「派手な映画じゃないけれど、踏み出す勇気をもらってくれたら成功といえるから」 ラッパー ANARCHY初監督映画『WALKING MAN』

関西ウォーカー

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 さまざまな逆境に打ち勝ち日本を代表するカリスマラッパーとなった「ANARCHY」(アナーキー)が初監督として挑んだ映画『WALKING MAN』(ウォーキング・マン)。プロデュースしたのは監督の友達であり漫画家の髙橋ツトム。俺たちにしか出来ない映画を作ろう、と始まったこのプロジェクトは「まったくゼロからのスタートで、撮影初日はパニックだった」と監督は語る。吃音の青年がラップを武器に極貧生活から這い上がるストーリーを通してラッパー ANARCHYが伝えたかったメッセージとは?

初めてづくしの映画作り。「山あり谷ありいろんなことがあった」というANARCHY監督


■「脚本作りは楽しかった。音楽作りにも似ているから」


 川崎の工業地帯に住む主人公のアトム(野村周平)は、幼いころから吃音症で悩み、人前で話すことも笑うことも苦手だった。母(冨樫真)、思春期の妹ウラン(優希美青)と暮らしながら極貧の母子家庭生活を不用品回収業のアルバイトで支えている。ある日、母親が脊髄損傷で入院、家計の苦しさから滞納していた保険料の未払い分を払わねば高額医療の請求がやってくるとソーシャルワーカーの柳下(星田英利)に説明されるものの、そんなお金はどこにもない。ある日、アトムはひょんなことからラップに出会う。猛烈な魂の叫びを感じたアトムは、ラップを糧に、不安定で超底辺の暮らしから抜け出そうと孤軍奮闘。日本のどこかに本当にこんな青年がいるかもしれない、そんなリアルな質感を感じさせる音楽&青春映画だ。

 ANARCHYは初めての監督作品とあって映画作りの経験はゼロ。「初対面の人も多いし、すべてがわからないのでずっと勉強しながらやってました。飯を食ってるときも台本読んでましたよ」と当初の様子を語る。「でも、脚本を作っている時は楽しかったです。思いを形にすることは音楽作りにも似ている」と曲作りとの共通点を感じたそうだ。これまで、自身の役で映画に登場したことはあっても監督として現場に行くのは初めて。「次のカットをどう撮るかも俺が考えなあかんねや、と。それすらわからんまま現場に入ったんですよ。脚本の梶原阿貴さんがずっとそばでサポートしてくれたので助かった」と初日の緊迫した現場を振り返る。「でも、2日目からそれじゃあアカンなという気になったんです。監督である俺が、みなを追いかけるのはいけないな。皆が一つにならないといい絵は撮れない」と奮起して、指示を出しながら、だんだん自身のテイストを織り込んでいくことを意識し始めた。

【写真を見る】「現場の初日にスケボーで行ったんです、途中で遊ぼかなと思って。でもそんな余裕あらへんかった(笑)2日目から持っていくのやめました」


■ラッパーだからこそ込めた思いと「自己責任」


 劇中に登場するケースワーカーが口にする「自己責任って聞いたことあるでしょ? なんでもかんでも世の中のせいにしちゃダメだからね」というセリフ。特に「自己責任」というワードは「絶対」必要だったという。

「ラッパーは、抱えているフラストレーションを叫ぶことでリリックになったりする。吃音で、片親、貧乏、生まれる場所も選べへん、そういう逆境がラップになる。だから今回はケースワーカーや警察官といった嫌な役回りをする大人がたくさん登場するんです」と語った。

 また、「ラップの魅力って、怒りでもなんでも言葉にするだけでできること。楽器が弾けなくてもテーブルを叩くだけでもいい。ほんとに言葉だけなんです」と監督。

それに「言いたいことが言えないのはよくないと思う。文句を言えといっているわけではないんですが、言いたい事を伝えないと、人の心は見ることができない。それは家族であってもそうで、言わないと伝わらない。だから、自分の意見が言えない子がラップを武器にして話す。アトムがラップで自分の気持ちを言えた、というところは俺、この映画の好きなところでもあるんですよね」と顔をほころばせた。

ラップに自身の思いを込めるアトム(C)2019 映画「WALKING MAN」製作委員会


■アトムが手に入れた心のスイッチ。


 なかなかうまくいかない日々の中、アトムは交通量測定のバイト中に、カウンターのカチカチという音で自然と言葉がでてくることに気づいた。今の想いをおそるおそる言葉にしてみる。

 「あれは脚本の梶原さんのアイデアなんですけどね、それを聞いた時、ビビッときたし、ある意味あれはラッパーあるあるでもあるんですよ。町のことや目の前に映ることでラップをし始めるというのはラッパーになる子たちの初期衝動な気がするんです。だから、バイトをしている時に見えたものや思い浮かんだことをラップにして歌い始めるというのは、とてもリアルなシーンだと感じてます」と監督。

 また、監督はアトムが憧れのまなざしで眺めるヒップホップショップのキャップやフーディー、アトムが初めてラップにであった時のシールだらけのウォークマンなど、小道具にも意味を込めたという。あれは、すべて監督が用意したそうで

「ショーウィンドウの洋服は、自分で集めて自分で飾ったんですよ。あのシーンは、妹はあれが欲しいこれが欲しいというけども、アトムは我慢している、ということを表現したくて。アトムだってカラオケにも行きたいし、映画も行きたいはずなのに、それを我慢してすべてを受け止めてる。すごくいい子なんですよアトムって」。

兄のアトムと妹のウラン。それぞれが貧困からの脱出を試みる(C)2019 映画「WALKING MAN」製作委員会


■「野村周平の漢気と人間力に助けられた」


 アトムを演じたのは、ストリートカルチャーにも強い野村周平。彼の「僕、やりましょか?」の一言で勢いを増した映画作りは、野村周平の人間力に助けられたという。「彼には本当に感謝しています。野村君やからこそついてきてくれたキャストもいるだろうし、現場でムードメイクもしてくれたし、こっそり『ここはこんな風に撮らないですか?』と提案してくれたり。彼の漢気と人間性に助けられました」と振り返る。

 また、ラップをすることについても「彼は普段、ラップを聞いているし、相談もしやすかった」と監督。撮影中も「しっかりアトムを身体の中にいれてきて、表情は俺が勉強になった」というが、ラップについては監督の演出や指導があったそうだ。劇中、野村が歌うラップの歌詞も監督が今作のために書き下ろした。

 「どれだけカラオケでラップが出来ても、ステージに上がって、人前でマイクを持って、動きながら歌うことはなかなか難しいこと」という監督は、クラブを貸し切り2時間かけて野村と二人だけの練習をしたそうだ。「一緒にカラオケに行っているような感じでしたが(笑) お互いにムービーを撮り合って、こうやって歌ったら?と。発声や、強く言ってほしい部分、ここはこんな風な気持ちで歌えばいいよ、などを伝えたりして。あ、ここで初めて監督っぽいことができたかな?」と笑う。

■「一歩踏み出す勇気を持ってくれたら、この映画は成功だと思う」


 監督自身の経験も盛り込まれた、初監督とは思えない鮮烈な青春音楽映画。「派手な映画じゃないけれど、一本筋の通った、俺の伝えたいメッセージがこもった映画です。夢がある人もまだ見つかってない人も観てほしい。夢が見つかった人は大事にしてほしいし、でも大事にしているだけじゃ腐っちゃうんで、その一歩を踏み出す勇気になればいい。それから、むかつくことだけじゃなくて、愛してるやありがとう、そんなことも口に出して、人に伝えて。それも人助けだと思う」と言葉の大切さを述べたあと「これを観て、一歩踏み出す勇気をもらってくれたら、俺はこの映画を作って成功したなと言えるんで!」と作品に込めたメッセージを力強く語ってくれた。

映画『WALKING MAN』は10月11 日(金)より梅田ブルク7、なんばパークスシネマほか全国ロードショー

■映画『WALKING MAN』公式HP

https://walkingman-movie.com/

●配給:エイベックスピクチャーズ  

●年齢区分:G

田村のりこ

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