観光客誘致が目的ではない。石垣島で国際映画祭を始める理由

2020年1月11日 17:00更新

東京ウォーカー(全国版) 取材・文/平井あゆみ

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2020年11月、「石垣島ゆがふ国際映画祭」が開催される。その本祭に先立ち、2019年11月22日から24日の3日間、石垣島の3会場では「2019年プレイベント」が開催された。そこで現地を訪れ、主催者を直撃。「なぜ石垣島でこの新しい国際映画祭が開催されるに至ったのか」を聞いてきた。

石垣島フサキビーチで2019 年11月22日~24日に開催された「プレイベント」

石垣島フサキビーチで2019 年11月22日~24日に開催された「プレイベント」

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“沖縄・石垣島から世界に向けて映画を発信し、地域の文化・芸術にふれる機会を創出する映画祭”として、石垣市の後援で開催される「石垣島ゆがふ国際映画祭」。“Cinema at Sea”をテーマに、委員が選りすぐった50以上の作品を上映予定で、石垣島の魅力である天然ビーチでの野外上映やドキュメンタリー映画のコンペティション、海外講師を招いてのVRワークショップも行い、世界標準の国際映画祭を目指すという。

■2019年プレイベントは大盛況 さまざまな層が集った

本祭は来年の秋となるが、今年11月に行われたプレイベントでは、石垣島の3会場(フサキビーチリゾート ホテル&ヴィラズ、アートホテル石垣島、いしがき島 星ノ海プラネタリウム)を舞台に、3日間で4作品を上映、全6プログラムが実施された。

音楽ドキュメンタリー映画『島々の歌~スモールアイランド・ビッグソング~』や、SF映画『メッセージ』のプレミアム上映の他、『島々の歌』の出演者である音楽家サミー・サモエラ氏のライブパフォーマンスや地元高校生たちによる伝統舞踊も実施され、会場は大盛況。地元から集まった人々、大人や子ども、島外からの来場者など、さまざまな層で賑わっていた。

この会場では、映画祭のプログラム・ディレクターを務める台湾出身の映画監督・黄インイク氏、実行委員長の上原輝樹氏に話を聞くことができた。近年、地方映画祭は全国で150を超えるなど増加傾向にあるが、石垣島ではなぜ開催するに至ったのか?両人にその思いを語ってもらった。

■石垣島の空気を感じながら映画も音楽も楽しめるお祭りに!目指すは地元民にも観光客にも愛される国際映画祭

上原氏と黄監督が映画祭スタートのきっかけを語る

上原氏と黄監督が映画祭スタートのきっかけを語る

――まずは、なぜ石垣島で“国際映画祭”を開催するのか教えてください

【上原】共同発起人のお二人(平野しのぶ、親盛ちかよ)が、地域に根差した文化的な活動・事業をしたいと考え、映画祭がいいのではないかと着想したことによります。しかし問題は、どの作品を選んで、どのように開催すればいいのか、ということです。そこで、2013年からドキュメンタリー製作のために石垣島に通い、国際的な視野を持つ黄監督にプログラム・ディレクターをお願いしました。

【黄】2年前にお話をいただきました。ビーチで上映したい、沖縄本島と区別して石垣ならではの映画祭にしたい…といった要望を踏まえて話を進めていきました。映画祭ではあるものの、音楽に関するものなど、いろいろなイベントを入れてもいいということだったので、既存の音楽イベントやアートフェスティバルなども参考にして。私の知る、この石垣島の状況に合わせて、どういう形にしようかなと考えていきました。

大きく参考にしたのはコソボのドキュフェストです。これは、野外上映をやっている映画祭で、世界中の人々から、今とても注目を集めているんです。紛争などもあったので、コソボの街は映画館もなかったんですけど、今はこのドキュフェストに伴って、あちこちで野外上映をやっています。映画祭が終わると音楽祭をやる。地元をはじめ、欧州の若者が集まる祭りとなっているんです。最初は映画上映を目当てにした映画ファンが多かったようですが、数年経ると、口コミで周囲に広がって、「何か面白そう」と、いろんな人が集まってきたようです。これは理想的な形ですね。

野外上映というスタイルなので、自然や街の歴史とも繋がりを感じられるイベントですし、紛争で文化も失われ、国際的な映画を持ってくるチャンスもない…そんななかで、17年前くらいに始まったんですけど、「映画館がないなら外で観ればいいじゃないか」というポジティブな気概に満ちた映画祭でもあります。そのエリアの雰囲気を感じながら、そこで世界に触れることができる。そんなところに共感して、「石垣島ゆがふ国際映画祭」の参考にさせていただきました。

【上原】エンターテインメント創出拠点とすべくスタートしたという「沖縄国際映画祭」とは異なるアプローチだと思います。

■石垣島でやるからこそ「人と自然の共存」を考える機会にしたい

プレイベントではプラネタリウムでも映画を上映

プレイベントではプラネタリウムでも映画を上映いしがき島 星ノ海プラネタリウムのドーム内

――テーマ・コンセプトに込めた思いを教えてください

【上原】「Cinema at Sea」というテーマには「海を超え、その広い海の視点で世界を見る」という意味を込めています。選りすぐった50以上の作品を通じ、新しい視野を開き、人と自然の共存に敬意を払うような場を作り出そうと考えて、これをテーマにしました。

【黄】石垣島を小さな島・日本の端にある田舎…と捉えれば、地元の人は「島の外に出たい」と考えてしまうかもしれないのですが、今回のプレイベントで上映したドキュメンタリー映画『島々の歌~スモールアイランド・ビッグソング~』のように、世界の海からの視点で見れば、石垣島は独自の文化を持った、小さくない場所。この映画で描かれたように、国境がなかった頃は台湾、東南アジア島嶼部、太平洋の島々、マダガスカルなども同じルーツを持った1つの大きな民族で、世界への広がりを感じさせるものでしたが、そんな風に、石垣島も広がりを感じさせる、独自の文化を持った島なので、ここに国際的な場を設けられたらなという思いもあって、映画祭をスタートさせるに至りました。

【上原】来年のコンペティション部門では、“強いメッセージを含むアーティスティックな手法で作られた映画的なドキュメンタリー作品”をジャパンムレミアで上映する予定です。作品の応募期間は2020年2月1日(土)から6月30日(火)まで。最優秀作品には「金のさなぎ賞」を贈呈する予定です。また、コンペティションに選出された方々や新人俳優賞に選出した方をゲストとしてステージに迎え、トークセッションや観客参加型のQ&Aも実施予定です。

今回のプレイベントでは28年ぶりに石垣島に台風がきてしまって野外上映の中止を余儀なくされたり、来年夏には西表島が世界自然遺産登録を目指していたり…といったトピックがありますけど、この場所でやるからには、自然や自然災害、環境保全の在り方にも向き合ってフォーカスしていきたいですね。

■娯楽性もあり!セレクションはバラエティ豊かに

サミー・サモエラ氏のライブパフォーマンスの様子

サミー・サモエラ氏のライブパフォーマンスの様子

――“強いメッセージを含むアーティスティックな手法で作られたドキュメンタリー作品”だけでなく、プレイベントでは、謎の知的生命体と意思疎通を図ろうとする言語学者が主人公となったSF作品『メッセージ』(16年/アメリカ)が上映されましたが、映画祭では大型作品の上映も予定しているんですか?

【上原】“ビーチナイト上映”は幅広い層のお客さまが来て下さると思うので、娯楽性のある作品を選びたいと思っています。今回の『メッセージ』は美しい作品ですし、是非ビーチで観たい作品でしたが、自然には勝てませんからね。ビーチ上映は出来ず、室内上映に切り替えましたが、ご覧になっていただいた方々からとても良い反応をいただき、嬉しかったです。

【黄】野外上映の選定は面白いですね。映画って、野外で観た方がいいものと、そうでないものがあるので。『メッセージ』の空気感・緊張感は、外の空気と合っていると思いました。音響も重要で、外という環境ならではの効果もあるのではないかと思っています。例えば、風の音・海の音を聞きながら観たいかどうか。そういったことも考えながら作品を選ぼうと思っています。

あとは作品群の中でバランスを考えつつ、アニメ作品も上映していきたいですね。市民映画祭ではなく、国際的な映画祭なので、さまざまなものを地元の人にも楽しんでいただきたいんです。

【上原】国際的な作品を持ってくるのはプログラム・ディレクターの黄さんを中心としたセレクションチームの役割ですが、イベントの運営は、実行委員会だけでなく、地元の人との連携が欠かせないと思っています。既に、こういった動きに興味を持った方々、アートに造詣の深い方々、文化を育てていってくれそうな方々で新たな輪が生まれ始めています。

【黄】老若男女問わず、シネフィルの方々にも来ていただきたいです。本祭は10日間と長いので、旅行で石垣島にきて、昼間は近隣の島々で遊んで、夜は映画祭で…という遊び方をする人、また、ガッツリ映画を楽しみたいという人、両方のパターンも想定して、プログラムを作っていきます。

■唯一無二の映画祭を目指して。親和性が高いものは連携を

「2019年プレイベント」の様子。地元の高校生たちによる伝統舞踊も行われた

「2019年プレイベント」の様子。地元の高校生たちによる伝統舞踊も行われた

――今後(第2回目以降)の展望をお教えください

【黄】テーマとしては、海、島、自然といったキーワードは入ってくると思います。

【上原】この映画祭を着実に育てていきたいので、慌てて大きなイベントにしようとは思っていませんが、インパクトは残したいですね。

――近年、日本の各地で増えている映画祭についてのお考えを教えてください。また、なぜ地方で映画祭が増えていると思いますか(2019年は大小含め160弱の映画祭が開催/開催予定)

【上原】山形国際ドキュメンタリー映画祭は、日本では世界的に認められている数少ない国際映画祭ですが、それが2年に1回、10月に行われているので、そこには被らないようにやろうと考えていました。できれば上手く連携していければと思っています。国内に限らず、海外の国際映画祭との連携の話も進行中ですので、国際的なネットワーク作りは欠かせないと思っています。

【黄】都会の豪華な映画祭、高級な映画館で観る映画祭とは異なりますね。「石垣島ゆがふ国際映画祭」は、独特な雰囲気を出す映画祭としてやっていきたいです。あと、自治体が中心となった地方の映画祭は、観光客を呼びたいというのがあるかもしれないので、元から観光客が多く訪れている石垣島としては、それも別物と考えています。

【上原】もちろん、映画祭は観光コンテンツになり得るとは思っていますし、そういったことで映画祭が増えているのかもしれませんが、私たちは、地域に根差した文化的な活動・事業の醸成というところからスタートしていますから、利益のためだけで考えているわけではありません。何よりも、これは“映画祭”ですから、主役は人々であると同時に“映画”でなければなりません。

――映画祭を維持していくことは難しそうですか?

【上原】維持は大変に違いないと思います(笑)。地元の人たちと共に盛り上がりながら、1回目から良いセレクションをして、シネフィルの方々にも満足していただきたいと思っています。

【黄】さまざまなターゲットを想定しながら、宣伝もしていかなくてはいけないと思います。協賛してくれる企業さん、メディアパートナーさんも大募集中です!

「石垣島ゆがふ国際映画祭」は、2020年の11月に誕生!地元の人を楽しませ、島外の人にはメッセージを発信、映画好きにも納得される…、そんな形を目指す同映画祭は、初回以降、どのような広がりを見せるのか、期待が高まる。

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