つぎ木のように広がっていく夢 高梨臨「種まく旅人」
関西ウォーカー
全国屈指の桃の名産地である岡山県赤磐市が舞台の映画「種まく旅人~夢のつぎ木~」。本作は、第1次産業に携わる人々の暮らしを、その土地の風土と共に描く「種まく旅人」シリーズの第3弾。物語は、夢を諦め帰郷した27歳の片岡彩音(高梨臨)が、市役所勤めをしながら兄の遺志を継いで新種の桃栽培に挑戦する日々を送っていたところ、ある日、東京からやって来た農林水産省の若き官僚・木村治(斎藤工)との出会いを機に、新たな夢を見つけて成長していく人間ドラマ。メガホンをとったのは「夕凪の街 桜の国」、「東京難民」の佐々部清監督。今回は、本作のヒロインである桃農家の彩音を演じた高梨に、作品への想いを聞いた。

――本作の台本を初めて手にした時の率直なご感想をお聞かせください。
「なにより先ずは、温かい話だなと感じました。私はこれまで岡山県に行ったことがないので、舞台となる桃畑の景色は全く想像がつきませんでした。農業という題材についても、小学校で芋を育てたりした以来で、土に触れる経験もこれまでなかったので、桃の種類がいろいろあることすら知らず…。だけど、ポスターにもなってる防蛾灯が並ぶ風景をネットで調べてみると、とても幻想的なところで、どんな場所なんだろうと想像を膨らませていく内にどんどん興味が湧いてきましたね!」
――実際に赤磐市の桃畑で撮影をしてみていかがでしたか?
「桃の木を見たことがなかったので、つぎ木を繰り返して横に大きく育っていくんだなとか、近くの道を歩いてるだけで桃のいい香りがしてワクワクしました! だけど実際に畑に入ると、収穫しきれず腐ってしまって落ちている桃がたくさんあるんです。演じた彩音みたいに、女性が一人で畑で収穫することがどれだけ大変なのかを実感することができました」
――岡山の桃を食べてみてお味はいかがでしたか?
「とても美味しかったです!毎日のように桃だったり、時期も近かったブドウを差し入れで持ってきていただけて幸せでした。暑い中での撮影を気遣って下さり、氷で冷やしていただいたフルーツは、本当に撮影中のパワーになりました!」
――桃畑の景色だったり、実際には収穫しきれずに腐ってしまう桃が多いことなど、現場に行って初めて知る出来事も沢山あったのではないかなと思います。撮影を通して、知った新しい発見や驚いたことなどありますか?
「彩音と同じように、実際に職員の方だったりが兼業農家をされているケースが多いことには驚きましたね。あと、卸売市場で行われる“せり”のシーンは面白かったです!知識がないと、手の動きがどういう意味で今どういうことになっているのかさっぱり分からないんですけど(笑)、あの独特の雰囲気が新鮮でドキドキしました。どの撮影現場も、すべてが社会見学のようで面白かったです!」
――赤磐市のみなさんもかなりバックアップしてくださったと伺いました。
「そうなんです。エキストラの方は、ほとんど赤磐市の方が協力してくださりました。市の職員さんと食事をしていても、映画に対する愛情や熱い想い、赤磐市を盛り上げていきたいという気持ちをまっすぐ話していただけて、そういった声を直接聞けたのも嬉しかったですね。あと、映画の中で“ここはどこですか?”と聞かれたら“赤磐です!”と応えて、助け合っていくキーワードがあるのですが、正直、台本を読んでいる段階ではそこまでピンときていなかったんです。だけど、撮影で赤磐市にずっといて、赤磐市の人たちと触れ合って話をしていくうちに、“ここはどこですか?”、“赤磐です!”の言葉だけで成立する、赤磐に住んでいる人同士の信頼関係を身をもって実感することができました」
――ヒロインの彩音をどのように捉えて演じられましたか?
「キャラクター像として特別な個性があるわけではない普通の人で、笑ったり怒ったり泣いたりと、なんでもさらけ出すので人間らしいなという印象です。監督にも、『彩音と高梨臨の中間でナチュラルに演じてほしい』と言われていたので、役作りに関しては桃作りに関しての知識を入れるぐらいで、演じるというよりも、そのまま私自身が現場に入っているような感じです。すごく自分に近い女性だったので、私がもし岡山に住んでいて桃農家をやっていたら、この映画の彩音と同じ感じだったと思います。それぐらい、私に近い人でした」
――彩音が新しい目標を見つけるきっかけとなる、木村を演じた斎藤工さんとの撮影はいかがでしたか?
「面白い方で、安心させてくれる空気感を作ってくれる人ですね。いつもくだらない話ばっかりしているんですけど、だからこそ撮影に入ってもテンポ感が掴みやすくて、自然とコミカルなシーンを作れていったんだと思います」
――本作で描かれる“夢”との向き合い方は、とてもポジティブなメッセージになっているなと感じました。
「“夢のつぎ木”というサブタイトルの通りですよね。彩音は東京で女優を目指していたけど諦めて赤磐市に帰ってきて、そこには兄から受け継いだ桃がある。だけど、また赤磐でも挫折しかけてしまうんですけど、赤磐市に帰ってきていたからこそ木村さんとの出会いがあって、新しい夢が“つぎ木”の様に広がって、また新しい出会いに繋がっていった…。そういうことって、素敵だなと思います。夢って必ずしも全てが叶うわけではないじゃないですか。私も今まで頑張ってやってきたけど、やっぱり達成できなかったことがたくさんあります。だけど、それはもうひとつの夢に向かって種を蒔いている段階かも知れないですし、ダメだったことも“つぎ木”となって、枝が生えて新しい芽が出たらいいなと思うので、私もひとつひとつの出会いを大切にしたいなと、この映画を観て感じました」
――アッバス・キアロスタミ監督の「ライク・サムワン・イン・ラブ」に出演された20代の前半から、本作に出演される20代後半にいたるまで多くの作品に出演されてきたと思います。その中で、どちらの作品も素の高梨さんの魅力が投影された代表的な作品であり、運命的な作品になったのではないかなと勝手に感じたのですが、いかがでしょうか?
「キアロスタミ監督の時は、正直、まだ何も分かっていなかったので監督に騙されたという感覚に近いぐらいです(笑)。台本もくれないし、説明もしてくれない。言われるがままにやって、うまい具合に転がされていく中で役が作られていきました。あの作品が完成してから数年経って、改めて映画を見直してみた時に、あの時のお芝居は私がやろうと思ってもできないお芝居だったということに気づいたんです。私の中では、あの時のフラットな状態にいつでも戻れるような気持ちでいたんですけど、今思うと自分の中での最高の芝居を引き出してもらっていたんだなと…。それを超えたいから、今も頑張っているところはありますね。なので、キアロスタミ監督の作品は、私の女優人生の中でも運命的な作品になっています。本作は、私にとって自分が勉強してきたもの、身につけてきたものを監督が全てそぎ落としてくれて、またフラットな状態までリセットしてくれた作品になっていると思います」
――最後に、これからご覧になられる方にメッセージをお願いします!
「この映画は桃農家の女性を描いているんですけど、誰が観ても楽しめるエンターテイメント性のある作品になっています。私が岡山県赤磐市に行って感じた、人と人の繋がりが凄く密で温かみのある人間ドラマをそのまま表現したので、みなさんにもほろっと温かい気持ちになってもらえると思います。なのでぜひ観てほしいです。何より、岡山県の方々に大切に思ってもらえる映画になっていたらいいなと思います!」
映画「種まく旅人~夢のつぎ木~」は、11月5日より大阪ステーションシティシネマのほか全国の公開劇場で上映中。
【関西ウォーカー編集部】
大西健斗
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