“空のF1”レッドブル・エアレースは衝撃的な迫力!オーストリア最終戦をレポート【後編】
東京ウォーカー(全国版)
「今季からエンジンとプロペラが全選手共通になったので、パイロットの操縦技術がタイムに大きく影響するのは間違いないですね。ただ、エンジンとプロペラ以外にも改良できる部分はあるので、各チームが工夫を凝らしています。だからマシンに隠された秘密を知るとさらに楽しめると思いますよ。例えば、機体の塗装は空気抵抗に大きく関わる部分なのでかなりこだわっています。水泳選手がサメ肌の水着を着て水の抵抗を減らすのと同じで、極力薄い塗装を施しています。マシンの重心も操縦性に影響しますから、ウェイトの位置を数センチ単位で変えてバランスを調整したりもするんですよ」
尋ねれば尋ねるほど尽きることのない細部へのこだわりと限界への挑戦。「パイロットだけではなく、メカニックスタッフにも光をもっと当ててほしいですね(笑)」と橋本さんが語るのも頷ける。エアレースは、飛行機好きやメカニック好きだけが楽しむのにはもったいないほどの魅力を持っている。そんなことを感じられたハンガーウォークであった。
続いてテスト飛行が行われ、その後、いよいよ予選が始まった。各選手が2回ずつタイムアタックに臨むのだが、まずはランキング12位のマイケル・グーリアン選手(アメリカ)からスタート。室屋選手は4番手で登場し、結果は57秒447で予選7位につけた。地元の期待を背負うハンネス選手は1人だけ55秒台という圧倒的なタイムを叩き出し、首位で翌日の決勝へと繋いだ。橋本さんによれば、ハンガーウォークを終えた辺りから、パイロットの緊張感は一気に高まり、声もかけ辛い雰囲気になるのだとか。
予選同様の青空のもと、約3万5000人の観客が集まった2日目の決勝。まずは予選の結果に基づくマッチプレイ方式(1位vs12位、2位vs11位、3位vs10位…の順に対戦し、6人の勝者に加え、敗者の中からタイムの良い上位2人をプラスした計8人が勝ち抜く方式)で準々決勝が行われた。トップバッターは室屋選手。対戦相手は2013年のシリーズチャンピオン、ポール・ボノム選手(イギリス)。室屋選手は旧型の機体を使用しており、機体のハンディを操縦技術でカバーするタイプ。そのため「穏やかな天気でフライトコンディションが良かったから機体の差が出やすかった」とフライト後に語っていたように、この日は技術を生かし切れず僅差で敗退。結果的に室屋選手は58秒335のタイムで最終戦は9位。シリーズランキングも9位で2014年のレースを終えた。
その後、上位8人によるタイムアタックで競う準決勝を通過し、さらに上位4人で戦う決勝まで駒を進めたのは、初タイトルを狙うナイジェル選手と、地元での逆転優勝の期待を背負うハンネス選手、第6戦のアメリカ大会で優勝しているニコラス・イワノフ選手(フランス)、そして初の決勝進出となったマーティン・ソンカ選手(チェコ)だ。ここまでくると観客の盛り上がりも最高潮に。多くの地元ファンがハンネス選手へエールを送る中、1番目に飛んだニコラス選手が57秒468をマーク。2番手のナイジェル選手が58秒052。続くマーティン選手はペナルティを取られ3位に。この時点で総合ポイントによりナイジェル選手の初シーズンタイトル獲得が決定した。ハンネス選手による劇的な逆転ドラマを期待していたファンも多かっただろうが、彼が飛ぶ前に結果が決まってしまうというなんともあっけない幕切れであった。シーズンを通してみれば、ナイジェル選手が第3戦のマレーシア大会での優勝後に2位入賞を4回果たし、ポイントをコンスタントに獲得してきた順当な結果ともいえ、一発逆転はなかなか叶わないシーズン戦の難しさを感じた瞬間でもあった。
当日の会見ではレッドブル・エアレースが2015年も開催されることが発表され、レース後の記者会見でナイジェル選手はこう語っている。「(今年は)以前より選手間の実力差が縮まったように感じたシーズン。来年は各選手がさらにスピードをつけてより難しいレースになると思います」と。つまり来年はパイロットにはよりシビアな戦いになるかもしれないが、観客にとっては面白味が増すことに他ならない。また今回の現地レポートでエアレース観戦は、ルールがシンプルで初心者でも分かりやすく、1回のタイムアタックが1分程度なのでサクサクと進むことも魅力だと感じた。F1やラリーなどのモータースポーツに比べても、もしかしたら楽しむためのハードルは低いのかもしれない。低空で行う競技なので、一部始終を目撃できるのもエアレースの特徴なのではないだろうか。
決勝後、室屋選手と食事を共にする機会があったので、日本で開催されたとしたら?という質問をぶつけてみた。「そんな機会が訪れたら素晴らしいでしょうね。メディアの皆さんからも運営にお願いしてください(笑)」と冗談交じりに笑顔で語ってくれた。いつか日本でもエアレースを観戦できる日が来ることを心から願いたい。【東京ウォーカー】
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