フィギュアスケート、今季の飛躍が期待されるシニア女子選手【前編】
東京ウォーカー(全国版)
8月に滋賀県立アイスアリーナで開催されたサマーカップ、今回は選手権女子から有力選手をピックアップしてご紹介したい。
ジュニアとシニア、掛け持ちの新田谷凜

昨シーズンが最後のジュニアシーズンのはずだった。本人もそう公言し、全日本ジュニアを最大の目標にしていたはずだった。が、今シーズン直前に急遽、ジュニアグランプリに参戦することになったのだ。まずはその辺りの経緯から話を聞いた。
「直前までジュニアグランプリに出るつもりはなかったんです。選考会の話が来ても断るつもりで、オフはのんびりしていました。そんな時、コーチから「ジュニアで納得の行く演技が出来ていないんじゃないか、チャンスがもらえるのなら挑戦してみたら」との言葉があり、挑戦することに決めたんです。ただオフにのんびりしていたこともあり、選考会向けの練習が出来ていませんでした。気持ちを切り替えることにも苦労しましたが、とりあえず選考会には形になるまでに調整できました。今は気持ちを切り替え、ジュニアグランプリに向けて練習できています」
追加で1年ジュニアに残留した彼女にとって、当然目標はより高いところ、ファイナル出場になるのではないか、と尋ねたところ
「毎年、ファイナルに行きたいという思いでやってきましたが、意識し過ぎると緊張からミスにつながります。昨シーズンは1戦目が良くありませんでした。今年は1戦目のショートプログラムをミスなく終えて、2戦目につながる演技をしたいです。一つずつ、表彰台に上ることを目指して、焦らずに目の前の試合をしっかりこなしたいと考えています」
彼女は今季、国際大会はジュニア、国内大会はシニアのカテゴリーに参戦する。
「チャンスをいただけたので、ジュニアグランプリでは悔いのない演技をしたい。ジュニアで戦っていくにはシニアよりも難しい構成が必要になります。それをしっかり鍛えていけば、国内のシニアでも生かすことが出来ると思います。表現力も去年よりは良くなっているので、いい演技につながるはず。最近はフリーを沢山曲かけしていて、ミスも少なくなってきています。自信を持って臨みたい」
この試合のショートプログラム、一見、大きなミスなく演技したように見えたが、本人としては不満の残る内容だった。
「ジュニアグランプリに向けての構成で挑めなかったのが残念でした。3ルッツ+3トウループ、後半に3ループの予定でしたが、最初のルッツでバランスを崩してしまい、トウループを付けられませんでした」
ジュニアカテゴリーでは、ステップからのソロジャンプの種類(今季はループ)が規定されているため、ルッツがコンビネーションとして成立しなかった時点で大きなミスとなる。だがシニアカテゴリーではジャンプ構成は自由なため、単独に終わったルッツジャンプをソロジャンプとして扱い、次のジャンプをコンビネーションにすることでリカバリーを図ることが出来るのだ。
「当初は、ジュニアグランプリと同じ構成で、仮にルッツのコンビネーションを失敗しても後半はループにしよう、と考えていました。でもループにあまり自信がなかったので、いつも通りの構成(トウループ+トウループ)に逃げてしまった。それが反省点です」
プログラムは昨シーズンと同じ、“レッドバイオリン”。滑り慣れたプログラムを武器に、安定した演技を続けたいところだ。

翌日のフリースケーティング、新田谷選手は素晴らしい演技を披露した。思わず派手にガッツポーズを見せたほどの、会心の演技だった。さぞ自信につながっただろうと思ったのだが
「去年もこの大会で素晴らしい演技ができ、自信になると思ったんですが、ここで満足してしまったのか、直後のジュニアグランプリでは良い演技が出来ませんでした。今年はこの良い状態をジュニアグランプリにつなげたい」
昨年の轍を踏まぬよう、気を引き締めている様子だった。
この日のルッツのクオリティは素晴らしかった。昨シーズンに比べて大きく進歩したように見える。
「元々ルッツは得意なジャンプだったんですが、曲の中でもいいジャンプが跳べるように繰り返し練習しました。その結果、練習で跳べていた質の高いルッツが、試合でも跳べるようになったのだと思います」
フリーのプログラムは“レジェンド オブ フォール”、鈴木明子の振付だ。情感のこもった素晴らしいものが出来上がった。
「強い曲よりは、こういう美しい、優しい曲が自分に合っていると感じます。鈴木明子さんの振付もマッチしていると思います。意図して表現しよう、という感じではなく、曲を聴いて自然に演じられる、とてもやりやすいプログラムに仕上がりました」
新作だが、シーズン序盤にしては仕上がりが素晴らしいと感じる。
「去年よりは極端に多くの曲かけをこなしてきました。今季は、国際大会はジュニア、国内大会はシニアなので、3分半、4分、二つのバージョンを練習しなければなりません。ジュニア用の3分半の方が、エレメンツが詰まっていてきついんです。なのでサマーカップの前もジュニア用をかけて練習していました。その方が、4分のバージョンを滑った時に楽に滑れるんです」
ジュニア、シニアの掛け持ちの状況を逆手に取り、練習に生かしているようだ。
この試合の直後、新田谷選手はジュニアグランプリ、フランス大会に出場した。サマーカップよりも更に素晴らしい演技を披露し、総合3位。ファイナル出場を狙える位置につけた。次の試合はジュニアグランプリ、エストニア大会だ。今季こそが最後のジュニアグランプリ。悔いのない演技を期待したい。
憧れの安藤美姫の振付で勝負をかける大庭雅

久し振りに、それこそ何年振りだろう?シーズン序盤からこんなにコンディションの良い大庭雅の演技を観られるのは!今季の大庭選手は何かが違う。まずはショートプログラム後のコメントをご紹介したい。
「今季のショートプログラムでは3サルコウ+3ループ、そして苦手なフリップをステップからのジャンプに使います。調子はいい。自分が出せるものを出して、勢いのある演技をしたいと思います」
一つ一つのコメントが、力強い。そして自信に満ちている。一体どんな変化があったのだろうか。
「中京大学の後輩、今年の1年生3人(新田谷凜、加藤利緒菜、磯邉ひな乃)が本当に良く練習するんです。それが刺激になっています。練習がきついときでも、後輩達が元気良く練習しているのを見ると、自分も頑張らなきゃ、と思います。1年生からも『雅ちゃんを見て、頑張っているのが伝わってくる』と言われますが、自分も後輩からパワーをもらっています」
シーズン序盤から良い調整が出来ている裏には、こういった変化があったようだ。そして、ショートプログラムの振付にも、モチベーションを高めている秘密があった。
「憧れの安藤美姫さんに振り付けてもらったんです。安藤さんが好調だった頃に使っていた曲、“ミッション”です。私にとっても思い入れの強い曲です」
これが安藤美姫の振付師デビューだそうだ。過去に振付経験がないということもあり、安藤美姫のコーチでもあった門奈コーチは当初、賛成していなかったという。けれど、大庭選手自身が「絶対にお願いしたい」と直訴して実現したそうだ。
「安藤さんは、振付を依頼されてから私のことをとても良く研究してくれました。私の弱点、苦手な動き、そしてジャンプの入りまで研究してくれて、『こうした方が雅ちゃんは跳びやすいから』と指導してくれました。その結果、ジャンプの跳びやすい、伸び伸び滑れるショートプログラムに仕上がりました」
「安藤さんの教えてくれる表現は、今までと全く違います。自分に足りなかったものを気付かせてもらいました。少しでも安藤さんのように滑れるように、そういう思いで練習しています。過去の演技を何度も見て、手の使い方、細かなしぐさを意識して研究しています」
憧れの選手に追いつきたい、その思いで日々練習を積んでいるそうだ。
「コスチュームのデザインも安藤さんがアドバイスしてくれました。今まではショートプログラムは苦手だったんですが、今季は、早く皆さんに見せたい!との思いが強いです。そうした思いがプレッシャーを和らげてくれています」
迎えた翌日のフリースケーティング、大庭選手は優勝こそ逃したものの、満足の行く演技が出来たことを喜んでいた。
「初めてコンテンツシートのGOE(技の出来栄え点)にマイナスが一つも付かなかったんです。とても満足しています」
今回の試合から、中部ブロックに向け、様々な改善点を見出すことが出来たという。
「今季の序盤は、中京大学の後輩、新田谷凜、加藤利緒菜と3人で戦っている感じです。この二人に負けない演技をしたい」
フリープログラムは昨年に引き続き、宮本賢二振付のものだが、細かな振りが変わっている。安藤美姫の影響を感じさせる部分があったが、これについては「ショートプログラムで安藤さんに教わった手の使い方を、フリープログラムのつなぎの部分で生かせています」とのこと。

過去に大庭選手の取材をした際、目標を低く設定しがちな印象があった。しかし今季は序盤からこれだけの好調ぶり。目標を上方修正する気持ちはないのだろうか。
「今までも目標を低くしていたわけではありません。高い目標ではなく、目の前の達成できそうな目標を通過点として設定していたんです」「ただ私は今年で3年生、来季が最後だと思います。残り少ない競技生活の中で、今季結果を出さないと来季の派遣につながりません。海外遠征、ユニバシアード、そういった代表も目指し、派遣をしてもらえる順位を全日本で取りたいと思います」
来季で現役最後の予定というのは寂しい限りだが、今季、良い結果を出すことへのこだわりを聞くことが出来た。残り2シーズン、悔いのない競技生活を送ってほしいものだ。<後編に続く>【東京ウォーカー/取材・文=中村康一(Image Works)】
編集部
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