青木 豪・伊礼彼方インタビュー「星の王子さま」の世界、再び
関西ウォーカー
WEB連載「演劇ライター・はーこのSTAGEプラス」Vol.75。今回は音楽劇「星の王子さま」に出演する伊礼彼方さんと、脚本・演出を担当した青木 豪さんへインタビュー!

2015年から16年にかけて上演された音楽劇『星の王子さま』が再演される。世界的ロングセラーの名作を、劇団☆新感線ほか多彩な作品を手掛ける青木 豪が脚本・演出を担った音楽劇だ。星の王子さまを演じるのは、ミュージカルで透明な歌声を響かせる昆 夏美。

青木が雑誌の写真を見た瞬間に「この子だ、王子さま!」とひらめいた特別なキャスティング。また、近年は大型ミュージカルの大役などで注目の伊礼彼方が飛行士役をはじめ多彩な役を。達者な廣川三憲(ナイロン100℃)と星巡りのさまざまな役を“えぇ声”の2人が演じる。この3名に実力派アンサンブルが加わって作り上げられる、大規模ではない上質の舞台。
初演の時から再演の声が内外から上がっていた作品で、関西では兵庫で4年ぶりの再演。シンプルな舞台セット、ピアノとコントラバスの心地よい音楽、3名の確かな歌…。昔読んだ『星の王子さま』の中で語られる言葉や断片的なイメージが、目の前に広がる。少人数のシンプルな舞台は、劇場に限りなく広い宇宙空間を生み出し、ふわりと温かでなにか懐かしい空気が流れる。「もう一度、原作を読んでみよう」。そこにいた観客の多くが、きっとそう感じたに違いない。

11年、劇団☆新感線の『港町純情オペラ』で出会った、青木 豪と伊礼彼方。昨年『相対的浮世絵』の公演で来阪し、「二人の結婚発表みたい」と笑わせながら記者会見に臨んだ。原作の印象、作品への思い、再演に向かう意気込みなど、この舞台への愛を感じる会見となった。実力ある作り手が、“仕事”ではなく、愛を込めて向き合った作品は間違いなくおもしろい。そんな舞台が「音響もよくて、気持ちがいいホール」と語る初演と同じ兵庫県立芸術文化センター阪急中ホールで間もなく上演される。
『星の王子さま』。子供の頃読んだ人、ファンの人、途中で挫折した人、読んだことのない人、そして初演を観た人、観逃がした人…誰が観ても、今の年齢を生きるあなたの心に響くメッセージが届けられるだろう。『星の王子さま』が、なぜ名作と言われるのか。その答えをこの舞台で体感してほしい。
原作について
青木:読んだことはあったんですけど、いつもバオバブのあたりで寝ちゃうんですよ、いつも(笑)。ウワバミがゾウを飲み込んで…って、何がおもしろいのかわかんなくて。だから最初お話をいただいたときに、名作と言われているんだから、じっくり向き合ったらなぜ名作なのかわかるんではないか、という思いがありました。
伊礼:僕もお話は知っていましたけど、子供の絵本かなぁと思っていて、そんなに思い入れがあるわけではなく。改めて読んで、大人に届く内容に書かれていて、けっこう哲学なんだなぁと思いました。だから、年を取ればとるほど、理解が深まっていく作品なんだろうなと思います。
再演について
青木:4年前に初演が終わった瞬間から、伊礼くんも昆ちゃんも廣川さんも、もう一回やりたいねって。僕自身もすごく気に入った作品でした。大きいミュージカルではなくて、手の届く距離で、じんわりと出来る音楽劇を作ったつもりです。なるべくならお客様と距離が近いところでやって、お客さんと密接な感じの音楽劇になったらなぁと。キャスティングもスタッフのみなさんも、全体的に最初から、この人たちとやりたいっていう人たちと作れたので、これが再演できるのはうれしいです。よりブラッシュアップした形で作れたらと思っています。
伊礼:ここに書かれているテーマともう一度向き合いたいというのが、再演への大きな希望です。“大切なことは、目に見えるものだけじゃないんだぞ”ということを、僕自身がもっともっと体験していかなきゃいけないなと。楽器もピアノとベースだけのシンプルな構成の音楽劇で、笠松(泰洋)さんの音楽がとても居心地がいい。とにかく僕は曲も好きですし、豪さんの演出も好きですし、何よりも僕はこのテーマと一生つきあっていかなきゃいけないって思っているので、もう一回『星の王子さま』を演じたいんです。だから希望が叶ってうれしいです。
お互いをどう思う?

青木:(伊礼さんは)こんなにカッコイイのに気さくなんですよ。全然気取らないのと、あと芝居が好きなのと。人と交わるのが好きなんだなっていう感じがいいですね。飛行機を修理する場面を踊りで表現するんですが、振りをつけたところだけではなく、その間をどうやって埋めるかということにめっちゃこだわる。そういうところも一緒やってて楽しい。
伊礼:(青木さんは)笑ってらっしゃるとゆるキャラに見えるんですけど、考える時とか眉毛が漫画のように上がって、ほんとに怖い顔になる(笑)。こういう方から、こんな繊細な言葉が出るんだって、正直驚かされます。とても細やかなアドバイスをくださる信頼できる演出家なので、困ったらすぐ相談に行きます。うれしいのは、信頼もしてくださってるからだと思うんですけど、途中までほったらかしにして、いろいろチャレンジをさせてくださること。ガチガチに決めようとはされないタイプなんですね。
物語で響くところは?
青木:「一度関係を持った人に対して、ずっと責任を取らなきゃいけないんだ」ということが書かれているんだなって、僕には染みたんですね。砂漠に不時着しちゃった時に着想を得ているから、作家自身の想いかもしれない。自分の家族のことを思いながら、僕自身も「一度関係を持った人に対して生涯責任を取らなくちゃいけない」と。最初はそれが全然読めなかったですね。
伊礼:大人に向けて書かれている本ではありますけど、年齢問わず、それぞれに適したメッセージが含まれているからね。そこにとても大きな魅力を感じている。僕は、「目に見えないものの大切さ」を前回すごく感じたんですけど、今回は言葉の大切さ、コミュニケーションの大切さとかも。「責任を取る」もそうですけど、一度築いた関係を簡単に手放してしまうじゃないですか、今。ていうか、ネット上だと関係が出来上がってないわけで。僕自身も毎回演じながら、ここが足りてないなって思うんですよ。
今回の見どころは?
青木:曲は、初演の時よりもっと身近な曲にしたいなと。
伊礼:見どころはバラ。ピアニストがバラの役を担う。
青木:そうですね、そこはかなりこだわってたところで。原作を読んで、居丈高なバラってなんだろうなって思ってて、無感情に言ってる人の方が居丈高に思えるなと。もともとバラはピアニストがそのままやります。今回はキャスティングが変わって違うピアニストになるんですが、そこはこだわっていきたいなと思います。
伊礼:『星の王子さま』は、比較的、繊細な芝居が出来ると思っているんですけど、難しいのは歌があること。ファンタジーにならないように、なるべく会話劇のようにしたいなと。そのためにキーを下げたり、音楽的にリアルな音を発することができないかという相談を持ち掛けているんです。そうなったら、この作品をもっと身近に感じてもらえるだろうし。
この舞台に思うこと
青木:自分の中で大事なお客さんという人がいるんですが、その人から初演のあと「この音楽劇が好きだから、星の王子さまの原作を何度も読みたい」って言われました。自分がわかんないから作り始めたものが、それを改めてまた原作に向かってもらえるのは、あ、ちょっといい作品になったのかなっていう感じでした。
伊礼:大きいものをやらせていただいているから、その違いを感じるんですけれど、演じてる時も終わったあともそうなんですけど、流れてる空気がすごくおだやかで温かいんですよ。そういう作品て、なかなかなくて。終わると、またこの作品に帰りたいって思わせてくれる。温かいんです、とにかく。
青木:それはあるかもね。
伊礼:この作品はとてもアットホームで、家族のつながりを感じるんです。それが心地よくて、終わるたびにまたやりたいって思うし、公演回数が少なくなってくると寂しくなる。
ほんとになんか温かい空気がずっと流れているんですよ。お客さんが大きく笑うとかがあるわけではないんです。ただ、そこにみんながいる心地よさっていうか。当たり前のように、みんなそれぞれ何かを抱えながらそこにいる、お客さんも演者もスタッフさんも。なんか刺激的ではない一体感、みんながつながっているって感じられたんですよ。それがすごく幸福だったなぁという記憶が残っていて。だから、自分が疲れたなとか、世の中がちょっとよどんで来たなって時に、あの作品をみんなで観よう、感じようとすると、またエネルギーをもらえる。なので、僕はライフワークとしてこの作品を定期的にやって行けたらと思っています。

青木:なんかね、矢野顕子さんがピアノ1本でやる出前コンサートみたいな感じの音楽に似てるのかなぁって。たま~に行きたくなるのね、顕子さんのコンサートに。
伊礼:あ~、わかる。
青木:そういう感じかな。自分で作っても、そんな感じがあったんだなって。お客さんにも、またやってるから行こうかなとかって思ってもらえると。
伊礼:ほんとにアコースティックライブみたいですね。ピアノとベースだけで、そもそも音の種類があったかみのある楽器なんですね、どっちも。テーマがテーマなだけに、時間がゆった~り流れる感じがして。
青木:原作もそうだけど、何度も読んでるうちにわかることと1回でわかるものとありますよね。何度も読むものって、けっこう大事だなっていうのを、この舞台を作りながら感じてたとこがあります。あとね、作りながら読んでて、この原作はそもそも砂漠で1人になって死ぬかもしれないと思った時に、悶々と考えてたところが出発点なんだと思うと、僕らが明かりも食料もないところで、ずっと一人で模索するって、あんまりないですよね。
伊礼:自分との対話なんだろうと思うんですけど、だからこそ飛行士のいろんな面が飛び出して絵になっていく。素晴らしいテーマだなと思います。
プロフィール
あおきごう●1967年4/12生まれ、神奈川県出身。1997年、劇団「グリング」を旗揚げし、2014年に解散。現在はプロデュ-ス公演や劇団などへの脚本提供、演出を行っている。近年は、18年に劇団四季『恋におちたシェイクスピア』を演出、昨年は『黒白珠』の脚本、『マニアック』の脚本・演出など、バラエティに富む作品を多数手掛けている。
いれいかなた●1982年2/3アルゼンチン生まれ、神奈川県出身。中学生の頃より音楽活動を始め、ライブ活動などをしながらミュージカルと出会う。その後はジャンルや役柄を問わず、幅広い表現力と歌唱力を武器に活躍している。近年は大型ミュージカルへの出演が多く、16年は『グランドホテル』『王家の紋章』、18年『ジャージー・ボーイズ』、昨年は『レ・ミゼラブル』などに出演、今年は5月以降『ミス・サイゴン』の出演が控える。
STAGE 音楽劇『星の王子さま』 チケット発売中

公演日時:2月15日(土)15時、16日(日)14時 会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール 作:アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ 脚本・演出:青木 豪 作曲・音楽監督:笠松泰洋 出演:昆 夏美、伊礼彼方、廣川三憲、吉田萌美、内田靖子、岡野一平、平山トオル、原田智子、沼舘美央、大内慶子、堀江葵月 ピアノ演奏・薔薇:松木詩奈 コントラバス演奏:小美濃悠太 価格:5500円 問合せ:0798・68・0255(芸術文化センターチケットオフィス) HP: http://www.gcenter-hyogo.jp
高橋晴代・はーこ
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