【中谷美紀さんインタビュー その1】中谷の初舞台「猟銃」が5年ぶりに再演
関西ウォーカー
映画にドラマに、映像作品で数多く活躍する中谷美紀が、2011年に文豪・井上靖の恋愛小説「猟銃」を原作にした舞台で記念すべき舞台デビューを飾った。それから5年。再びあの傑作が上演される。
演出は、アカデミー賞受賞作品を持つ映画監督であり、オペラも手掛けるカナダ人演出家フランソワ・ジラール。2人は07年公開の映画「シルク」で出会い、舞台は日本とカナダの国際プロジェクトで上演された。中谷は映像に留まらない実力と魅力を発揮し、ジラールの演出をはじめとするカナダ人制作チームも高く評価され、多くの演劇賞を受賞した。
原作は、1人の男の13年に渡る不倫の恋を、妻・みどり、愛人・彩子、愛人の娘・薔子(しょうこ)の3通の手紙で浮き彫りにする物語。年齢も性格も立場も違う女性3人を、中谷は1人で演じ分ける。また、手紙を送られる男・穣介(じょうすけ)には、ロドリーグ・プロトー。舞台奥に存在しながら声を発せず、身体表現だけで男の心を象徴的に演じる。
池の上をさまよう薔子、河原で哀しみを爆発させるみどり、情熱を抑え込み死に装束を着付ける彩子。舞台上には水が湧き、小石敷きの河原となり、元の木の床となる…。役の変遷に伴い、セットが瞬時に変化する舞台転換は、まるで魔法のよう。美しい照明と共にシルク・ドゥ・ソレイユでの経験が非常に効果的に生かされている。
その初舞台から2本の舞台出演を経た中谷。今回はどんな成長ぶりを見せてくれるのか。再演の稽古中に来阪した彼女に初演への想いと今回の意気込みを聞いた。
Q:初演の2011年まで舞台に出演されなかったのは?
勇気がなかったのと、舞台に立つからには身体の鍛錬をきちんとしていなければ出演してはいけないと勝手に思い込んでいたんですね。それをフランソワ・ジラールさんが、5年間かけて口説いてくださって。最初にオファーをいただいたのは10年前だったんですけれども、それから5年の間逃げ続けて逃げ続けて、それでも待っていてくださって、ようやく実現したんです。
Q:ほとんど1人芝居という大変な舞台ですが?
恐れの気持ちがあったのと同時に、多少ハードルが高くないと頑張れないところもあるんです。わりと簡単に手に入ってしまうものですと、頑張ろうという気にならなくて(笑)。で、「3役のうちのひとつ、どれでも好きな役を選んでごらん」って言われた時に、半ばお断りする気持ちでお会いしたのに、ついつい3役全部演じたいと言ってしまったんです。
Q:そこから3役を1人でやるという演出に?
その場でジラールさんは喜んでくださって、それならギャランティも3人に払うより1人の方が安くなる、経費削減になるって言って大喜びされまして(笑)。で、そのプランで演出を考え直そうとおっしゃいました。
Q:初舞台だった初演の感想は?
ただただ緊張していたのを覚えています。もうセリフを覚えるのにも必死で、何もかもが初めてづくしで、ゆとりがなかったですね。
Q:3人の女性の手紙の言葉もとても丁寧で。
井上靖さんの書かれた言葉は本当に美しく、かつ、どうしてこれほどまでに女心がわかるんだろうかと。3人の女性たちは、皆相手がいたら決して口には出せなかったかもしれないことを、手紙だからこそ包み隠さずに話せるのだと思います。しかも言葉が丁寧であればあるほど、より心にぐさりと響く…。恐ろしい手紙だと感じました。
Q:3者3様の女性ですが、演じてみて見えてくるものは?
3者は自らとまったく異なりますし、その一方で3者にどこかしら共感できる部分があります。
まず薔子という女の子は、若さゆえの潔癖というのでしょうか。自分の親や教師など、目上の人間が完璧であると信じていた時期というのがあると思うんです。でも、自らも大人になるにしたがって人間は決して完璧ではないんだということに気づかされる瞬間がある。気づいた時に薔子はまだそれを受け入れられず、非常に傷つき、またそれを嫌悪し、迷うんですよね。それはきっと若かりし頃の自分にもあったかもしれないと思います。
みどりという女性は、自らに無関心な夫に当てつけるかのように、不行跡な行いをするんです。有閑マダムのようなものなので、時間的にも経済的にもゆとりがあって、男性と遊んだりお酒を飲んだり、朝帰りをしてみたり。でも、結局はほんとに愛していたのは自らの夫だったという、なんかこれはとても苦しいというか悲しいですね。
また彩子という女性は、自らの従弟の夫、親戚と不貞関係にあるんですけれども、これがまた、本当に愛してるのかと思いきや、愛される幸せを選んだだけであって、ほんとに愛していたのは別れた自らの夫、かつての夫であったという。それに気づいたときに自ら死を選ぶ。これもまた悲しい人生だなと思いました。
その2へ続く(http://news.walkerplus.com/article/75436/)
■STAGE「猟銃」
●日時/5/7㊏18:00、8日㊐13:00、9日㊊13:00
会場/ロームシアター京都 サウスホール
●日時/5/21㊏13:00・18:00、22日㊐13:00
会場/兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
原作/井上靖 日本語台本監修/鴨下信一
演出/フランソワ・ジラール
出演/中谷美紀、ロドリーグ・プロトー
料金/¥8,500
問い合わせ/キョードーインフォメーション(0570・200・888)
取材・文=高橋晴代、撮影=大西二士男
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