【その3】恒例の「ほろ酔いコンサート」がことしも! 新譜もリリースした加藤登紀子にロングインタビュー
関西ウォーカー
_「青いこいのぼりと白いカーネーション」は、三陸の少年の日記がきっかけで出来た曲なんですね。
そう。これは3月11日が卒業式だったっていう、三陸の少年の日記から生まれた歌なんです。彼はいつものように、軽トラで出掛けていくお父さんを見送って…それであの津波がきて、そのままお父さんは行方不明になってしまい、暫くして亡くなられていたお父さんと対面することになるんですが、それをずっと日記に書いていたんです。最後に対面したその時、お父さんがつけていた腕時計が動いていて。彼はそれを自分の腕に付け替えて、自分はこれから頑張って生きていくと心に決めた、と書いてありました。すごく素朴な日記なんですが、ほんとうに素晴らしくて。それをヒントにもらって作りました。2番の詩は私の創作なんですけど、母を亡くした子供が夕暮れになるとそれを思い出して、「おかえり」という声が聞こえてくる…とても幸せそうなお母さんの顔が浮かんでくる。「あなたは私の夢のすべてだから、他には何もいらないのよ。あなたが元気で生きてくれさえすれば、私は他にはなにもいらない」っていう歌詞で。非常に厳しい事だけれど、親は自分より先に亡くなってしまうわけで、みんなそれを受けてどんどん次の世代へと繋がってきたわけだから。だけど何かが失われた時に頑張って生きていけば、きっと自分の力になって返ってくる。私はそう思っていますね。悲しい出来事を曖昧にするのではなく、それをちゃんと受け止めて、しっかりと自分の踏み石にしていく。それはとっても大事な事ですよね。
_登紀子さんの歌は空気や水のような存在ですよね。こう…みんなが自分の血肉に変えようと、登紀子さんの歌を求めにくるというか。
このあいだコンサートに行ってきたブータンでも、「あなたはどういう歌手人生を歩んできましたか?」というインタビューを受けて、「私は一生懸命、種を見つけてはそれを蒔いてきました」って答えたの。その「種」っていうのはね、人々の心が土で、そこに種を蒔いて、その種が合った人の心の土から芽が出て、花が咲いて…っていう、そういう意味でね。その風土に合っていればそれは咲くし、土がそれを拒否すれば咲かないかも知れない。でも、種を見つけて蒔くまでが私の仕事だと思っているので、自分の中で「どんな花を咲かせよう」という気持ちを作ることですよね。でもこの間ふと思ったんですけど、「あれっ?私ったら種は蒔いても耕したり草を抜いたりっていうお世話はしてないんじゃないかしら」って思ってね(笑)。それじゃいけないよね。ちゃんとお世話が行き届く、種を蒔くべきフィールドを作っていくのも大切よねって思いましたね(笑)。
_(爆笑)!
歌が発売されてセールスの数字が出るじゃない?それで伸び悩んでいるときにね、スタッフのみんなに「蒔いている場所が広いんだから、そりゃ相当な時間がかかるものなのよ」って慰めるの(笑)。まあ、それは冗談ですけれど(笑)。だけど振り返ってみるとね、私の歌は、土の中に種を蒔いてゆっくりと時間をかけて発芽してくるものが多いんですね。たとえ時間がかかっても芽が出てくるということはすごいな、と感じますね。
_先ほどのお話にも出ましたが、ブータンでのコンサートは登紀子さん自身の希望がきっかけだったそうですね。
そうなの。去年遊びに行って、それで気に入って(笑)。それで、「これは時の勢いだからやっちゃおう!」って(笑)。ちょうど、同じようにブータン王国を好きな人が私の身近にたくさんいて。そのなかにブータン友好協会に携わっている友人もいたので、その方からの繋がりで、このあいだブータン国王夫妻が来日された時に私もレセプションでお会いすることが出来たんですけれども、その時も「やあやあ!」って感じで、すごく気さくにお話してくださってね。それでこちらも「あなたの国でコンサートしたいんですけれども」って言ってみたら「ぜひ来てください!」と言っていただけて。
_ふたつ返事ですね(笑)!
そうでしょ(笑)。それでブータン友好協会の友人らと実現に向けて準備に入ったんですよ。私のひとつの想いとしては、今のようにこれだけブータン王国が注目されていると、当然日本のお金もたくさん国に入っていくでしょうし、観光客もたくさんいらっしゃると思うんです。ブータン王国から見た日本というのは「テクノロジーの国」だと思うんですが、その一側面ではなく、同じ精神風土を持った民族として、彼らと繋がりたいと思っているんです。これは密かな願いなんですけどね(笑)。それにブータン王国の音楽って、日本の民謡とよく似ているところがあって、三味線や笛とよく似た楽器を使うところですとか。
_実際に、現地でのコンサートはいかがでしたか?
すごく気持ちが良かったですね!コンサートを見に来てくださった方からは「まるで里帰りをしたかのように楽しそうに歌っていたね」って言われるほど(笑)。それはたぶん、自分にとってその場所が「いい土」だったんでしょうね。やわらかな、感じやすい、生きている土だったという感じですね。だからすごくいい時間、いい空間でしたね。
_それにしても、お話をお聞きしていると、コンサートにしてもコラボレーションにしても、本当に好奇心とバイタリティに溢れた方ですね!
エネルギーを使ってないからですよ(笑)。もうね、ただ綿毛のように種付けてふわふわ飛んでいるだけなの。「ここに降りてみようかな〜?どうかな〜?芽が出るかな〜?」という感じ(笑)。それは自然に、偶然に出会うものだけれどね。
【取材・文=三好千夏】
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