カンヌ国際映画祭で栄冠 「淵に立つ」深田晃司監督に聞く

関西ウォーカー

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第69回カンヌ国際映画賞の「ある視点」部門で審査員賞を受賞した「淵に立つ」が10月8日(土)から封切られる。どこにでもありそうな家族が、一人の男の登場によって崩壊していく経過を冷徹で圧倒的な描写力で描く、衝撃の作品。出演は浅野忠信、筒井真理子、古館寛治、篠川桃音、真広佳奈ら。今回は監督、脚本、編集を務めた深田晃司監督に本作について話を聞いた。

—カンヌ国際映画賞「ある視点」審査員賞受賞、おめでとうございます。日本映画としては黒沢清監督の「トウキョウソナタ」以来8年ぶりの受賞ですが、どのような点が評価されたとお考えですか?

深田 受賞したとき、審査員からはいろいろと評価をいただいたのですが、実はあまり覚えていなくて。ただ、映画の上映後に世界15か国ぐらいのプレスから取材を受けて、その際に「日本では家族を描いた映画がたくさんあるが、日本から来る家族の映画はと伝統的な家族制度を基本的肯定する作品、家族の絆などスイートな家族間に立脚して描かれるものが多い中、本作はビターに、ある意味批評的に描いている点がおもしろかった」といわれたことが印象的でした。

また、多くの記者からは俳優がすばらしいという声も聞きました。確かに、筒井さんや古館さん、太賀くん、真広さんらの演技がすばらしかった。過不足のない、つまり、過剰でも不足でもない演技だったという声がありました。

—確かに俳優さんの演技は印象的でした。特に8年後の筒井さんには驚かされました。

深田 撮影は季節感を飛ばすためと、8年間の時間を演出するために、前半と後半で1か月開けましたが、筒井さんはわずか3週間で13キロも太ってくれました。1日6食ぐらいずっと食べ続けていましたね。

しかも最近ロングヘアで仕事をされることが多かったのですが、その髪もばっさりと切って臨んでくれました。この作品のためにそこまでかけてくれるということは監督としてもとてもうれしく、ありがたく思いました。

筒井さんが見事に時間の経過を表現してくれたおかげで、当初前半と後半の間に「8年間」というテロップを入れていたのですが、フランスの編集アドバイザーやプロデューサーらから「映像を、彼女(筒井さん)を見れば絶対時間の経過がわかるからテロップはいらない」といわれてカットしました。

さらに、その2か月後にアフレコで筒井さんに会ったら、また元に戻っていたというのもすごいと思いましたね(笑)。

—家族崩壊の原因となる八坂を演じる、浅野さんの起用理由は?

深田 筒井さんと古館さんの鈴岡夫婦は脚本段階で決めていました。その二人の間に入ったらおもしろい人として浅野さんにお願いしました。絵に描いたような善人や悪人には描きたくなくて。人は関係性によって顔が違ってくる、見え方が変わる多面的なものだと思います。浅野さんはとてもやさしい人役も、怖い役もキャリアを築いてこられたので、八坂役にふさわしいと思いました。

八坂の人物像や演技については撮影前からいろいろと話をして、一面的なわかりやすい悪人にしたくないということはお伝えし、浅野さんからは「赤いシャツを着てはどうか」というアイデアをいただきました。

—浅野さん演じる八坂は、出演していない部分でも非常に存在感がありました。

深田 アルフレッド・ヒッチコックの「レベッカ」という映画があります。この作品がおもしろいのは、レベッカという人物が一度も登場しないこと。邸の死んでしまった女主人の名前ですが、姿は現さないのに、映画自体は常にレベッカに支配されていて、それがすばらしい。不在だからこそ存在感を残す、その圧力のようなものを描きたいという思いはありました。

—作中、赤い色や八坂が歌う曲など象徴的に使われているものがありますね。

深田 浅野さんと話をして、八坂のテーマを赤にしようと決めてから、いっきにふくらんでいった感じです。八坂が前半で姿を消して、後半姿を見せなくなる。でも、重要だったのは八坂がいなくても常に八坂の影が支配している雰囲気作り。なので孝司(太賀)くんのリュックを赤にしたり、工場の機械に赤い色を入れたり、常に八坂の気配を残すことができました。そう言う点でも浅野さんとのディスカッションは有意義でした。

歌については「美しき牧場(まきば)の堤」という古いイギリスの曲で、最初に娘の蛍がオルガンで弾いていた「つむぎ歌」に取って代わります。そこからだんだん八坂が鈴岡家に進入して、浸食していく象徴として、仕掛けとしてあの曲を選びました。あとは、映画の中で歌を歌う場面を描くのが好き、というのもありました。

—本作を通じて、読者に伝えたいメッセージなどをお聞かせください。

深田 僕は100人が見たら100通りの見え方がある様な映画を作りたいと思っているし、そんな映画にできたと思っています。家族観を押しつける映画ではなく、それぞれに家族って何だろうとか、生きるって何だろうと考える余地を残している映画なので、できれば家族や夫婦で見てほしいと思います。夫婦で見て、解釈が分かれたら、けんかしながら帰ってもらえたら。そんな風に見ていただければいいなと思っています。

【取材・文=関西ウォーカー編集部 鳴川和代】

鳴川和代

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