正しいと信じたことを決断する勇気 映画「杉原千畝 スギハラチウネ」チェリン・グラック監督に聞く

関西ウォーカー

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第二次世界大戦前から大戦中にかけ、満洲やフィンランド、リトアニア、ドイツ、チェコ、ルーマニアなど各地に滞在し、世界情勢を収集していた男がいた。彼は日本の外交官・杉原千畝。ユダヤ難民にヴィザを発給し「日本のシンドラー」とも呼ばれた人物でもある。12月5日(土)、ドラマチックなその人生をリアルに描いた映画「杉原千畝 スギハラチウネ」が全国東宝系で公開された。本作のメガホンを取ったチェリン・グラック監督に作品に込めた思いを聞いた。

―本作を手がけることになった経緯をお聞かせください。

僕は歴史ものが好きなんですよ。事実の方が絶対におもしろいし、信じられないことが起こっているのに、それが事実だったという方がインパクトもあります。

僕は和歌山生まれですが子供のころはよく「ガイジン」と言ってからかわれました。そんな僕だからこそ、文化の違いが分かるし、文化の橋渡しができる。それが僕にとって一番興味のあることです。

杉原千畝さんのことは知っていました。杉原千畝のヴィザを持った何千人ものユダヤ人が、僕の育った神戸を通って上海やアメリカに渡ったり、そのまま日本に住み着いたりしました。ただ、これをどう映画にするかはなかなか考えられませんでした。

ところが、「太平洋の奇跡 フォックスと呼ばれた男」でご一緒した唐沢寿明さんが「何か一緒にしようよ。僕『サイドウェイズ』がすごく好きだったんだ」と声をかけてくださって、その後、唐沢さんに日本テレビから杉原千畝のオファーが来た時、声をかけてもらったのが本作を手掛けることになった経緯です。

―現場では日欧のキャストやスタッフがいたと思いますが、コミュニケーションで難しい部分はありましたか?

もちろん、英語などで難しい部分はありましたが、その橋渡しをするのは子供のころから慣れています。それに、映画作りはみんな「自分のランゲージ」がある。カメラはカメラだし、だいたいの人はこういう場合、何をすればいいかわかっています。そこを細かくどうするかということが、僕の橋渡しです。でも、言葉が分からなくてもフォーカスを送る人はフォーカスを送るし、カメラを押す人はカメラを押し、照明は照明を入れる。だから、みんなが思うほどには大変な作業ではないんです。

僕は英語も日本語も話せるので、通訳を使わず、自分の意思を伝えられます。それに関しては恵まれていますが、だからこそ僕はこういう作品が好きなんです。

―撮影中はどんなことに重点を置きましたか?

「あまりやり過ぎない」ということ。今回の主人公は、ある男の人生を歩みながら、我々を誘導するという役割もあり、唐沢さんはそれも素晴らしく果たしました。

我々が毎日やっていることは、どれだけ変わっても、一生懸命やったとしても、やり遂げることが目的でしょう。だから「きょうはヴィザを書くぞー」と力んだり「あと何枚、あと何枚」ってやるんじゃない。皿屋敷じゃないっちゅうの(笑)。できるだけのことをやって、次々書いていくだけです。杉原千畝がやったことの偉大さは数年後、数十年後にならないとわからない。彼はスーパーマンじゃないんですよ。偉大になるためにそれをやったのではなく、自分はこれが正しいと思ったことを大切にして、最後の最後までやり遂げて、できるだけのことをしたんです。そこをわざわざ、ヴィザを書く行為を大げさにするために手を血まみれにするとか、そんなことをするとまた違うものになってしまう。その点については唐沢さんも僕も同じ考えでした。

―本作をどんな人に見てほしいとお考えですか。また、見る人にメッセージをお願いします。

もちろん、すべての人に見てほしいし、自分自身や身内の人が戦争を経験した人にも見てほしいと思いますが、特に若い人に見てほしい。戦争には負けたかもしれないけれど、そんな風に尊敬できる日本人がいたということを伝えることも、目的ではないとは言いません。事実、リトアニアでは杉原千畝の話が教科書に載っていて、少なくとも6割の人が彼を知っています。たまたま彼が日本人だっただけです。だけど、それを知ってもらいたいとも思いますが、それよりもこんなひどい状況で自分が正しいと思ったこと、それを信じて実践した男の行動で、やがて偉大なことを成し遂げたという話をまずは見てほしい。人間は自分が正しいと思ってやったことをやり遂げれば後悔しない。後悔したとしても、やらなかった方が絶対後悔する。あのときやっておけばよかったなぁじゃ通用しないから、若い人にも見てほしい。

自分が本当に正しいと思ったことを決断しなきゃいけないときは決断しなさい、正しいと信じているなら、それで十分だと思いますよ。なにもせず、ノーリアクションで人生を通りすがっていくのはやめようと、それが私の伝えたいメッセージです。

【取材・文=ライター 鳴川 和代】

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