はーこのSTAGEプラスVol.67/今、観ておくべき「白鳥の湖」「バレエ・アム・ライン」初来日
関西ウォーカー
演劇ライターはーこによるWEB連載「はーこのSTAGEプラス」Vol.67をお届け! 今回は、注目のバレエ来日公演をご紹介します!
あの『白鳥の湖』とは、まったく違う『白鳥の湖』がやってくる。9月20日(金)・21日(土)の東京公演を経て、もうすぐ兵庫県立芸術文化センターで上演される「バレエ・アム・ライン」の初来日公演だ。

バレエ団近くにライン川が流れるドイツのバレエカンパニーで、芸術監督・首席振付家はスイス出身のマーティン・シュレップァー。先に言っておきます。『白鳥の湖』は「絶対に白いタイツとチュチュで夢のように美しく踊ってくれなくちゃイヤ!」と、通常とは違う『白鳥』を『白鳥』と認めたくない人は、これ以降を読む必要はありません。さようなら。

では、続けます。
白いタイツも履かず、チュチュも着ない。白鳥たちは素足で踊る。シンプルな衣裳は役柄を明確にしない。それに登場人物、多すぎない? こんな人いた? という舞台が「バレエ・アム・ライン」の『白鳥の湖』。シンプルなセットのなか、ものすごく力強くて、スピード感があり、スタイリッシュな『白鳥』の世界。
ここで「あぁ、コンテンポラリーダンスね」と簡単に納得しないように。音楽はチャイコフスキーの原典版を使用、物語のベースはオリジナル台本。要するに、1877年にボリショイ劇場で初演した原典版のオリジナルバーションをもとに、“古典”と“モダン”を融合させて創作した舞台なのだ。これ、今回の作品の肝。でも「??」「だから?」という人もいるだろうから、ちょっと説明を。

ポイントは音楽と台本
まず、今『白鳥の湖』と聞いて「あぁ、あの」と思う『白鳥』は、ほとんどが1895年に振付師・プティパと弟子のイワーノフによって改訂された作品。ボリショイの初演は、チャイコフスキー初のバレエ音楽だったのに、すごく不評で作品は日の目を見なかった。チャイコフスキー、かなりヘコんだとか。でも、再構成し、物語にも手を入れたプティパ/イワーノフ版で現在も生きている。が、『白鳥の湖』の舞台を、チャイコフスキーの原典版音楽で観た人はほとんどいない…。
その音楽を、小澤征爾指揮・ボストン交響楽団の原典版録音で聴き、「ものすごい勢いと力を持ちつつ、大変美しい。小澤氏はチャイコフスキーの楽譜に忠実に演奏している。この音楽だったら、私の『白鳥』が作れる」と感銘を受けたのが、
マーティン・シュレップァー。「プティパとイワーノフの素材を含むチャイコフスキーのバレエに、私は一切興味がない」と言い放つ人が、だ。
だからこそ、シュレップァーは敢えて改訂前のオリジナル台本を使用。チャイコフスキーが創造した物語と音楽でオリジナルを再現、作曲・構成した曲順とテンポのままに振付して作り上げた。
物語とキャラクター
※プティパ/イワーノフ版の物語を知らない人は検索してくださいね。
村の娘・オデットが悪魔・ロットバルトに魔法をかけられ白鳥にされる、という通常の物語の基本から違う。オデットの母は妖精で、祖父の反対を押し切り騎士と結婚。が、父は母を死に追いやり、フクロウに変身できる邪悪な魔術師と再婚、オデットと彼女の友人たちは継母の手先ロットバルトに捕まえられ白鳥に変えられる。祖父は娘の死を悲しみ、湖の底から夜には人間となる孫たちを見守る。
通常の物語を知ってる人は「へええ~!?」だよね。オデットと恋に落ちるジークフリートは上品で周囲からリスペクトされてる、わりと普通の奔放な若い王子。独り身の女王の母親とは仲が悪く、周囲の期待にプレッシャーを感じ自分の世界に反抗的。王子の結婚相手選びに集まるお姫様たちも、しっかりした意志と自信を持つ、自立したモダンな女性。女王の側近・儀式の長も大事な役だし、オディールは継母とロットバルトが魔法で造り上げた人型で…。
オデットが、自分に永遠の愛を誓い結婚してくれる男性を見つけた時、継母の影響から逃れられる。で、ラストはハッピーエンドか否か?? ま、このぐらいにしておこう…。

「筋の通った話にするため、登場人物を作品を通して描くように努め、それを実現するために第1幕・第3幕の何か所をカットしました。身体、動き、振付を通して物語を語りたい」と話す、シュレップァーの演出も大きな見どころだ。
また、オデットを踊るのはマルルシア・ド・アマラル。『白鳥の湖』での演技が評価され、ドイツ舞台芸術界のアカデミー賞とも言われるファウスト賞2019にノミネートされた注目のダンサーだ。
【アンバサダー・真飛 聖より】

ドイツへ行き、シュレップァー自ら指導するバーレッスンを見学した真飛 聖。「とても情熱的な方でした。バレエやカンパニーに対する情熱が、バーレッスンからも見て取れました。正直で人間味あふれる方という印象を受けました」。
『白鳥の湖』の感想は「小さいころからバレエをやっていて、オーソドックスな『白鳥の湖』を何度も踊って来た私からすると、かなり衝撃的で刺激を受けました」と語る。「人間がシンプルな姿で表現することで、観る側の想像力を掻き立てられる衣裳や振付。ダンスを見ていると登場人物の関係性が見えてきます。すごくダイナミックなのに、踊る役の心の機微まで表現されていて、一人一人の表情が見逃せない。作り上げられた彫刻のような肉体美で、皆さん素晴らしかった。だからこそ表現できる世界観なんですね」。
※「真飛 聖プレトークショー」
日時:9/28(土)14:25~ 会場:兵庫県立芸術文化センター
【いろいろな『白鳥』、そして今】
世界中で上演される『白鳥の湖』は、名作だからこそ、プティパ/イワーノフ版以外にさまざまなバリエーションが存在する。良く知られるところでは、かつてKバレエカンパニーで熊川哲也が王子を軸に演出し、通常1人で踊る白鳥・オデットと黒鳥・オディールを2人のバレリーナに躍らせたり。アダム・クーパーを世に知らしめた、男性ダンサーだけで踊るマシュー・ボーン版はとても切なく、素晴らしかった。同じ男性版ではコメディ色のあるトロカデロ・デ・モンテカルロバレエ団も日本でおなじみだ。ちょっと外れるが、劇場の舞台をアイスリンクに変えて踊るスケート・バレエでは、オデットとオディールが手を組み、オディールの父・悪魔をやっつけたり(!)。さらには白鳥が王子の肩の上にトウで立つ(!)中国雑技団系のものもあったり。。

「バレエ・アム・ライン」のシュレップァー版『白鳥の湖』は、演劇的なバレエと言えるだろう。例えば、シュレップァーの演出で、オデットは祖父に守られているので特別、という地位を与えた。彼女が祖父からもらった継母の意地悪から守る冠を、トゥシューズに変えて表現する。素足で踊る友人たちのなか、1人トゥシューズで踊るオデット。それぞれのキャラクターの背景、心理状態、物語の役割のすべてをダンスに盛り込む演劇的要素の強い振付で、古典の名作をドラマティックな人間ドラマとして魅せるクオリティの高い舞台だ。
この作品は、2018年6月にドイツで初演され大成功を収めた。カンパニーに所属するダンサーは多国籍で年齢も幅広い。その多様性の力を引き出した独特のバレエは、ヨーロッパで高い評価を得ている。10年間「バレエ・アム・ライン」を率いてきたマーティン・シュレップァーは、2020年、マニュエル・ルグリの後任としてウィーン国立バレエ団芸術監督に就任する。
今、観ておくべき『白鳥』がここにある。
●STAGE バレエ・アム・ライン 「白鳥の湖」 チケット発売中
日時:9/28(土)15:00
会場:兵庫県立芸術文化センター KOBELCO 大ホール
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
演出・振付:マーティン・シュレップァー
出演:バレエ・アム・ライン
指揮:小林資典(ドルムント市立オペラ第一指揮者)
演奏:大阪交響楽団
料金:S 20000円、A 17000円、B 14000円、C 11000円、D 8000円、SS 25000円
問い合わせ:キョードーインフォメーション(TEL:0570-200-888)
HP: https://ballettamrhein.jp
取材・文=演劇ライター・はーこ
高橋晴代・はーこ
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