連載第30回 2018年「愛しあってるかい!名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史」
東京ウォーカー(全国版)

おもしろいドラマが、好きでーす!!
冬季平昌オリンピックでカーリング女子チームの言った「そだねー」が流行語となった2018年。映画では是枝裕和監督の「万引き家族」がカンヌ最高賞に輝き、予算300万円の「カメラを止めるな!」が大ヒット。音楽ではDA PUMP「U.S.A.」と米津玄師の「Lemon」が毎日のように鳴り響き、安室奈美恵さんの引退、西城秀樹さんの訃報に多くの人が涙した。「なにより平成がもうすぐ終わる、そう意識した1年ですよね。ドラマも、変わりゆく時代を感じつつ、人の心の機微を繊細に描いた作品が多いです」と影山貴彦氏。いざ、まだ記憶に新しい、数々の名作をプレイバック!
LGBTのドラマを変えた「おっさんずラブ」
―では、2018年の超話題作であり、映画も大ヒットした「おっさんずラブ」からいきましょう。
はい。先日、続編放送が決定したことも発表されましたね。「おっさんずラブ」が生まれたことによって、ドラマにおいてのLGBTの描き方だけでなく、世間での受け止め方が大きな変化を遂げました。これはすごいことです。テンポのよい進行に笑いながらドラマを見ているうちに、気が付けば、純愛として応援していました。主演のはるたんこと春田創一を演じる田中圭さんの存在は大きいです。彼のいかにも現代っ子的なあっけらかんとした魅力が、このドラマを成功させたといっても過言ではありません。部長役の吉田鋼太郎さんは、演技力はもう言わずもがなで、ある意味おいし過ぎる役回りでした(笑)。そういった意味では、一番難しい立ち位置で、うまさの光った林遣都さんがこのドラマの功労賞かもしれません。しかも真面目さが妙な色気になっていて、大好きな役者さんです。春田の幼馴染である、内田理央さんの演じたちずの存在も、絶妙なリアル感を出していましたね。ちずも春田が好きなのですが、男性の牧をライバルとしてしっかり意識し、向き合うわけです。この相関図はとても重要で、彼女がいるからこそ「真剣な愛の前には、男女の差はないんだ」というドラマの大きなテーマが伝わってきました。
ただ、「おっさんずラブ」の平均視聴率は4.0%(視聴率はビデオリサーチ調べ、関東地区・世帯・リアルタイム)なんです。数字だけ見れば、深夜枠なので失敗とは言えませんが、大成功でもありません。ただ、私が当時、この「おっさんずラブ」について「今はゴールデンタイムよりも深夜の方が元気ですね」と取材を受けることが多くなっていました。テレビドラマはもうSNSの反響やDVDの売り上げなど、ヒットのバロメーターが多種多様にあり、視聴率だけで判断する時代ではなくなった、ということを完全に証明したドラマだったと思います。
「おっさんずラブ」の翌年、2019年にはやはり同性愛をテーマにした「きのう何食べた?」が大ヒットします。テレビ東京の担当の方とお話する機会があったのですが、「きのう何食べた?」は原作マンガがヒットしていたので、何年も前から上層部に企画書を出し、保留にされ、また企画書を出し…を繰り返していたのだとか。その裏話を聞くと、あくまで想像ですが、2018年、「おっさんずラブ」がヒットしたことで、「きのう何食べた?」の企画が通ったともじゅうぶん考えられますね。こうやって名作が連鎖的に生まれるのは、とても嬉しいことです。
テーマがリアルであるほど描き方が難しい「健康で文化的な最低限度の生活」「隣の家族は青く見える」
―2018年は、「おっさんずラブ」の前にも「隣の家族は青く見える」で、同性愛のカップルが描かれていましたよね。
「隣の家族は青く見える」も大好きだったドラマです。購入希望者が意見を出し合いながら自由設計する「コーポラティブハウス」という独特の集合住宅を舞台に、いろんな問題を組み込み、巧妙に描いていました。深田恭子さんと松山ケンイチさんが演じる妊活に励む夫婦を中心に、4世帯の家族がそれぞれ悩みを抱えている。その1つに、男性同士のカップルがいました。その他にも子どもを作らないと決めたカップルが、男性の前妻の子どもと急に一緒に住むことになって戸惑ったり、夫が失業し、家庭内がかなりギスギスしているのに、幸せを装う家族がいたり。難しいテーマを「すぐ隣にいる」という設定で描いていたのがよかったです。
―そういった意味では「健康で文化的な最低限度の生活」もそうでした。
こちらは生活保護問題がテーマで、主人公がケースワーカー。これはあらゆるエンタメにも当てはまりますが、生々しいテーマほど描き方が本当に難しい。「健康で文化的な最低限度の生活」についても、放送時には、関西テレビに様々な意見が届いたと聞きました。「リアリティがありすぎて、見ていてつらい」、またそれとは逆に「もっとリアルに描いてほしい」という意見もあったとのこと。私が知る生活保護の現場はこんなもんじゃない、というわけです。リアルな問題を取りあげると、視聴者は「ドラマである」というフィクションの視点を忘れてしまうことが多いんです。でも、フィクションを交えて発信するからこそ、ほんの少しでも良い風に変わることもある。社会問題をまっすぐに描いた「健康で文化的な最低限度の生活」は、おおいに評価されるべきだと思います。
働き方と結婚の新しい価値観を問うた「獣になれない私たち」「義母と娘のブルース」
―「獣になれない私たち」はパワハラ問題が描かれていました。影山さんは、水田伸生監督から興味深い話をお聞きになったそうですね。
そうなんです。「獣になれない私たち」では、主人公、晶を演じる新垣結衣さんが、上司のむちゃくちゃなパワハラに苦しむシーンが話題になりましたが、あのパワハラ上司・九十九のキャラクターは、関西では評判が良かったらしいんですね。東京では最悪だったらしいのですが。関西と関東の意識の差というか、まだまだ我々関西人は、全国的に「関西弁は怖い」と思っている人が多いということを忘れてはいけないなと(笑)。関西からしてみれば「なんで関西弁の愛嬌がわからへんねん!」という感じで、これまた愛すべきキャラなんですけど。コミュニケーションの地域差を感じたエピソードでした。
そして、ひとつ私が声を大にして言いたいのですが、このドラマの主人公がそうでしたが、真面目な人は、パワハラを受けていてつらくても、そこからなかなか動けないんですよね。でも、逃げていいんです。パワハラでは全くないんですが、私自身、仕事がハードでどうにも心も体もついていかなくなって、信頼できる上司に訴えたことがあります。しかも、やりたくて仕方がなかった放送の仕事で、でした。同じ条件で頑張っている同僚もいたので、すごく悩みました。けれど、声に出したんです。すると、上司が私の話を聞いてくれて状況がいい方に変わりました。あのときの経験からも、逃げにくいならせめて「しんどい思いをしている」と誰かに言うだけでいい。我慢して我慢して周りに相談できないほど、思考回路がショートしてしまうほど追い詰められてからでは、もう動けなくなります。その前に声をあげていいんだ、と伝えたいですね。
―「義母と娘のブルース」は、契約結婚を取り上げていましたが、こちらも働き方や親子のありかたの変化など、時代性が出ているドラマでした。
契約結婚は「逃げるは恥だが役に立つ」もありましたね。「義母と娘のブルース」では、竹野内豊演じる宮本良一は、自分の死期を悟り、娘の面倒を見てもらうため綾瀬はるか演じる亜希子と結婚するという、よくよく考えれば、かなりとんでもない設定(笑)。しかし、そこから愛が深まっていく展開が本当に素敵で、毎回楽しみに見ていました。私が特に好きだったのは、PTAのママ友エピソード。亜希子は、運動会の準備を効率的に進めようとするのですが、10年以上PTA会長をしている、奥貫薫さん演じる矢野晴美とやり方でぶつかってしまうんですよね。この流れでありがちなのは、古い体制やプライドにしがみついているPTA会長をぎゃふんと言わせて終わり、というパターンですが、このドラマは違いました。晴美もちゃんと自分のやるべきことをやり、誰も目につかないところで頑張っているシーンがちゃんと描かれていたんですね。優れたドラマは、目線が一方向だけではない。出演者それぞれに命が宿っているんです。「義母と娘のブルース」はまさにその例でした。
石原さとみの冷静さ、麻生久美子の姉貴感、大政絢の粋
―この年、注目した俳優、女優さんを教えてください。
「アンナチュラル」の石原さとみさんと市川実日子さんは最高でしたね! 特に石原さんは、よくぞこの作品に出会えたと思います。これまで「地味にスゴイ! 校閲ガール 河野悦子」のような、突き抜けた明るさが持ち味でしたが、「アンナチュラル」は一転してストイックな芝居が良かった。新しいステージにステップアップされたな、と思いました。市川実日子さんは、そこはかとない色気の持ち主。大好きなんですよ。すごく文学的な香りがして。共演者の明るさを際立たせる、やさしい影を持った人です。山田孝之さん、菅田将暉さん主演の「dele」に出演していた麻生久美子さんも、文学的な美しさを感じる俳優さんですね。すごい包容力を感じます。温かさが内包されたクールさを持った、「永遠の姉貴」といいましょうか。ハンサムウーマンですよね。そしてもう一人、「昭和元禄落語心中」の大政絢さん。本当に粋で、凄まじい美しさと色気を放っていました。大政さんは、これからどう飛躍していくか注目している俳優の一人です。この人の持っている知性漂う艶めかしさは、とても貴重だと思っています。
新しい時代の風を含んだ懐かしい名作「今日から俺は!!」
2018年は、もう新しい時代が芽を出していました。2017年12月に、2019年4月30日をもって平成が終わることが正式に決定されていましたから、それを前向きに準備できた、歴史に残るべき1年ですよね。ドラマにも、そんな歴史の境目を感じる変化が出ていた気がします。この年は「今日から俺は!!」という1988年から1990年に連載された少年マンガの実写化が大ヒットしましたが、これもノスタルジーだけだったら、誰も見向かなかったでしょう。現代のテンポ、現代の笑いがしっかりと組み込まれていたからこそ。昔大ヒットしたからといって、そこに頑固にしがみついていても、視聴者は振り向いてくれません。エンタメはどんなものでも「今」になっていることが大切なんです。

【著者プロフィール】影山貴彦(かげやまたかひこ)同志社女子大学 メディア創造学科教授。元毎日放送プロデューサー(「MBSヤングタウン」など)。早稲田大学政経学部卒、ABCラジオ番組審議会委員長、上方漫才大賞審査員、GAORA番組審議委員、日本笑い学会理事。著書に「テレビドラマでわかる平成社会風俗史」(実業之日本社)、「テレビのゆくえ」(世界思想社)など。
【インタビュアー】田中稲/ライター。昭和歌謡、都市伝説、刑事ドラマ、世代研究、懐かしのアイドルを中心に執筆。「昭和歌謡[出る単]1008語」(誠文堂新光社)。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」連載。
関西ウォーカー
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