フィギュア村上大介の葛藤、アメリカから日本へ

東京ウォーカー(全国版)

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村上大介の名前を知ったのは、2006年3月のスロベニアでの世界ジュニア選手権。アメリカ代表のメンバーの中に日本人らしき名前を発見したのが最初だった。

浅田真央と小塚崇彦を目当てに集まった日本の報道陣の間でも、村上の存在は話題になった。ウエストサイドストーリーを表現力豊かに演じた演技が目に留まったのだ。

当時、ラファエル・アルトゥニアンに村上は師事していた。そこへ日本から一人のスケーターがチームに加わる。浅田真央だ。この出会いが人生を変えることになった。浅田真央の母、故・匡子さんから日本の代表として戦うことを勧められたのだ。

村上大介は神奈川県で生まれ、幼少期はそのまま日本で育った。そして9歳の時にアメリカへ渡り、スケートを始めた。たちまち頭角を現し、アメリカ代表として世界ジュニアに派遣されるほどの成長を遂げる。

この時点では「どちらの国の代表を目指すのかは真剣に考えていなかった」。だが、思春期を迎えた頃、自らのアイデンティティについて悩みを抱えるようになったそうだ。

村上の心情を知った浅田匡子さんは、熱心に説得したという。それは決して、アメリカでの競争が厳しいから、などといったネガティブな理由ではなかった。

「あなたは日本で生まれた日本人なのだから、日本人として戦うべきだ」。浅田匡子さんは、日本の代表として戦うことを強く勧めた。この言葉が村上の心を大きく動かし、2007年に日本へと拠点を移したわけだが、その後の道のりは決して順調とは言い難かった。

コーチや練習環境も頻繁に変わり、試行錯誤の日々が続く。層の厚い日本フィギュア界の一員になったことで、国際大会への派遣もままならない。2012年のNHK杯ではけがを悪化させ、途中棄権に追い込まれる試練も味わった。

今季、チャレンジャーシリーズ第1戦となるU.S.インターナショナル・クラシックでは、4回転サルコウを決めて表彰台に立った。しかし、その後の活躍を予感させるほどのパフォーマンスではなかった。

転機となったのは2014年11月の東日本選手権。この試合から変更した新作のショートプログラムが見事にフィットし、大舞台を戦う見通しが立ったのだ。

11月下旬のNHK杯では、ショートとフリー共に完璧な演技でグランプリシリーズ初優勝を果たす。一躍、平昌オリンピックの出場権を争うトップスケーターに仲間入りした。

2月中旬の四大陸選手権(韓国)では、優勝を目指したが結果4位。その夜は悔しくて眠れなかったそうだ。今季の厳しい戦いを経て、より負けず嫌いになっていることを本人も実感している。

ショートとフリーを併せて、4回転ジャンプを4度跳ぶ構成に、3月のクープ・ド・プランタン(ルクセンブルク)で早ければ挑戦するとのこと。同時にウイークポイントであるコンビネーションジャンプの改善にも取り組む。そして、平昌オリンピックの目標については、「優勝したい」とはっきりと口にした。

NHK杯直後の取材では、「オリンピックは意識していなかったが、これからは出場を目指していきたい」とコメントしていた。短いシーズンの間に意識の変化をこれほどまで見せる選手も珍しい。試合を通して自分自身の能力を再確認し、自信をつけたのだ。

最後に、「日本を選んだことに後悔はないのか」という質問に、村上は曇りのない視線で真っ直ぐに答えた。

「日本の代表として戦えることが本当に幸せなんです。確かに芽の出ない時期は長かったけれど、後悔したことはありません。日の丸を背負って国際大会で戦うことはとても大きな意味があります。今季の活躍でようやくスタートラインに立てました。これから日本のために貢献していきたいんです」。

自らのアイデンティティを確立し、村上大介はようやくスタートラインに立ったのだ。日本の代表として戦うことを勧めた、浅田匡子さんも天国できっと喜んでいるはずだ。【東京ウォーカー/取材・文=中村康一(Image Works)】

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