宮本浩次、ソロ活動を語る「純粋にシンガーとして歌うことができた」(前編)

東京ウォーカー(全国版)

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 撮影=下林彩子


現在公開中の映画「宮本から君へ」に書き下ろした主題歌を10月23日(水)にCDリリースする宮本浩次。出口調査で高い満足度を記録し賞レースでも期待が高まっている映画本編と同様、主題歌「Do you remember?」も熱い注目を集めている。原作者の新井英樹がデビュー当時のエレファントカシマシ宮本浩次から名をとった漫画が、名作として長年愛され、約30年の時を経てついに映画化された。その主題歌を宮本本人が作り、歌うという背景も、この映画に奥行きを与えている。

デビュー32年目のエレファントカシマシのバンド活動と並行し、ソロワークを始めて1年。この曲の誕生について、そして50代でソロという新たな挑戦に踏み出した心境について宮本浩次本人が詳しく語った。

30年間“封印”してきたパンクサウンドに挑戦した新曲「Do you remember?」


【宮本浩次】「真利子哲也監督から最初にこの話を依頼されたのは2016年ごろで、テレビドラマ版(2018年)の主題歌としてエレファントカシマシの『Easy Go』という曲を作りました。今回はその第2弾。原作の漫画のことは、1990年当時、僕らの一番最初のマネージャーかレコード会社の人から、『この漫画は原作者がエレファントカシマシのファンで、宮本くんの名前が主人公の名前になっているらしいよ』と聞いていた。その頃は『へえー』ぐらいで何とも思わなかったけれど、主題歌を依頼された時にその『宮本から君へ』というタイトルを久しぶりに聞いて、まるで旧知の仲間に再会したような、懐かしさを感じました」

「真利子さんという気鋭の監督が、愛読していた30年前の原作を、池松壮亮さんや蒼井優さんという素晴らしい俳優さんとともに蘇らせようとしている。自分たちもデビュー30周年直前のタイミングだったから、これは格好の舞台が現れた、と嬉しかったのをよく覚えています。それでエレファントカシマシの総決算というか、自分たちの30年も目に見える形にできたらいいな、ロックバンドとして『4人の音が鳴っている』ようにしたいなと思って、『Easy Go』を作った。その時に考えたのは、今までエレファントカシマシが封印してきた、軽快でスピード感のあるパンクサウンドにしたいということ」

「アメリカのパンクバンドの基本は、ハイスピードでひずんだ音で演奏するというスタイルだと私は解釈していて、それはエレファントカシマシではずっと封印していた。もっと『作曲』して、もっとストイックな方向に……と志向していたけど、実はそういったスタイルがずっとうらやましかった。その思いを、より本格的に形にしたのが今回の『Do you remember?』です」

30年前の青春を取り戻すような奇跡の空間を、『宮本から君へ』という作品がとりもっていた


 撮影=下林彩子


映画館でラストに流れるこの曲を大音量で聞いた観客が感動の声を続々と上げていることからも分かるように、ただの主題歌では済まない存在感を放っている「Do you remember?」。共同プロデュースは横山健(G&Cho)で、Ken Yokoyama(Ken Band)のJun Gray(B)、ソウル・フラワー・ユニオンのJah-Rah(Dr)という宮本にとって初顔合わせのメンバーによって、パンクの衝動の中に美しいメロディーが躍動するみずみずしいラブソングができあがった。シナリオ完成前に作られたというこの曲が、映画自体に影響を与えたと真利子監督は語っている。

【宮本浩次】「真利子さんとは何度も打ち合わせをして、やりたいことが伝わってきた。今回の映画は池松さんと蒼井さん、つまり宮本と靖子さんが主人公で恋人であると聞いていたから、青春の中にいる主人公たちのラブストーリーなんだろう、ラブソングだろうとは思った。でもラブソングという意味合いよりも、自分たちが『青春を追体験した』ということが大きい。もちろん真利子さんや新井さん、池松さん、蒼井さんをイメージして生まれている曲なんだけれども、同時に私にとってはこの作品に参加すること自体が、30年前の青春を取り戻す時間でもあった」

「もっといえば、当時、横山くんは49歳、Jun Grayは55歳、Jah-Rahは52歳、私もその時52歳で、映画のスチールやこの曲のジャケット写真を撮影した佐内正史さんも51歳だったんだけど、50歳前後の人たちが30年前の青春を取り戻すような奇跡の空間を、『宮本から君へ』という作品がとりもっていた。それが曲に表れているんだと思うし、佐内さんが撮ったこの曲のミュージックビデオ――リハーサル風景をスマホで撮影したものなんだけど――があんなに美しいのも、それが映っているからだと思う。この曲には、Jun Grayのあの青春そのもののようなたたずまいやピュアなベース、横山健のギターやサウンド、Jah-Rahのドラム、そして宮本という4人が必要だった。エレファントカシマシは『Easy Go』でパンクを演じることはできたけど、やっぱりこれまでの長い歴史があるから、今“青春そのもの”を演奏することは難しい……んですよ」

「昔は当然、本物の青春時代の中にいる自分たちが、『Do you remember?』で♪きみに語った夢の夢、と言っているように、まさに夢の夢を歌っていた。小市民である自分の現実、ただの2DKの団地に住んでる兄弟の弟だっていう現実を認めたくなくて、ポケットに太宰治の文庫本を入れながら、憧れや理想を、つまり夢の夢を彼女に語るということが私にとっての青春そのものだったから。でもそれから30年40年の時を経て、もう夢の夢を歌う人間ではなくなった。現実を歌う人間になったんだと思う。『今を歌え』(17年)という歌があるように。そりゃバンドも30年40年の付き合いの中で、関係性は出会いの時とは変わっていくわけでね。でも『Do you remember?』には横山健とJun GrayとJah-Rahと宮本浩次の4人の新しい関係、あるいは新井さんと私、真利子さんと私、そういう出会いや時間がぐしゃぐしゃになって、歌詞にもサウンドにも青春性みたいなものが脈々と生きている」

純粋にシンガーの宮本浩次として歌うことができた


 撮影=下林彩子


宮本の歌唱は、横山健が敬意を込めて「バケモン」と評するほど。絶叫も、愛の言葉も、街中でこの曲を耳にしたら思わず振り返るような、ラジオから流れれば仕事の手を止め聞き入ってしまうような胸に迫る歌声だ。

【宮本浩次】「自分で作った曲ではあるけど、今回のプロデュースは横山くんで、歌のレコーディング現場にも立ち会ってくれたんです。例えば1番と2番のサビの♪Do you remember?の前の『うわぁぁぁ』って叫ぶところの、2番目がどうしても決まらなくて。横山くんが向こうのブースから、『宮本さん、本気で言う時は「うわー」ですか「デー!」ですか?』って言って、『「デー!」かなぁ』って答えて、『じゃあ「デー!」でいってみていただけます?』ってなって、それで『でええええぃ!』って言ったら決まったっていう」

「レコーディングしたのは横山くんがよく使ってる地下アジトのような、ムードのあるすごくいいスタジオで、彼はエンジニアとも旧知の仲なんだけど、私はその環境は初めてで、スタジオやエンジニアによって自分に返ってくる聞こえ方って違うから、どの程度の強さで歌っていいか探りながらやっていた。彼らのサウンドに自分の歌をのせるという作業だったことで、純粋にシンガーの宮本浩次として歌うことができたんだと思います。そうそう、おまけにあの時は佐内さんがスタジオの中に入って、横で写真を撮っていて。彼にいい写真を撮ってほしかったから、歌のレコーディング中にも撮っていいよって俺が言って、来てもらったの。そういうふうにいろいろ模索して、あえてエレファントカシマシではやっていないレコーディングスタイルで、面白い臨場感のある現場だったことも音に影響していると思う」(後編に続く)

 撮影=下林彩子


撮影=下林彩子 取材・文=滝本志野

【プロフィール】宮本浩次(みやもとひろじ)●1966年6月12日生まれ、東京都出身。エレファントカシマシのボーカル&ギター。88年デビュー。2018年の椎名林檎、東京スカパラダイスオーケストラとのコラボレーションを皮切りに、2019年よりソロ活動を開始。10月23日(水)にCD「Do you remember?」のほか、Live Blu-ray&DVD「エレファントカシマシ 日比谷野外大音楽堂2019 7月6日,7日」も発売。2020年3月13日(金)千葉・市川市文化会館を皮切りに、全国13会場14公演のソロツアーが決定。

滝本志野

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