【佐々木蔵之介インタビュー】極限状況下で人間の尊厳と愛を描く感動作「BENT」、大阪・京都で上演
関西ウォーカー
舞台に映画、ドラマなど幅広く活躍する佐々木蔵之介。舞台では過酷な役柄の続く彼だが、今回は「BENT」で、骨太な作品を多く手掛ける注目の演出家・森 新太郎と初タッグを組み、さらに過酷な役柄に挑む。ナチスドイツによる同性愛者への迫害という、歴史に埋もれた極めて特異なテーマを扱った作品だ。
1978年に朗読形式で上演され、翌年のロンドンでの初演は大セン-ションを巻き起こし、同年にはニューヨークブロードウェイでも上演、高い評価を受けた。現在は世界35か国語で上演され続け、日本でも数多く上演されている。
第二次大戦のナチスドイツ政権下にあるベルリン。マックスというやくざな男と、ホルストという不器用な男が強制収容所で出会う。胸にピンクの星を付けさせられ、ユダヤ人でなくてもむごい扱いを受けた人々。極限状況のなかで人はどれほど愛を必要とし、与えることが出来るのか。
人間の尊厳と愛を描く感動作を、北村有起哉ら多彩な実力派キャストで上演。稽古を控えた佐々木が来阪、記者会見が行われた。
Q:意気込みを。
舞台に立つことにはいつもプレッシャーがあって、今回も怖いなぁ、また過酷な舞台だなと思っています。上演は終戦の時期なので、作品になると思います。そして、過酷な設定ですけれども、夢、希望があふれる舞台になればと思っております。
Q:出演の決め手は?
そろそろライトコメディの舞台もやってみたいと思っているんですけどね(笑)。前の舞台「マクベス」は精神病院の隔離病棟。もうひとつ前の「ショーシャンクの空に」は刑務所。そして今回、強制収容所。お前はどこに向かってるんだと(笑)。そういうのでないと、舞台やる気がせぇへんのかと思われてるみたいですけど、でも、台本を読んでみて、やりがいのある芝居だな、と思いました。言葉だけでお互いを信じ合う。これこそ演劇の醍醐味だなと。
Q:今までにない経験が出来ると?
7、8年前、アウシュビッツの収容所に個人的に1人で旅行したんです。戦争ものは俳優として後々、映画なりドラマなり舞台なりで演じるだろうから、一度見ておこうと思って。今思えば、行って良かったなと思ってます。負の遺産と言われてるところですが、そのまま残してあるので、いろんなものが崩れていました。でも、いまだにその匂いというか、陰燦たるものの空気がずっとあって…。ポーランドの空がどんよりしてるんで、ウツウツとしてたのもあるんですけど。でも、今回この舞台で、希望を持ってはいけない、持ってしまうと生きていけないけれど、希望や愛を持って生きて行こうという、夢みたいなものが表現できたら。少しでも、米粒や爪の先ぐらいでもいいから、そんな明りが見えるような芝居になればと思いましたね。
Q:具体的にはどこが演劇でやった方がいいと?
特に2幕ですね。私の演じるマックスと、北村さん演じるホルストが、石を右から左に1個ずつ運んで、終ったら左から右へ1個ずつ運んでという、なんの生産性もない無意味な、非建設的な作業をずうっと続ける芝居です。お互いの目も見れず、お互いに触れることもなく、そこで2人が言葉だけで愛し合う。演劇の力って言葉だと思うんですけど、その言葉だけで愛し合う。オレたちは看守がいるなかで、見事やったぞ、どうだ、生きてるんだっていうシーンは衝撃的だなと思います。お客さんも、おぉすごいなって、劇場でそんな思いを感じてもらえたらいいなと思いました。
Q:森さんの演出への期待は?
森さんに演出をしていただいた俳優さんやスタッフさんに、「森さんどうですか?」って聞くと「しつこい!」「稽古長い」ばっかり(笑)。でも「いい演出家だよ」って。演劇は、一番大切な稽古をする時間が掛けられる。1か月稽古して2か月本番やって、3か月ずっと作品に向き合うのに、その作品を掘って掘ってやって行ける演出家はいいな、と思って。
前に森さんがパルコへ「マクベス」の昼公演を観に来てくださったんですけど、エレベーターの前で話を始めたら終わらないんですよ。夜公演の用意もあるんですけどもうちょっとって、ずっと話すんです、この人は本当に演劇が好きなんだな、と。そんな人と出来る幸せはありますよね。みんなが「しつこい」とか言いながら、才能ある演出家なんで、すごく楽しみにしています。
Q:北村さんの印象は?
酒飲み、に尽きますね(笑)。舞台では2度一緒に、今回3回目です。声もいいし、あの独特の人懐っこさもあるし。ま、ちょっと酒は飲みすぎなんですけど。今回も始まる前にドラマで一緒だったんですけど「強制収容所に入るから、日本酒から焼酎に切り替えた」と(笑)。酒を減らしたんじゃなくて切り替えたと(笑)。
でも、ほんとに舞台上でとても信用できる日本の演劇俳優のなかで大好きな1人ですね。稽古中がおもしろいです。稽古でいろいろ試したりするんですけど、彼しかできない演技プランというのがあるので、いつも一緒に楽しみながらやってますね。
Q:佐々木さんは?
稽古含めて3か月、ずっと石を運ぶわけですからね。それに耐える体でなければならないと思ってます。あと、稽古場であんまり文句を言わないようにしようかな。しばらくは演出家が言われるように「はい」「はい」と、言うこと聞いてみます、しばらくはね(笑)。
Q:「BENT」の核は?
収容所に入るって、僕らは想像でしかない。日本のことではない、ドイツのことだし。そして、なおかつ同性愛者の話だし。いろいろハードルがあると思うんです。でも、それをも凌駕して見えてくるものがあると思う。それが見えた時こそ、エンターテインメントの力だと思うんです。希望を持っちゃいけないと言われた人たちが、そういう究極な状態でこそ、お互いを愛することによって生きている喜びを感じる。つまり、そんな状況だからこそ、人を愛することの大切さが、心を突き刺すように感じられるのではないだろうかなと。ただの恋愛の好き嫌いではない、もっと広いもっと深い、すべてを受け入れて愛するということでしょうけどね。舞台上で、その大切さがすごく尊いもの、美しいものに見えてくるのではないだろうかなぁと。1幕2幕見て、結末見て、彼らはそうやって生きたんだと、感じてくださったらいいなと思います。
Q:メッセージを。
関西は京都と大阪と2か所で出来るので、うれしいです。最後を大阪の方に見届けてもらえるよう、しっかりとしたものを作り続けようと思っております。暑い時期ですが、是非、楽しみにしていてください。
Q:主演映画「超高速!参勤交代 リターンズ」について、ひとこと!
タイトルに違(たが)わず、まさにエンターテインメント時代劇! 前作よりスケールアップしてますよ。で、明らかに過酷になって、おまけに城もなくなって、前より走らされてます。キレイな着物、また着させてもらわれへん。殿様やのにドロドロですわ、ずっと(笑)。
ささきくらのすけ●1968年2/4、京都府生まれ。テレビ、映画、舞台と数多くの作品で活躍し、自身が主宰する演劇ユニット「Team 申(さる)」でも精力的に活動している。現在「僕のヤバイ妻」(毎週(火)22:00~、カンテレ)などに出演中。映画では、主演作「超高速!参勤交代 リターンズ」が9/10(土)公開、2017年には「破門」、「花戦さ」が公開予定。
取材・文=高橋晴代、撮影=西木義和、衣裳協力=TODD SNYDER
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