日本初の“自治体発”1クールTVアニメ『なつなぐ!』製作舞台裏、「熊本にできることは」の思いが結実

2020年1月27日 19:00更新

東京ウォーカー(全国版) 国分洋平

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年間200本以上の新作が制作されていると言われる日本のテレビアニメ。CMや地域プロモーションでアニメが用いられるケースも増加し、アニメ文化は広まりを続けている。そうした中、2020年1月から熊本県製作のテレビアニメ『なつなぐ!』が放送を開始。日本初となる、自治体発の1クール12話の地上波アニメで、キャストや主要なスタッフも熊本県出身者で固め「オール熊本」を打ち出すなど、県の熱意がうかがえる作品だ。アニメによるPRが珍しくなくなった今、なぜ熊本県はテレビアニメの製作に踏み切ったのか。そこには、アニメ文化が一般化したからこそできる新たな地域PRの形があった。

『なつなぐ!』ではアニメで熊本県のご当地要素が随所に描かれる

『なつなぐ!』ではアニメで熊本県のご当地要素が随所に描かれる
(C)熊本県/2010熊本県くまモン

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“ガルパン”効果で祭りに14万人、つながり深まるアニメと地域振興

2000年代中頃からブームとなった、アニメ作品の舞台をファンが訪れる「聖地巡礼」。アニメ『ガールズ&パンツァー』のモデルとなった茨城県大洗町では、2012年の放送以降、同町で毎年開催される大洗あんこう祭の来場者が急増。2019年には過去最多となる約14万人の来場者を記録するなど、人気は衰えを見せない。

また、静岡県沼津市を舞台にした『ラブライブ!サンシャイン!!』では、作中に登場するスクールアイドル「Aqours」が同市の観光大使に任命されたほか、オリジナルカラーマンホール蓋の設置や市の観光ポスターへの起用など、作品を活用した自治体の地域プロモーションも増加しつつある。

さらに、YouTubeなどWEB配信が普及したことで自治体や企業によるアニメを用いたオリジナルのプロモーション動画やCMも増加。自治体製作のものでは、2019年には群馬県桐生市と栃木県足利市による『ヒトトキ桐生足利』や、東京都町田市の『START』などがある。また、企業CMでは、映画『天気の子』が複数の企業とCMでコラボしたことも話題を呼んだ。ほかにもマクドナルドが前田敦子や声優の竹達彩奈らを起用した独自のアニメCMを放送したように、大手企業もアニメの活用に意欲的な姿勢を見せる。これらは、時に実写やタレントの起用をしのぐほどの影響力をアニメが持つという判断のあらわれと言える。

WEB配信全盛もあえてのTV放送、「地上波でしか届かない層にも」

こうした中、2020年1月に放送を開始したのが熊本県製作のアニメ『なつなぐ!』だ。同作は、熊本地震後、熊本県に寄せられた支援への感謝の気持ちを伝えることを目的とした首都圏プロモーション企画の一環として製作。東京に住む女子大生の欅夏奈が、熊本地震で連絡が取れなくなった友人を捜すために熊本を訪れ、熊本の人々と出会い成長していく姿を描く作品となっている。

熊本県製作のアニメ『なつなぐ!』

熊本県製作のアニメ『なつなぐ!』

『なつなぐ!』は自治体製作のアニメとしては初の試みとして、地上波1クール全12話を放送する。しかも、熊本県内のテレビ局だけでなく、在京のTOKYO MXも放送局に名を連ねる。首都圏での視聴を狙う熊本県の「本気度」がうかがえる。

前述の通り、自治体発のアニメはほとんどがWEB配信。現在はテレビにこだわらなくともインターネットを通して全国への発信が可能だ。それでも、あえて地上波での放送を県に提案した理由を、『なつなぐ!』のプロデューサーを務める福留俊氏はこう話す。

「WEBとアニメの相性はとてもいいですし、首都圏を含むテレビ放送には相応のコストや労力もかかります。一方で地上波でしか届かない層や世代もまだまだ大きく存在します。そうした方にも作品を見ていただきたかった」

この選択からは、アニメだからと視聴者層を限定せず、幅広い世代に受け入れられる作品を作ろうという明確な意志が感じられる。

一見無謀な“オール熊本”布陣も実現、自治体アニメだからこその挑戦

【画像】アニメで描かれた阿蘇くまもと空港

【画像】アニメで描かれた阿蘇くまもと空港(C)熊本県/2010熊本県くまモン

また、全12話のアニメとしてエンタメ性を持っているのも『なつなぐ!』の特長だ。主人公・夏奈が捜す、ネット上で知り合った熊本在住のまだ見ぬ友人という謎は視聴者の興味を誘うし、アニメならではのポップなテイストで再現された熊本の風景、登場人物の熊本弁による何気ない会話など、ご当地アニメならではの要素もちりばめられている。

こうした同作を作り上げる原動力となっているのが、熊本県出身のスタッフとキャスト陣だ。主人公・夏奈の声を熊本県出身の女優・橋本愛が担当するほか、青山吉能、千葉繁、古川慎、寺崎裕香といった熊本出身の人気声優が出演。監督やプロデューサー、脚本といった主要スタッフも同県出身者と“オール熊本”を掲げる。福留プロデューサーは、この“オール熊本”スタッフの提案を「無謀とも思いました」と振り返る。

東京で行われた『なつなぐ!』先行試写会の様子

東京で行われた『なつなぐ!』先行試写会の様子

「スケジュールの調整が難しくなるので、(オール熊本は)決して合理的ではありません。ただ、熊本地震の後、アニメ業界内の熊本出身者は皆『熊本に何かできることはないか』と話していたんです。『なつなぐ!』をそうした方々の思いを形にできる場にしたいと思いましたし、それが作品にとっても一番いい形になるという確信がありました」(福留プロデューサー)

テレビアニメである以上、視聴率やコスト、スケジュール管理などの要素は決して無視できない。その上で、地域の活性化を重視する考え方で製作陣がタッグを組めたこと、作品作りが“熊本のために”という地元愛の受け皿となりうることは、自治体発アニメならではの意義と言えるだろう。

PRアニメで新たな「聖地」誕生なるか?

近年、コンテンツを活用した自治体の地域プロモーション戦略はますます広がりを見せる。岩手県のイシツブテや香川県のヤドンといった、各自治体の「推しポケモン」で地域の魅力を発信する「ポケモンローカルActs」はSNSなどで大きな話題を呼んだほか、県の広報活動に公認Vtuberの茨ひよりを起用した茨城県のように、WEB発の文化をアプローチに取り入れる自治体もある。

熊本県広報グループの佐方美紀さんが「地方から首都圏に向けて魅力をどう発信するか、どの自治体もアイデアや手法に悩んでいると思います」と話すように、価値観が多様化する中で、いかに話題性のあるPRを行えるかはどの自治体にも共通する課題だ。そうした点からみると、アニメを用いた地域プロモーション自体の目新しさは薄くなりつつある。だからこそ『なつなぐ!』は、アニメ文化が当たり前になったことを逆手に取り、アニメという表現方法そのものが持つ強みを活かした作品作りにこだわった。

2019年12月に行われた先行試写会にはアニメを楽しみに多くの来場者が訪れた

2019年12月に行われた先行試写会にはアニメを楽しみに多くの来場者が訪れた

放送前に熊本と東京で行われた『なつなぐ!』先行試写会には、作品に期待する数多くの来場者の姿があった。アニメにおける聖地は、何の変哲のないような場所であっても、作品に強く惹かれたファンが訪れることで定着していくもの。『なつなぐ!』が多くの人を惹きつける作品となれば、自治体発アニメの聖地として熊本に新たな観光名所が生まれる可能性もある。

コンテンツの活用という点では、マスコットキャラクター「くまモン」が、PR活動の枠を超え全国的に人気のキャラクターとして飛躍した前例が熊本県にはある。地域の今ある魅力を発信するだけでなく、地域自らが、作品やキャラクターを通して名所や名物といった新たな魅力を主体的に作り出すことが、コンテンツを活用した地域PRのこれからの定番となるかもしれない。

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