“フィギュア女子のホープ”青木祐奈、憧れは荒川静香
東京ウォーカー(全国版)
全国中学校大会(1月31日~2月3日)で表彰台に立つことはなかったが、上位3人にも負けない輝きを放った選手がいた。中学1年生の青木祐奈だ。
2014年の秋に開催された、全日本ノービス選手権大会(おおよそ9~12歳が出場)で圧巻の演技を見せつけて優勝を飾り、一躍注目の選手となった。
青木の武器はトリプル+トリプルのコンビネーションジャンプ。しかも、セカンドジャンプをループにするという難しい構成である。
スピン、ステップ、スケーティング、表現力といった全ての要素において、青木祐奈は中学1年生とは思えない完成度を誇っている。
往年の名選手たちが磨き上げてきたフィギュアスケートのエッセンスが、この若いスケーターに凝縮しているようだ。フィギュア女子の逸材が誕生した経緯を紐解いていきたい。
全国中学校大会のショートプログラムでは、トリプルサルコウ+トリプルループのコンピネーションで手痛いミス。ただ、その後はミスなくリカバリーし、出遅れはしたが最小限の失点で切り抜けた。
演技後には、「フリーでは“ルッツ+ループ”“サルコウ+ループ”という2種類のトリプルのコンビネーションを組み入れる予定」と宣言し、取材陣の度肝を抜いた。
これがいかにすごい構成なのか。かつて2000年のグランプリファイナルでロシアのスルツカヤが成功させて以来、一つのプログラムの中で、この構成を決めた選手はいない。とてつもなく大きな挑戦だ。
迎えたフリー演技で、冒頭のトリプルルッツ+トリプルループのコンビネーションを決めたものの、2つ目のコンビネーションでは最初のサルコウの着氷で詰まってしまう。セカンドジャンプにトリプルを入れるのは無理かと思われたが、半ば強引にトリプルループに挑む。ぎりぎりの回転ながら何とか着氷。
採点上もトリプルのコンビネーションと認定された。その他の要素も全てノーミスでまとめ、同大会で優勝した樋口新葉を上回る得点を叩き出し、フリーは1位。思わずガッツポーズが飛び出した。
演技後の取材、着氷が際どかったコンビネーションで、セカンドジャンプをダブルループに落とす選択肢もあったのでは?と質問したところ、そもそもダブルループをつける練習をしていないため、トリプルループに挑む選択肢しか考えられなかったとの回答。現時点では、臨機応変に構成を変えられるような器用さは持ち合わせていない。
しかし、どうしてセカンドジャンプのトリプルループにこだわるのか。「元々ループが得意、それが一番の理由です」。ループこそが最大の武器、だからこそより一層磨きたい、ということらしい。
ループジャンプに関して手本にしている選手は誰か尋ねると、ソトニコワと安藤美姫の名前が挙がった。その他の全てのジャンプの理想形は羽生結弦だとのこと。幅と高さがあり、軸がきれいな羽生の4回転が理想のジャンプだと語る。
2011年の東日本大震災後、羽生結弦はかつて師事した都築章一郎コーチを頼り、横浜のリンクで練習をしていた時期があった。そのリンクに、当時9歳だった青木祐奈がいた。羽生から体の使い方や陸上でのジャンプの跳び方を教えてもらい、練習後は遊んでもらっていたそうだ。
青木の意識の中には、往年の名選手たちの姿がある。スケートとしての理想形は荒川静香。テレビで、トリノ五輪での荒川の演技を観たことがきっかけでスケートを始めた。
荒川のスケートの魅力は「優雅さ」だと語る彼女は、荒川の表現力に少しでも近づこうと、指先や爪先まで意識することを常に心掛けている。中学1年生とは思えない表現力はこうして育まれたのだ。
また、荒川静香といえばスケーティングに秀でた選手。青木も重要性をしっかり理解しており、ホームリンクが閉鎖中で練習環境が整わない現在も、毎日時間を取ってスケーティングの練習をしている。
最後に、ずっと気になっていた質問をぶつけてみた。かつてノービス世代の選手といえば、とにかく勢い重視。元気よくジャンプを跳んで、スピンを回って、それ以外のスケーティング、ステップ、表現力は大きくなってから頑張ればいい、といった選手が多かった。
ところが新しい採点方式が定着して以来、ノービス世代のうちからあらゆる要素の完成度が求められる。
「大変なのでは?」。青木からは「上の世代に上がった時に必ず生きること。これから先、ジャンプはもっと難しい技を習得しなければなりません。そういった場面で、ジャンプ以外の要素が完成されていることは必ず役に立つと考えています」と明確な展望が返ってきた。
この意識の高さ。間違いなく、かつての採点方式の中からは生まれてこなかった選手である。時代が生み出したスケーターが、次の時代を作る。自らを「負けず嫌いで気が強い」と形容する力強い視線の先には、どんな未来が見えているのか。
青木祐奈が切り開くであろう新しい時代を見届けたいと強く願う。それはそんな遠い日の話ではないはずだ。【東京ウォーカー/取材・文=中村康一(Image Works)】
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