「コーヒー代が入場料のテーマパーク」、北海道のカフェ「森彦」がスタバより人気なワケ
東京ウォーカー(全国版)
国内のコーヒー需要は高まる一方、喫茶店の数は減少。どこでも同じコーヒーを楽しめるコーヒーチェーンや、手軽さがウリのコンビニカウンターコーヒーに押され、地方の喫茶店は苦戦を強いられている。そうした中、北海道の珈琲店「森彦」は、道内でスターバックスをしのぐほどの人気を誇る。ローソンや味の素AGFともコラボし、道内に系列店13店舗を構える北海道発の喫茶店はなぜ支持されるのか。その背景には、地域の魅力に着目した、大手喫茶チェーン店とは真逆のアプローチがあった。

木造古民家のカフェが創業23年でローソンとタッグ
北海道で人気を集める珈琲店「森彦」は、1996年、札幌市の円山公園近くの木造民家を店舗としてオープンした。レトロでありながら現代的な雰囲気を併せ持った世界観が札幌市民に愛され、近隣にはスターバックスをはじめとする喫茶店が立ち並ぶ中、休日には10組以上の行列を作るほどの人気店だ。

現在はカフェやパティスリー、レストランなど様々な業態で道内に13店舗を展開する、北海道を代表するコーヒーブランド「MORIHICO.」へと成長。系列店は図書館や病院内にも出店し、2018年に北海道キヨスクからボトル缶コーヒー「森彦の珈琲」が、2019年10月からはローソンから「森彦クリームコーヒーゼリー」がそれぞれ全道で販売されるなど、幅広い展開を続けている。
コーヒー需要は増加も喫茶店の数は減少の一途
日本のコーヒー市場を取り巻く環境は複雑だ。1996年に35万トンだった日本国内のコーヒー消費量は、2018年には47万トンと、20年弱で約30パーセント以上増加(全日本コーヒー協会・日本のコーヒー需給表による)。1996年に日本第1号店を出店したスターバックスをはじめとする喫茶チェーン店の増加や、2010年代に大手コンビニ各社が相次いでスタートしたカウンターコーヒーの普及により、いつでも淹れたてのコーヒーが飲める状況が後押しした形だ。
一方、喫茶店の数はもっとも多かった1981年の15万4630店以降は減少の一途をたどり、2016年には6万7198店に(総務省統計局「平成21年経済センサス‐基礎調査結果」および「平成28年経済センサス活動調査結果」)。コーヒーチェーンの店舗数が増加する以上に、個人経営の喫茶店が廃業しているというのが実情だ。
コーヒー代が入場料の「テーマパーク喫茶」
こうした状況の中、個人経営の一珈琲店としてスタートした森彦が、なぜ創業から23年で北海道を代表するコーヒーブランドとなったのか。MORIHICO.を運営するアトリエ・モリヒコの市川草介代表は、その要因にローカルカルチャーが注目されるようになった時代の変化を挙げる。
「今、グローバリズムというものの中で、世界中が同じ景色になろうとしています。そうなると逆に、感度の高い人たちの中では異なる景色を探そうという意識が強くなっていくんです。東京でも、谷根千(谷中・根津・千駄木)が現在トレンドになっているのは、それが東京のローカルだから。街並みに“東京らしさ”が残っているから人気になるんです」(市川氏)
森彦本店がオープンしたのは、奇しくもスターバックスが日本上陸したのと同じ1996年。「札幌はかつて“リトル・トーキョー”と言われ、いかに東京に似せるかといったところで開発が進んでいて、逆に言えば古い建物はどんどんなくなってきていた。リノベーションという言葉もない時代、古い建物を改装してカフェにするのは変わり者だと言われました」と市川氏は当時を振り返る。

アートディレクターでもある市川氏が手掛ける店舗は、古民家、ボイラー工場、ビルのショールームなど、物件との出合いが発端となったものが多い。同じ札幌市内でも個性が異なるそれぞれの建物や立地を生かし、外装・内装だけでなく、メニューや什器もこだわりぬくことで、店舗ごとに独自の世界観を形作ってきた。インターネットやスマートフォンの普及で情報へのアクセスが向上し、決して一等地ではない路地裏の店舗でも知ることができるようになったという環境の変化も後押しとなり、現在ではアトリエ・モリヒコの運営する各店を巡るファンが生まれるほど強い支持を獲得するに至った。コーヒーの味だけでなく、森彦という店舗の中でコーヒーを味わう体験を1つの価値として提供したことが成功の一因と言える。
市川氏はこうした手法を「コーヒー代が入場料のテーマパーク」と表現する。11月下旬には旭川市内に14店舗目となる「MORIHICO.RENGA1909」を開業予定。旭川駅近くのレンガ倉庫をリノベーションした同店舗には宿泊機能も設けるなど、道外から森彦の世界観を求めて訪れる利用者をも視野に入れる。
地方発だからこその魅力が生まれるローカルロースター
地方発の喫茶店が全国展開のコーヒーチェーンを上回る人気を誇る例は他にもある。茨城県を中心に直営14店舗を展開するサザコーヒーでは、1杯3000円の「パナマ・ゲイシャ」をはじめとするスペシャルティコーヒーや、水戸藩ゆかりの徳川慶喜にちなんだ「徳川将軍珈琲」など、高級志向やローカルな価値観が支持され県内で人気を博す。サザコーヒーにおいても、来店者は味へのこだわりと、サザコーヒーが提供する唯一無二の価値観に惹かれていると言える。
個人経営の喫茶店やローカルロースターは全国に点在するが、それらはほとんどが店舗数が限られた小規模展開だ。だが両店は、チェーン店のように多店舗展開でありながら、安価や均質さといった合理性とは真逆のアプローチを用いて人気を集める。コーヒーの味や店舗の世界観にこだわり、コーヒーとともに喫茶店で過ごす時間に価値を作り出すことが、「知る人ぞ知る名店」から「地域を代表するコーヒーブランド」への飛躍につながっているようだ。
地域から全国へ、地方喫茶の波
9月には、アトリエ・モリヒコが味の素AGFと協働で開発したブレンドコーヒー「森彦の時間」が全国で発売された。味の素AGFはこれまでスターバックスのコーヒー商品を販売していたが、それにアトリエ・モリヒコが代わる形での商品化となった。売れ行きも好調で、AGFがこの秋に発売した新製品の中ではトップクラスの売上だという。

11月14日には、東京・谷中のHAGISOに森彦本店の雰囲気を再現した「カフェ 森彦の時間」が4日間限定でオープンした(現在は終了)。味の素AGFの品田英明社長は「首都圏のいろいろな方々にもっと(森彦を)知ってもらいたい」と話し、2020年に再度森彦のポップアップイベントの開催を宣言するなど、北海道発のロースターとのタッグに確かな手ごたえを見せる。
ブルーボトルコーヒーに代表されるサードウェーブ(第三の波)が到来し、消費者のコーヒーへのこだわりや嗜好は細分化し続ける中、地域性を内包し、独自の世界観を持ったローカル喫茶の潮流が着実に広まりつつある。
国分洋平
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