琵琶湖の自然、広島の酒造りの次は大牟田の小さな動物園 映画『いのちスケッチ』瀬木直貴監督インタビュー

2019年12月2日 11:46更新

関西ウォーカー 田村のりこ

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地域コミュニティーに密着してその地だからこそ撮れる映画を作り出す瀬木直貴監督が、琵琶湖の自然、東広島市・西条の酒造りの次に選んだのは、福岡県大牟田市に実在する世界から注目される小さな動物園。撮影の8か月前から現地に住み込んで丁寧に取り組んだ『いのちスケッチ』が現在公開中だ。ロケ地となった大牟田市にある「セントラルシネマ大牟田」では11月22日現在、観客動員数が1万人を超え、全国にもその熱は広まっている。飼育員体験も行い、そのさまざまなエピソードを織り込んでいったという瀬木監督に、作品に込めた想いなどを伺った。

撮影の8か月前からロケ地入り。「大牟田市には今も部屋を借りています」という瀬木直貴監督

撮影の8か月前からロケ地入り。「大牟田市には今も部屋を借りています」という瀬木直貴監督

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今作は、漫画家になる夢を抱いて田舎を飛び出したものの限界を感じて故郷の福岡に戻った1人の青年が、動物園飼育員の仕事を通して命の尊さに触れ、自らの人生に向き合っていく成長物語だ。

祖母の和子(渡辺美佐子)にも励まされる亮太

祖母の和子(渡辺美佐子)にも励まされる亮太(C) 2019「いのちスケッチ」製作委員会

 

■監督も俳優も飼育員体験を実施。撮影前から徹底的に命と向き合った

ロケ地となった大牟田市動物園は、日本ではじめてライオンの無麻酔採血に成功した施設。「動物福祉」をテーマに掲げ、動物を科学的に理解して、それを利用しながらストレスをかけないように健康を維持していこうという地道な取り組みを行っている。「体重測定や採血時には、全身麻酔をしますが、人間ならそのたびに全身麻酔をすることはないですよね。でも、動物はしなきゃいけない。麻酔の量を少しでも間違えると命を落とすことも。そういうなかで、少しずつトレーニングを重ね、動物に協力してもらいながら、無麻酔採血に成功したのがこの動物園なんです」と監督。

動物に負担をかけないよう、撮影に入る前、監督はもちろん俳優もみな飼育員体験を行ったそうで、飼育員と同じ服を着て、ゆっくりと動物と触れ合っていった。特にライオンは「檻があるとはいえ、目の前30㎝ほどのところに200kg近いライオンがいて、ウウーッと唸ると鼻息がかかる。それもまた命と向き合うということなんですね。飼育員さんたちは、こんなに凄いことをやってきていたんだなと、俳優たちは涙を流し、打ちのめされていました」。実際、採血に成功するシーンでは、ライオンに肉を与えながらやさしく体やしっぽをおさえるなど、血を抜く行為以外はすべて俳優たちが行った。「これも細かい積み重ねでした。肉の種類や量もすべてプログラムされているので『もう一回お願いします』が出来ないんです。だから一発勝負になりますよね」と見どころとなる無麻酔採血の場面を振り返った。

ライオンだけでなく、ほかの動物にも細心の注意を払って撮影は進められた。亮太が担当するモルモットは「物音に敏感で、カメラをセットする小さな音だけでもさぁーっと散らばってしまうし、トラやライオンは、ガンマイクにじゃれついて、飼育員さんの言うことをきかなくなるんです」。どんなことが起こるのか、飼育員体験を通して感じた課題をクリアしたうえで、動物に負担をかけないように撮影にのぞんだ。

また、漫画を描く場面もすべて佐藤が演じたそうで「嘘がない映画だと思います。嘘がないということは、ダイナミックなストーリーは作れないということでもありますが、主人公が少しずつ成長していく物語にしよう」と決めたそうだ。

動物とのふれあいを通して自身の心に光がともっていく

動物とのふれあいを通して自身の心に光がともっていく(C) 2019「いのちスケッチ」製作委員会

■地域の映画を撮ることは「町の抱えている課題に、なんらかの処方箋を出すこと」

今作の舞台は、なぜ大牟田だったのか。それは監督が『ラーメン侍』(12)の一部を大牟田市で撮ったことから始まる。その中に34歳で亡くなった漫画家・三隅 健が出てくるが、その遺族と交流が始まり「将来、大牟田で映画を撮ることがあれば、漫画家志望の青年を主人公にしようと思った」(亮太の実家として登場する居酒屋「やきとり二番」は、三隅さんの実家でもある)そうだ。

しかし、大牟田市は、炭鉱の町として知られるも寂れていく地方都市。テーマを模索するなか、地域コミュニティーに入り込んでその地ならではの映画を作ることを得意とする監督は「大牟田市は高齢者の福祉が非常に手厚いことで知られ、出生率も高い。これはとても明るい材料。ファミリー層を繋ぎ留めておく求心力を考えると『動物園だ!』と思った」と監督。

これまでの作品も含め「僕は、町の抱えている課題に映画としてなんらかの処方箋を出すことに取り組んでいます。どんな場所にも光と影がある。その町にしかない何かを僕は拾い上げようとしているんだと思います。地域に入ってコミュニケーションを重ねて、自分が撮りたいものと町の人が描きたいものをアジャストしていく。チームとなって作っていくんです。映画制作に関わった人がみんなハッピーになるというのが最高なので」と長年培ってきたスタイルの本質を語った。

■もうひとつ、伝えたいことは「好きな道を進むこと」。

「命に触れる」ことを主題にした今作の中に、繰り返し出てくるテーマがある。それが「好きな道ことをやりなさい」というメッセージ。漫画家を目指した主人公の亮太は挫折してしまうが「一歩前へ出る、年齢問わずそういう人の肩を押してあげるような映画であればいいなと思います。僕のこれまでの作品もそういう思いを込めたものが多いですね」と監督。

「ロケ地の大牟田市にもぜひ足を運んでほしい」と監督

「ロケ地の大牟田市にもぜひ足を運んでほしい」と監督

最後に監督は「映画の中に描かれていること以上に、その向こうにある作り手や現地で応援してくれた人々の心の温かさが伝わる作品になっていると思います。スクリーンの向こうにどういう世界があるかを想像してみていただきたいな。きっと心が温かくなると思います」と締めくくった。

映画『いのちスケッチ』は第七藝術劇場など全国公開

■映画『いのちスケッチ』公式HP:http://inochisketch.com/

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