【その3】話題の展覧会&平等院襖絵公開が12/2(日)まで! 画家・山口晃氏にロングインタビュー!
関西ウォーカー
_街の画はパノマラ状ですが、あれほど俯瞰で緻密に描くというのは、肉眼ではヘリコプターにでも乗って写真にでも残さないと描けないのでは?
あの画はですね、地図なんですね、要は。グーグルマップを使ったこともあるんですが、そういったものを使わないで描く楽しみは、本物を見た時に「あっ!全く違う!」っていう(笑)。これが本当に楽しいんですよ。実際におやりになってみるとわかると思うんですが、行ったことの無い街の地図だけを見ると、商店街の部分だけ紅く塗られていたりするんですけれども、あくまでも想像では「アーケードの下にはお店がいっぱい並んでいて、人が右往左往して賑やかで…」と想いながら描くんです。だけど実際行ってみたら、商店街とは名ばかりの、シャッター街のさびれた雰囲気だった…っていうのを間に当りにすると、自分の中で出来上がっていたものとはまったく違う「いつの間にこの世界が変わってしまったんだ」っていう、何とも不思議な感覚になりますね。
_新しいタイプの逆転現象ですね(笑)。じゃあ、リアリティというものにはあまりこだわっていらっしゃらない?
う〜ん、リアルにはこだわりませんが、リアリティはでるように心がけます。第一種低層地域にいきなりドカンとでかい高層ビルを建てちゃまずいだろうとか、そういう感じですね。グーグルに関しましては、僕は3Dで見られるソフトがございませんので、上から見ると影が見えるんですよ。それで、このくらいの影の伸び方なら、だいたいこのくらいの高さのビル群かな?というか、こういう建築条件のところなのかな?という感じで、そんな個々の建物をリアルに描きたいというよりは、街の持っている性格のようなものを見たいもので。なので、各々は間違っているものが多いと思います。むしろ、みなさんが知っている、覚えていそうな建物というものは「崩す」んです。
_「崩す」というと?
例えば東京タワーでしたら、なんとなく、みなさんの頭に浮かぶじゃないですか。そうすると「じゃあタワーの上を五重の塔にして」とか「瓦を乗せとこうかな」とか実物からずらして「崩す」ことができる。そしたら見た方は「なにこれ、東京タワーだけど、フフフ…」みたいになってくれるんじゃないかと。
_まんまとハマってしまいましたね、私は(笑)。「メカごころ」に話は戻りますけれども、ああいう感じで日用品や日常風景があんなふうにトランスフォームしていくというのは、どういうきっかけなんですか?
いやあ、たぶん…みんな見えてると思ってますけど、描こうとしないだけで。僕の描いたものは、特にメカメカしいから余計にそう感じるのかも知れませんね。例えばメカには興味のない女の人でも子供の時のままごととか、とてもその精度を持たないものを、なにか家庭の調理器具とか家財道具に見立てて遊んでいたかと思うんですが、要はそういうことなんですよね。
_おままごとの延長?
「大人になっても続いている子供の部分」と言いますか。それが、大人として得た技巧によって表現されている。そこが芸術では一番大事なのではないかと思います。もうちょっと商業的になったりとかすると、幼児性のところがカットされちゃうんですけれども、それはそれで完成度の高いものが出来上がるんですが、その振り幅といいますか、人間の真相心理の深いところまではなかなか届かないんですね。子供っていろんなものが説明できなくてやっているものじゃないですか。そういったところにコミットするにはやっぱり、幼児性というのはとっておいて。ただまあ、いい大人がそればっかりやっていますと、ちょっとどこかに隔離されてしまいますので(笑)。そこはもう、大人の判断力で。でも幼児性を無くさないで、というのがやっぱり大切だなと思います。プロの伝える力と幼児性が繋がれるからこそ、芸術家というものが存在する意味があるのではないかと。必ず人に繋がれるように創れるのがプロですから。訳のわかんないものを訳のわからないままでやってしまっていても、それはただの子供なので。
_今日初めてお会いして感じた事なのですが、山口さんはご自分が「アーティストである」という自覚がとっても希薄ですよね…ごめんなさい(笑)。
いえいえ、その通りなんです(笑)。だいたいにおいて信じてないんですね、自分で(笑)。何と言ったらいいか、それが本当におもしろいな、と思う部分ももちろんあって。その一方で「そんなもの捨てちまえ!」という気持ちもあって。だから本当に「アート」とすべてをひと括りにしちゃいけないんですね。その中にも、良いアート悪いアート、楽しいアート、つまんないアート、つまんないけど良いアート、楽しいけれども駄目なアート…という感じで、いろいろと錯綜しているんですよね。表層だけをやってアーティストめかしてやっていてはだめなんです。ああいう事をやる人がいるから、また人がアートを嫌ったり離れていってしまう。もっと日本人がこれまでやってきたような、だけどそれともどこか違うような領域がいいんじゃないかな、と思っています。僕自身は、アート寄りである時もあれば、ただのお絵描き少年である時もありますし。見る人が見れば、なにか色々とやり散らかしているように見えるのかも知れませんけれども、もうちょっと違っていて。自分にとっては「お絵描き」というのが本当に感覚的には近いのかも知れませんね。その「お絵描き」がなにがしかの深い…なんだかよく解らないものとコミットした時にアートっぽく見える作品になったりですとか、そういう感じなのではないかと。
【取材・文=三好千夏】
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