍛えるプログラムに打ち込んでいるというその表情は、自信に満ち溢れていた。

ハンドボールと共に育ち、オリンピックの舞台を目標に進み続けた道
2016年に名門・大同特殊鋼フェニックスに加入した東江雄斗は、持ち前のオフェンス力を生かし、社会人1年目から活躍を見せた。全日本社会人選手権の最優秀新人賞を獲得したほか、2016-17年の日本ハンドボールリーグでは得点王、最優秀選手賞、ベスト7を受賞。さらにはプレーオフで殊勲選手賞に選出された。
父親はハンドボールの元実業団選手、母親も国体選手という、ハンドボール一家に生まれた東江。また、兄の太輝選手も現役のハンドボールプレーヤーだ。そんな環境で育った東江は、中学時代の沖縄県選抜以降、常にチームの中心選手として活躍してきた。”ハンドボール界のサラブレッド”と形容して差し支えのない経歴を持つ一方、甘いマスクとすらりとした長身でも話題を集めている。
日本リーグでのルーキーイヤーにタイトルを総なめにし、期待に違わぬ活躍を見せた東江だが、初出場した2017年世界男子ハンドボール選手権で世界の壁にぶつかり悔しさをにじませるなど、すべてが順調な道のりではなかった。
「世界との差を一番感じたのは、やはりフィジカルの差です。パワーが海外の選手に比べて半分以下で、当たり負けしてしまう。東京までの3年間で、日本人の特徴であるスピードを維持しながら、当たり負けしないフィジカルを作ることが課題です」
そう語るとおり、フィジカルトレーニングを重点的に行なってきた東江。この2年間で積み重ねた成果は、たくましさを増したフィジカルだけでなく、東京オリンピックへの決意を語る精悍な横顔と言葉の力強さに表れていた。

“世界一”の監督のもとで成長を続けるハンドボール日本代表。「世界の強豪国との差は埋まっている」
ハンドボールは激しいボディコンタクトがある競技だ。対格差がプレーを大きく左右する。それゆえ、バスケットボールやラグビーなどと同様に、身長2m、体重100kgを越える選手が多くいる諸外国と比べると日本人にとって不利なスポーツと言われてきた。事実、男子代表は1988年以降、オリンピックの舞台から遠ざかっているのだ。
日本男子のオリンピックでの成績は、1976年のモントリールオリンピックでの9位が最高位。開催国枠で出場することが確定している2020年の東京オリンピックでは、それを越える「決勝トーナメント進出」を目標に掲げている。その実現に向け男子代表チームは、2016年欧州男子ハンドボール選手権優勝、リオオリンピック銅メダル獲得と、ドイツ代表チームで輝かしい実績を残し、IHF 世界最優秀監督賞を受賞した名将、ダグル・シグルドソン氏を招聘、改革を託した。
しかし “世界一”を知る監督といえども、就任の1カ月前に行なわれた世界選手権で出場24カ国中22位と低迷するチームを劇的に強くする魔法はない。日本の実業団でのプレー経験を持ち、日本の特性と世界トップレベルの両方を知る指揮官は、日本人選手の「スピード」という武器を生かしながら、世界との差を埋めるための「フィジカル、メンタルの強化」にひとつずつ取り組んできたが、昨年のアジア男子ハンドボール選手権では6位に沈み、上位4カ国に与えられる世界男子ハンドボール選手権出場の切符を逃した。その後、ワイルドカード(主催者推薦枠)を得て、今年 1月にデンマークとドイツで開催された世界選手権に出場したものの、結果は7戦全敗の最下位(24位)。目に見える結果を出せずにいた。
それでも、2度目の世界選手権を戦った東江は、“内容”に確かな手応えを感じていた。
「結果だけを見るとふがいない成績ではあるのですが、課題も、成長している部分もはっきりと見えました。ヨーロッパの強豪国と同じグループリーグで戦って、前回(2017年)に比べるとすごく差が埋まったなと感じています。1点、2点を争うゲームも何試合ができました。大事な場面で、個人としてもチームとしてもメンタルの弱さが出て勝利をもぎ取ることはできませんでしたが、戦える場にたどり着けたということが自信になりました」
世界選手権の第3戦では、ヨーロッパ予選1位通過のスペインと対戦。前半を11-10とリードして折り返すが、後半の立ち上がりにスペインの猛攻にあい12-16と突き放される。東江の連続得点で再び2点差に詰め寄ったが、終盤、決定的な場面でのシュートミスなどが響き、22-26で敗れた。続く4戦目のダグル監督の母国・アイスランドとの対戦でも、残り10分を切ったところで1点差まで喰らいついたが、そこから3連取されて、21-25で振り切られている。

メンタルトレーニングで得た成果を糧に、オリンピックで結果を残す
「前回の大会ではDFとDFの間を突破することができなかったのですが、今回はDFとDFの間を割りにいくことができましたし、強豪国相手に通用するプレーが増えたと実感しています」
フィジカル強化の成果を肌で感じることができた反面、国際舞台での経験不足や勝負所でのメンタルの弱さが露呈した日本は、今年3月から新たにメンタルトレーニングを取り入れた。
「『メンタルとは?』という講義から始まり、試合に挑む姿勢や気持ちの継続させ方などを学びました。メンタルの部分は今までトレーニングをしてこなかった部分なので、新しくて、非常におもしろかったです。東京オリンピックまでに『自分はどうなりたいんだ』という目標を細かく書き出したり、試合の映像を見返して、この場面ではどういう気持ちだったかをチーム内で議論したりもしました。振り返ってみると、みんなからマイナスの言葉がたくさん出てきて。それをプラスに捉えられるように変えていこうと取り組んでいます」
「フィジカル面と違い、メンタルの成長は目で見てわかるものではない。試合で実際にやってみないと成長しているかわからなかったんですが、それが日韓戦で非常にいい成果として出ました」
6月に行なわれた日韓定期戦。日本は2016年にバーレーンで行われたアジア男子ハンドボール選手権以来、3年ぶりに強豪・韓国から勝ち星を挙げた。リードしながら、終盤に逆転されるという“悪癖”を克服し、後半だけで23点を奪う快勝だった。また、9得点をマークした東江は「Man of the Match」に選ばれている。
東京オリンピックに向けて、地道に積み上げてきたことがようやく結果につながった。雌伏の時期を過ごしてきた「彗星JAPAN」は、チームに確信をもたらす歴史的な一勝を手にした。これまで培ってきたフィジカル強化と“勝者のメンタリティー”をさらに積み上げることで、日本代表チームは1年後の東京オリンピックで世界を驚かす存在になるだろう。もちろん、そのタクトを振るのはこの男、東江雄斗だ。
「オリンピックという大きな舞台を自国開催で体験できるのは、一生に一度のことだと思うので、すごくモチベーションが上がります。オリンピックで最高のパフォーマンスを発揮して、チームを引っ張っていきたいです」
「出場するからには結果を残したい、そしてメダルを獲得したいという想いがあります。そのためには、まず予選リーグで1勝以上すること。それから決勝トーナメントに進出して、ヨーロッパの強豪国に挑戦するというのが今の目標です」
”ハンドボール界のサラブレッド”が牽引する「彗星JAPAN」が、東京の大舞台でどんな戦いを見せてくれるのか。今から期待が高まるばかりだ。

山田 智子
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