加藤登紀子×オーケストラ、「百万本のバラ」に魂込めて

東京ウォーカー(全国版)

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――加藤登紀子は戦争中に中国のハルビンで生まれ、敗戦後に日本へ引き揚げ、中学の途中までは京都で育ったが、1956年から東京に住んでいる。東京でいちばん好きな場所はというと、新宿の歌舞伎町。そこには、本人の家族がオーナーを務めるロシア料理店「スンガリー」が、今もある。 

正直に言うと、今の新宿は変わっちゃった。昔は映画を見に行くのも歌舞伎町だったし、本を買いに行くのも新宿だったし、新宿駅から歌舞伎町に向かっていく道というのは、解放区に向かう群衆のようだった。

あんなにうれしそうな人たちの集団って、今はいないよね。行く道々に、イカ焼きとかが出ていて、匂いがふわっと立ち上ってね。素敵な街でしたよ。

そして、音楽喫茶とか伝統的なお店もあったしね。駅の近くに風月堂なんかもありましたしね。花園神社もあって、ゴールデン街もあって。何て言ったって新宿なんですよ、私は。

コマ劇場の近くに「スンガリー」という私の父のお店があって、お金がなくなったらそこに行けばよかった。東大時代は演劇をやっていたんですけど、お金がなくなったら、みんなで時給100円でバイトして、そこで飲ませてもらって。

「1968」という私の曲で、「渚で聞いたコルトレーン」という歌詞があるんですけれど、「渚」というのは駅から歌舞伎町に行く途中のところにあったバー。着物を着たおばさんがママで、彼女がLPを聴かせてくれたのね。

当時の歌舞伎町には、ヴィレッジ・ヴァンガードとかヴィレッジ・ゲートとかニューヨークっぽいお店もあったのに。今は何もない街になってしまい、とにかく残念。

——今年は歌手デビューして50年。6月にはラトビア・リエパーヤ交響楽団との「百万本のバラ コンサート」が予定されている。戦後70年でもあるので、それなりの思いがあるはずだ。

1989年にベルリンの壁が崩壊して、そこで戦後が一つ、終わったでしょう。ところがそこから次の戦争の時代が始まってしまった。そんななかでの50年で、戦後70年。

「百万本のバラ」は、最初はラトビアの子守唄だったんです。それがロシア語に翻訳されて、ソ連でヒットしたんです。ソ連のヒットソングは、ウクライナ人とかグルジア人とか、バルト3国の人たちは、だいたい嫌いなんですよ。

だけど「百万本のバラ」は、全てのマイノリティの国の人たちも網羅するシンボルソングになったんです。この歌のモデルはグルジア人です。私はこの歌は民の違いを越えさせた、鉄のカーテンを乗り越えさせたような意味の歌だと思うんです。

それでソ連崩壊までの10年間のシンボルソングになり、不思議な運命を背負った歌として、今も歌われている。最初のラトビアの子守唄では、「神様はかけがえのない命を娘たちに与えてくれたけれども、幸せを与えることは忘れている。どうして神様は忘れちゃったの?」というような寂しい歌でした。

ラトビアの人たちの切ない気持ちがバックグランドにあって、涙が出ちゃうような曲なんですよ。それを、ロシア語にしたときに、どんなに届かなくても無限大の愛を伝えるんだ、という愛の歌に飛躍させたんです。

このロシア語も素晴らしいと思うの。そして、この詞が当時の独立を目指した人たちを支える歌になった。これもまた素晴らしいよね。今回のコンサートでは、そのもとのラトビア語の詞の意味と、それが愛の歌に変わってこんなにも広がっていく「百万本のバラ」になったこと、それを表現して歌おうと思っています。

コーラスも入れて、合唱劇のような形になります。バックはラトビアから呼ぶオーケストラ。昔はオーケストラをバックにして歌うのはあまり好きじゃなかったけど、今は大好きになりました。

でも、それぞれのミュージシャンたちをそそるというか、すごいエネルギーが自分の中から出てくるのがわかります。だから、一つの気持ちになる醍醐味があります。

今回は外国人のオーケストラだから、詞の意味も説明しながらやるのですが、きっと面白くなると思います。

日本人同士だと、歌詞が分かるとか、この歌を知っているということでの良さもあるけれど、私のこれまでの曲を知らない、初めて聴く人たちと演奏をするので、私を発見しながら演奏してもらえたらいいなと思っています。

そのラトビアの人たちとやることでの相乗効果が楽しみ。何かが生まれるのではないかと楽しみなんです。【東京ウォーカー】

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