「海よりもまだ深く」の舞台は是枝監督ゆかりの“清瀬”
東京ウォーカー
【連載】聖地巡礼さんぽ~あの作品の街を歩く~Vol.22
漫画や映画、ドラマなど、人気作品の舞台となった街を散策し、“住みたい街”としての魅力を深堀していく本連載。ここからみんなの“住みたい街”が見つかるかも?
第22回は、「そして父になる」「海街diary」などの作品で知られる是枝裕和監督が、阿部寛を主演に迎えた映画「海よりもまだ深く」をピックアップ。

探偵業で生計を立てる自称作家の主人公・良多(阿部寛)と、ダメ長男を優しく見守る母・淑子(樹木希林)、彼に愛想を尽かした元妻・響子(真木よう子)、そして一人息子の真悟(吉沢太陽)が、ひょんなことで集まった台風の夜。4人が一夜限りで取り戻した“家族”の時間を優しい視点で見つめながら、“なりたい大人”になれなかった大人たちへエールを贈る感動作だ。

母・淑子が一人で暮らす団地は、是枝監督が9歳から28歳まで実際に住んだという清瀬市の旭が丘団地で撮影されたことも話題となった本作。団地のほか、作品に登場している店・スポットを中心に、清瀬という街の魅力を紹介する。
「清瀬駅」
線路を走る黄色い車体、そしてだらしなく車窓から景色を見つめる良多が乗る電車が、西武鉄道池袋線。池袋駅から快速で約22分の距離にある「清瀬駅」が、淑子が暮らす団地の最寄り駅として登場している。


清瀬駅北口からは旭が丘団地行きのバスが出ており、劇中でも、母の家を訪れる良多は北口に降り立ち、バスに乗って家へと向かっている。

なお、清瀬駅は北口には大型スーパー、南口にもスーパーや栄えた商店街があったりと買い物には困らず、どちらも明るくにぎわいをみせているのも“住む街”としては見逃せないポイント。
「秩父そば」
電車を降りた良多は、駅構内にある立ち食いそば店で腹ごしらえ。映画の撮影時は「狭山そば」という店だったが、現在は東村山駅や上石神井駅にも展開する西武グループ運営の「秩父そば」に変わっている。


清瀬駅店は15年9月にオープン。冷凍品を使わず、店舗でタネから作り揚げている天ぷらや、ダシからとって作るスープが自慢で、お昼のピーク時以外にも絶えず客が来店する人気ぶり。

店名に「秩父」とあるように、「わらじカツ丼」780円や「みそポテト」350円(6個)といった、秩父の名物メニューが味わえるのも特徴。
「実際、映画を見て遠方から来たというお客さんもいらっしゃいます。『阿部さんと同じメニューを食べたい』と言われると、同じものはないので困りますが(笑)」と言うのはスタッフの杉本正美さん。10年以上住んでいるという清瀬については、「“病院の街”と言われるくらい病院が多く、年配の方には住みやすい街です。交通の便もよく、都心や埼玉方面にも出やすく便利ですね。清瀬けやきホールでよくイベントを開催しているので、それで清瀬に来たというお客さんも多いですよ」と教えてくれた。

「ホルン洋菓子店」
清瀬駅から乗ったバスを降り、母への手土産を買うため良多が立ち寄ったのが「ホルン洋菓子店」。「ほら、ホルンのケーキ買ってきた」といって良多がケーキの箱を渡すと、母は中身を確認して「うんうん」と満足そうにうなずく。


1968(昭和43)年からこの地で営業を続ける「ホルン洋菓子店」は、ショートケーキ240円、モンブラン230円、チーズケーキ230円など、シンプルなケーキをずっと変わらないリーズナブルな価格で販売。周辺に子供が多くいた時代は、注文が連日絶えなかったというバースデーケーキが、清瀬の子供たちの成長をお祝いしてきた。

ご主人の稲垣眞澄さんは、1952(昭和27)年からケーキ職人を続ける大ベテランで、79歳の現在ももちろん現役。「(映画撮影のオファー時に)監督が小さい時からお母さんと来ていたので、まだあってうれしいと言ってくれた」と、本当にうれしそうに話してくれた稲垣さん。帰り際、「これ持っていきな」と言ってケーキを持たせてくれた紳士ぶりも素敵だった。

「新杵(しんきね) 本店」
良多の姉・千奈津(小林聡美)の勤め先として劇中に登場する和菓子店。


1910(明治43)年創業の老舗で、清瀬に移転してきたのが1988(昭和63)年。当初は工場のみだったが、「せっかくあるのに買えないのは残念」という近隣住民の声に応え、あとから店舗を作り販売を始めたという。

代表的な商品といえば、小ぶりの豆大福にこんがりと焼き目を付けた「焼豆大福」486円(5個入り)。戦後の混乱時に、当時の店主が豆大福を七輪であぶって提供したところ、大きな評判を呼んだという歴史ある逸品だ。そのほか、通年商品や季節商品、彩りのいい上生菓子など、常時30品目が店頭に並ぶ。


取材に対応してくれた企画担当の風間寿子さんは、清瀬に住んで約40年。「緑が多く、東京都なのにふるさとに来たかな、という雰囲気があります。清瀬金山緑地公園や、春はサクラが満開になり、バーベキューもできる柳瀬川などがオススメです。川の水がすごくきれいになったので、釣りに来る方もいますよ。交通の便もいいし、駅前にはスーパーもあって住むにはいい環境だと思います」と清瀬の魅力を語ってくれた。また、「映画撮影の空き時間に、お菓子を差し入れしたら喜んでくれた」とニッコリ。

最後にもう一つ、重要なスポットについて。台風の夜、良多と息子の真悟が団地を抜け出して雨宿りするという、印象的なシーンで登場するタコのすべり台。野塩団地にある公園で撮影されたのだが、このタコのすべり台は残念ながらすでに撤去されてしまっているという。

西武鉄道池袋線が東京メトロ有楽町線・副都心線と相互直通運転を行っており、隣駅の秋津駅で武蔵野線にも乗り換えられる。また、バスの本数も多く、「交通の便は申し分ない」と取材先の方たちが口々に言う清瀬。
街の魅力としてさらに共通して出てきた答えが「自然の多さ」。柳瀬川や清瀬金山緑地公園、けやき通りなど、歩いてみて緑の多さを確かに実感。高い建物があまりなく、代わりに畑が広がっていたりするので、空がとても広く感じ、「東京なのにふるさとに来たような感覚」と言う新杵・風間さんの言葉に納得した。

また、歩いていて感じたのが、街を行く人の年齢層の高さ。駅前に「交通事故からお年寄りを守りましょう」と書かれたシルバーゾーンの標識があったり、道を渡ろうとしている人がいると車が必ず止まったり、さらに、今回の取材で乗ったバスがどれも、運転や乗客への対応が普段乗るバスよりも格段に丁寧! 本来は当たり前であるべきお年寄りへの気配りが、自然と随所に行き渡っているんだろうなぁと、いっきに清瀬が好きになった。【東京ウォーカー/小林未亜】
第23弾は11月初旬配信予定
小林未亜
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