福岡美女物語『中洲彼女』第1話 ~5歳下の後輩「優実」~
九州ウォーカー
福岡・中洲。全国有数の美女が集まる魅惑の街。九州随一の繁華街を照らすネオン、おしゃれなレストランやバー、にぎやかな屋台。この街がもつ特別な雰囲気は、男女の逢瀬を艶やかに彩ってくれる。中洲の美女たちは今夜も誰かの物語のヒロイン。あなただけの特別な夜を、特別な女性と特別な場所で。
4年ぶりの再会 大人になった5歳下の後輩「優実」
「こんばんは!」
小走りに駆け寄ってくる優実は以前よりぐっと大人びていた。僕らが職場の先輩・後輩の関係だったのはもう4年前。僕より5つ下の彼女は、天真爛漫な笑顔と人を惹きつける明るい性格で職場のアイドル的な存在だった。周りの羨望を傍目に、当時はたまに2人で食事をすることもあったが、「アパレル関係の仕事をしたいので」と突然会社を辞めてからは顔を合わせることも少なくなり、次第に疎遠になっていた。
「先輩と2人でごはん食べるの久しぶりやね」
そう笑う優実の表情に思わず頬が緩んだ。ドレスアップした今日は妙に肌も艶めいていて、夜の街灯りに照らされると、それはさらに際立った。
キレイになったんやない?茶化すようにそう言うと、優実はいやいや、と右手を顔の前で振り、笑った。屈託のない笑顔は4年前と何も変わらない。変わったことといえば、髪が伸びたこと、メイクが上手くなったこと、そして今、結婚を考えている恋人がいること。
「付き合って3年くらいかな」
予約した店に向かいながら、優実は恋人のことをポツポツと話した。恋人とは順調、というか大きな不満はない。が、刺激もない。この前の連休も「休日出勤だから」と、恋人は言葉も少なげに家をあけた。たまらず1人で出かけ、中洲の街をぶらついた。僕と偶然再会したのはその時だった。その夜、家に帰って「また久しぶりに食事にでも」とLINEすると、時間を空けずすぐに返事が来た。二つ返事で快諾してくれたのは、現状に対してどこか鬱屈した思いがあったのかもしれない。
ラグジュアリーな空間が二人の空白の時間を埋めてくれる
「へー!バリしゃれとーお店!」
目を輝かせる優実を見て、心のなかでガッツポーズ。予約していた店はダイニングバー『ハリウッドヒルズ』。中洲に隣接しながら隠れ家的な店が多い春吉エリアにあるこの店は、窓から見える景色と雰囲気がバツグンの一軒だ。“ここぞ”のときはこの店と決めている。僕にとってまさにとっておきの場所だった。
同僚時代、優実とは特別な関係ではなかったけれどいつも意識はしていた。毎日顔を合わせる同じ職場だったし、適度な関係にヒビが入るのをためらって、一歩先へ進む勇気がどうしても出せなかった。でも今は違う。もう同僚ではないし2人での食事も4年ぶり。大人になったのは優実だけではないというところを見せてやりたかった。だから、自然と気合が入った。
店はリゾートを思わせるムーディーなしつらえ。店内にある大きな水槽が印象的で、水槽の中では悠々とサメが泳いでいる。
「見て、サメ!かわいい。ホホジロザメかな?」
相変わらず天然だな、と笑いながら優実を予約していた個室へとエスコートした。昔の僕ならこんなにスマートには出来なかったかもしれない。
個室に入ると、優実の目がひと際輝く。ゆったりとした造りのソファとテーブルが配され、開閉式の大きな窓の向こう側には、中洲を代表する景観である那珂川が流れる。川の向こうには「キャナルシティ博多」が見え、中洲名物の屋台エリアも広がる。川面に映るネオンは宝石を散りばめたようで、普段見慣れているはずの那珂川とは別物。この界隈でもこれほど美しいリバービューを楽しめる店は限られている。
おいしい料理とワインを囲めば笑顔も自然とこぼれる
まずはシャンパンで乾杯。慣れない横並びでの乾杯に、少しだけ恥じらいの仕草をみせる優実がかわいい。
続いて「柳橋直送鮮魚のカルパッチョ」(1430円)、「HOLLY WOODローストビーフ」(1980円)などと共に、ワイングラスを傾ける。
「わ、これめっちゃおいしい!」
顔をほころばせる優実。景色や雰囲気だけでなく、料理もこの店の魅力。いい料理といいワインは、人の心をほぐしてくれる。
4年という空白を埋めるように会話は途切れない。思い出話、今の仕事、最近観た映画、ハマっているスイーツ、愛犬のこと…etc。僕はしっかり聞き役に徹した。なにより、優実の声には真綿が肌に当たって弾むような心地よさがある。改めていい女だな、と実感した。
「こんなに笑ったのは何年ぶりだろう」
恋人との当たり前の毎日、いわゆるマンネリに彼女も悩んでいたのだろうか。あるいは無自覚なのかもしれないが、今はそれを打ち消すように時間を忘れて笑い合った。中洲という街とこの店がもつ特別な雰囲気も、この楽しいひと時を後押ししてくれる。
会話が進むにつれ、今まで見たことがない表情を見せ始める優実。妙な期待に思わず胸が高鳴り、楽しい時間に“色”がついてきた。さらにワインが進む。
いつもよりアルコールが進んでいるのは優実も同じ。薄暗がりの中でも、優実の頬に紅が灯っているのがわかる。
「ちょっと酔ったかも」
ソファにもたれかかる優実がなんとも色っぽい。僕が水を差し出すと、不意に優実の指が触れた。
あっ、と思ったが、触れた指が離れることはなかった。密かに測りあっていた心の距離を共有できた瞬間だ。
と、優実の携帯が鳴る。LINEの着信だった。
「…ごめんなさい、ちょっと」
そう言って優実は軽く頭を下げ、携帯に目を落とす。LINEの送り主が恋人でることはすぐにわかった。若い男なら嫉妬のひとつもするだろうが、それはスマートではない。僕は「お手洗いに」と言って席を外した。
再会の夜はまだ始まったばかり
戻ってくると、優実は窓の外に流れる川を眺めていた。その瞳に映る中洲のネオンは、恋人へのわずかな罪悪感を塗りつぶすための絵の具のように見える。罪悪感や背徳感は、えてして恋のスパイスであり、心を焦がす火花だ。あとは、今のこの状況を“正当化”させてあげればいい。僕は優実の瞳をじっと見つめながらこう言った。
「今日は会えてよかった。実は毎日同じことの繰り返しで、気持ちが滅入ってて…。おかげでまた頑張れる。会えてなかったら、僕は明日も本気で笑うことはなかったと思う」
僕=優実だ。今日の再会は必要だったと、投げかけた。
「…うん。そうよね。きっと」
グラスに残ったワインを飲み干すと、優実はふう、と息を吐いた。唇は少し潤んでみえる。2人の距離が、自然と互いの体温を感じるほどに近くなっていく。再び優実の携帯が鳴った。次は一瞥しただけで、優実が手を伸ばすことはなかった。
「わー、キレイ!」
店を出て、橋上から那珂川と中洲の街灯りを望む。川の香りをはらんだ風が火照った体を撫でた。今日はまだ火曜日。明日ももちろん仕事だったけど、このまますんなり帰れるほど心は落ち着いてない。2人の腕は恋人のように自然に絡んでいた。
「次の店いこうか」「飲みすぎて帰れんくなりますよ」「いいっちゃない?」ふふふ、と優実が笑う。再会の夜はまだ始まったばかりだ。
[ハリウッドヒルズ]福岡県福岡市中央区春吉3-5-7 / 092-712-0555 / 18:00〜翌3:00、金曜~翌5:00 / 無休 / 喫煙可
【九州ウォーカー編集部 / 文=たけし / 撮影=こいち / モデル=桑原優実(シナプス)】
たけし
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