藤山直美×阪本順治監督 16年ぶりの映画「団地」

映画賞を総なめにした傑作「顔」から16年。阪本順治監督と藤山直美が再びタッグを組んだ。

昭和な団地を舞台に描く人間ドラマは、リアルな日常から一転、ええ～!?なラストへと突き進む。「大丈夫か、阪本監督!?」と、藤山はもとより大楠道代や石橋蓮司ら阪本組のキャストたちも出演は快諾したが、台本を読んで仰天した、ぶっ飛びのストーリー。また藤山＆岸部一徳が演じる夫婦の会話は、これが聞きたかった！という大満足の大阪弁のしゃべくり。

物語は、大阪近郊の古い団地。山下ヒナ子と夫の清治は、ある事情で老舗の漢方薬局を閉め、半年前に引っ越してきたばかり。調子のいい自治会長、団地の“ゴミ監視役”の妻、次期自治会長を狙うクレーマー男、暇な奥さんたち…。団地住民の好奇の目の中、スーパーへパートに出るヒナ子と裏の林で植物観察が日課の清治は、ひっそりと暮らしている。ときおり訪れる妙な青年・真城だけが夫婦の過去を知っていた。ある日、些細な出来事から清治がヘソを曲げ「死んだことにしてくれ」と床下に隠れてしまう。夫の姿が見えなくなったことで、隣人たちの妄想はあらぬ方向へと暴走を始める。そこへ真城が、とんでもない願い事を抱えて訪れ…。

出演はほかに注目の若手・斎藤工をはじめ、麿赤兒、宅間孝行、竹内都子、濱田マリなど芸達者ぞろい。ええ～！？な結末だけど、生きていくことへのオカシミと切なさがしみじみと伝わる。6月4日(土)の公開を控え、阪本＆藤山コンビが来阪会見し、意気込みを語った。

「久しぶりにやらせてもらって、たまったものを排泄した感じですっきりしています」と口火を切った阪本監督。『顔』から16年の間、互いに映画の話をすることなく時は経ち、昨年、藤山のスケジュールに空きがあるのを知って、「にわかに何かやりたいと言う気持ちになって」連絡した。「16年経ったからこそ、できたんだと思う」。

藤山も「人生も後半の年になって、またご縁があって映画撮ってもらえてよかったなぁと思います。『顔』の時にはなかったシミやシワもでき、法令線もくっきり出て来て、丁度良かったんではないかと。そういう映画になってます」。

●作品の発想

阪本「実家が仏具商で、子ども時代から空想や妄想の中に人の死があった。“人は亡くなったらどこへいくのか”と考えていた、自分なりの宿題に仮説を立てて、答えを出してみたいなと。藤山さんで団地という場所設定だったからできたと思っています」。

●脚本について

藤山「これって…。もう監督に任さなしゃあないなぁ、と」。

阪本「なにこれ？と言われるように、頑張って書いた。『顔』では舞台では絶対できない役柄が出発点。今回は藤山さんをできるだけ遠いところに連れて行きたいと。久しぶりのオリジナルなので、お客さんの反応が怖いけど楽しみです」。

●炎天下の撮影

藤山「体感温度45度でした」。

阪本「思考停止になりそうになったけど、エベレストの頂上に行って撮影した映画と比べると我慢できる範囲でした」。

●キャスティングのこと

阪本「藤山さんが決まった時、3人を想定して自然に思いついたキャスティングです。藤山さんと大楠さんとのツーショットをもう一度見たかった。『大鹿村騒動記』の熱を帯びた現場も、もう一度経験したかった。物語のためのキャスティングではなく、映画を作る現場がこうあってほしいという思いのキャスティングです。斎藤工くんは、彼の発言や発信した物を読んで、信頼できるなと。そして、4人に可愛がってもらえる人じゃないとね」。

藤山「一徳さんは19歳の時からずうっとお世話になっていて、今も仲良くしていただいています。大楠さんは私が7、8歳の子役の時に出た大映の『座頭市』が初共演。監督に一緒にやりたい人は？と聞かれて、20歳の時テレビでご一緒した、蓮司兄さんとやりたいです、と。斎藤さんは甥っこぐらいの歳で、いい青年。心の温度は高いけど静かな人」。

●公開にあたり

藤山「大人がまじめにやってるSFの喜劇やから、気楽に来ていただけたら。映画は舞台より安いし。で、野田阪神に住んでるおばちゃんや、京阪モールで買い物してるおばちゃんたちがこれを見て、どうか。楽しんでもらえるか、パンフレット投げて帰りはる人もいるかもしれません。作品との相性やからね、来ていただけたらうれしいなと思います」。

阪本「日本映画は興行的に元気だけど、いびつになって来たなと思う。普通を求められることが多いけど、万人に愛されなくてもいいから、そこからはみ出す、こんなキテレツなのを作ってるオッサンがいるって、若い監督たちも見てくれたらうれしいな」。

【取材・文＝高橋晴代】