「僕たちは誰もズルをしなかった」、新海誠監督が語った『君の名は。』ヒットの理由

東京ウォーカー(全国版)

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大ヒット中の劇場版アニメ「君の名は。」を手がけた新海誠監督が11月12日、流行情報誌「日経エンタテインメント!」が選ぶ「ヒットメーカー・オブ・ザ・イヤー 2016」のグランプリに選出され、東京都内で開催された表彰式に出席。表彰式後のトークショーで、「君の名は。」について、これまでの歩み、そして、これからについてを大いに語った。

社会現象となった「君の名は。」(c)2016「君の名は。」製作委員会


――海外の反響について

「映画の話をしますが、この中で『君の名は。』を観たという方はどれくらいいますか? ありがとうございます。観ていない方もいますよね、ネタバレの話、全然しますので(笑)。笑ってほしいと思って創ったところ、泣いてほしいと思って創ったところの反応は海外でもだいたい一緒なんです。ただ、日本人より反応が大きいのと、思いもかけなかったところで声が上がったりすることがあります。たとえば、(立花)瀧が中に入った(宮水)三葉が町長につかみかかるシーンがあるんですけど、胸ぐらをつかむところ、韓国だと笑いが起こるんです。女性が男性につかみかかるという画が面白いのかもしれないですね。あとは、ロサンゼルスだと、勅使河原(克彦)が変電所を爆破しますよね。ネタバレなんですけど(笑)、そのシーンで歓声が、『やったー』みたいな歓声があがったりします。想定しなかったところで声が上がることがありますね」

「まさか1000万人以上に観ていただける映画になるとは思わなかったので、思う存分好きなシーンを入れた映画なんですよね(笑)。三葉は下着を見せるし、瀧は胸を何度も揉むし、小学生は劇場に来ないだろうという、何となくそんな気分だったんですけど、意外と皆さん寛容だなと思いました。みんな笑ってもらえるし、今は小学生の方も日本では増えていて、『前前前世』もくちずさめるみたいで。小学生に物語を100パーセント理解できるのかはわかりませんが、男と女が入れ替わってしまう面白みは伝わるんでしょうね。そういうところで、胸を揉んで良かったって思いました(笑)」

――メディアの質問の違いは?

「ヨーロッパ圏だとシリアスな質問が多いですね。映画に対する社会的な期待値が高いのをひしひしと感じます。日本のどういう社会情勢を映してこの映画ができたのか、という質問が多い。アジア圏だともう少しエンタメ寄りになります。香港でも人気のモデルの女の子がインタビュアーで来たり、アイドルの方が来て一緒に並んで写真を撮って『監督の好みの女の子は?』と聞かれたり、『三葉みたいな』とか適当なこと答えるんですけど(笑)、少しミーハーな感じがアジアだと増えてきますね。海外は面白いですけど、国内でここまでというのが不思議で、これまでも作品を海外に持って行って違いがあるのは感じていたので。今回のような、日本でこれだけの人が劇場に足を運ぶ、家を出て電車に乗って映画を観るという経験を1000万人以上の人がする、こういうことが起きるのが不思議でしたし、感動させられました」

――ヒットの秘訣は?

「散々聞かれてきたんですけど(笑)、予兆のようなものは確かにあったんです。前売りチケットがいいとか、小説版が良かったとか、でも、『好調なのか、うれしいな』とは思っていましたが、僕の目標としては『まずは20億、ここまで頑張ってきたから30億いけば』と考えていたんですが、プロデューサーの川村元気が公開前に言っていた『何かの間違えで100億とか超えたらいいよね』という話に、『何言ってんだ』と思っていたんですけど(笑)。原因はわからないんですが、川村元気と公開初日、二日目の帰りのタクシーで話していたことがあって、『この映画は歴史的な人気の入り方をしている。誰もズルしなかったもんね』という話が出たんです。確かに、僕たちはきっと誰もズルをしなかったんです。ズルというと少し強い言い方ですけど、たとえば、RADWIMPSも、出来上がった映画を渡して『曲を何曲つけてください』というやり方ではなく、一緒に一年半の時間を使って脚本を読んでもらって、曲が上がってきて、その曲を聴いて脚本を直して、演出を直して、そのために曲を直してもらったり、けんかしたりでやってきて、それは作画チームもそうだし、声優もそう。神木(隆之介)くんも『「秒速5センチメートル」の頃から自主練をしてきました』と言ってくれて、本番もものすごい気合いできてくれたし、(上白石)萌音ちゃんも台本を全部暗記していたり、それくらいの気合いで、今までのルーチンでやって、そこそこのパフォーマンスを発揮して仕事を終えるということを一人もしなかったんです。宣伝プロデューサー、東宝もそうですよね。『4万人に試写会で観せよう』と言いだして、僕の映画ってだいたい10万人くらいの映画だったから、『4万人も無料で観せちゃっていいの?』って伝えたんですけど、『若い人に観てもらって絶対もう一度観たくなるから』と言っていて、そういう一人ひとりの今までと同じやり方じゃないやり方で届けるんだという、ズルをしない、楽をしないやり方でやってきたことが一番大きな理由ではないかと思います」

――新海さんがそんなチームを作られた?

「たまたま集まってくださった、いろいろなタイミングですね。この物語じゃないですけど、3年ズレていたら、ネタバレですけど(笑)、RADWIMPSはアニメーション映画の音楽はやらなかったかもしれないし、神木くんの声も変わっていたかもしれないし、萌音ちゃんも3年若かったらこの作品を選ばなかったかもしれないし、安藤(雅司)さんもたまたま空いていた。川村プロデューサーも、他のみんなもそう。僕は幸運に恵まれました」

――神木さんの愛情を感じますね。「新海監督の空が大好き」と以前、インタビューで話されていました。

「空の写真を今でも送ってくるんですよね。『監督の空に似ていますよね』とコメント付きで、最初は『重いな』と思っていましたけど(笑)、今は僕のほうが重くなってしまっています。『神木くん、いつ帰ってくるの?』とか(笑)。神木くんだけでなく、今でもスタッフとはやり取りをしています」

来場者からの質問に真摯に回答


――自分は50歳中盤のオヤジなんですが、50歳以上のオヤジとかも感動させる喜びの秘訣は? ターゲットは本当は違うと思いますが。

「そうですね、違いますね(笑)。ただ、ターゲットって設定してもそこに確実に届けられるわけではないので、自分だったらこういう演出をされたらうれしいとか、こういう物語展開だったらうれしいとか、そういうことを突き詰めて考えるしかないと思います。あとは人の話を聞くこと。人の話を聞くために映画をなるべくわかりやすい状態の設計図を書くことが大切だと思います。映画ってまずは脚本から始まるから、完成形までってそこから時間がかかるので、脚本だけでは想像ができないわけです。今回は絵コンテをムービーにして、そこに声も効果音も音楽も入れてしまって、『これならわかるでしょう』と、完成形にとても近い形にしてたくさんの人に見てもらって感想をもらって、『ちょっとこの展開は飽きてしまう』とか『わからなくて置いていかれてしまった』とか、ヒアリングをたくさんしました。それがきっと、ど真ん中のターゲットは20代だと思っていましたが(笑)、取りこぼさないように、お客さんの気持ちを置いていかないようにと繰り返した行為が功を奏したのかなと思います」

――新海監督は大学卒業後に家業の建設会社を継がず、ゲーム会社に入り、その会社を5年で辞めて、今の道に進んだと思いますが、自分の進む道をどう決めて進んできたのか? あとは、4代目を継がせたいと考えていた親御さんに対しはいかがですか?

「話していただいたとおりのキャリアです(笑)。瀧くんが映画の中で就職活動しながら『ずっと何かを探しているような気がする』と言いますが、僕も大学時代にそんな気持ちがずっとありました。よくあることかもしれませんが、自分に何ができるか、自分は何をしたいのかわからないという気持ちがずっとあって、極端に言ってしまえば、何のために生まれてきたのだろう、と考えるわけです。20歳の頃はそういうことを考えるもので、それがわからないまま、『家業を継げ』と父からは言われていたけど、どう考えても土木建築に向いていないだろうと。子どもの頃からたくさん会社の人が家にやってきて、みんなタバコを吸いながら麻雀をやっている感じなんですが(笑)、そういう世界にまったく入り込めなくて、自分には向いていないんじゃないかと思い続けていて、父の反対を押し切る形でゲーム会社に入りました。何かモノを創ることが好きなんじゃないかという思いで、父は『いつかあきらめて30歳を過ぎて戻ってきてもいいから』と言っていましたが、実際にその会社に入ったらとても楽しくて、ゲーム作りを続けるほどにモノを創ることが楽しくなっていってしまって、そのうち自分の物語を語りたいという気持ちが強くなっていったんです」

「ファンタジーRPGを作る会社だったのですが、『剣と魔法の世界』というより『自分が普段生きている世界』、自動販売機とかコンビニとか満員電車を描きたいという気持ちになってきて、会社とやりたいことがかみ合わなくなってきて辞めたのですが、そこでも父には反対されました。『数年やってみてだめだったらやめろ』と言われて、『ほしのこえ』という映画を作ったんです。いろんな幸運が重なって、当時としては大きなヒットを記録することができて、自分に向いているのはアニメーションなのかもしれないと思って創り始めたんですが、それでもまだ何かを探す気持ちは抜けなくて、『秒速5センチメートル』という映画を創るまでは、『僕に一番向いているのはアニメーション監督じゃない』という気持ちでやっていました。絵もそんなに得意じゃないし、話もすらすら出てくるわけじゃないし、『秒速5センチメートル』を創り終えた後に、恥ずかしながら自分探しのような気持ちでイギリスに1年半くらい住みました。そのときに、何者でもない自分を突き付けられて、イギリス人ですらなく、学生ですらなく、仕事もしていない状況で、『あなたは何も成し遂げていないのね』と語学学校の18歳のロシア人の女の子から言われました(笑)。創りたいものは物語だ、という気持ちがだんだんクリアになってきて、帰国して『星を追う子ども』という映画を渾身の力を込めて創ったら、けっこうな不評をいただいて(笑)。それでも徐々にお客様が増えてきてくれて、地元の新聞とかNHKに取り上げていただくようになって、NHKや地元の新聞はたいへん田舎の年老いた両親に効くんです(笑)。『NHKに出ているなら、おまえはいいのかもしれない』とか言われて、父もだんだん認めてくれて、『君の名は。』でははしゃぎすぎてますね(笑)。『親バカに見られるから、これ以上、取材に応えるのはやめてくれ』とお願いをしました(笑)」

――「ポスト宮崎」と言われることが多いと思いますが、監督自身はどう考えていますか?

「宮崎駿さんの名前と並べていただくのは、過大評価であると思っています。あのような仕事ができた人はこれまでいなかったし、これからもいないだろうと思いますから。昨日(11月11日)も『紅の豚』を見ながら、そう思いました。ただ、アニメーション監督を仕事に選んでしまったので、創り続けていくしかないと思いますし、やるならば違うものを目指すしかないという気持ちにようにだんだんなってきました。宮崎駿さんの作品は大きなお手本ですが、違う方向でなければ彼のような偉大な人には、同じ方向に行っても絶対に追い付けないだろうと。RADWIMPSの音楽もそのためでもあるんです。宮崎駿さんには久石譲さんという完璧なコンポーザー(作曲家)がいて、完璧な映像と音楽のマッチングがあるわけです。であれば、全然違う方向の音楽でないと、手触りが違う、魅力のあるものにならない。じゃあ、疾走感のある音楽をベースに、音楽を聴きながら曲を作ろうとか、そんなふうに思ったのも、自分が好きという気持ちもありますが、宮崎さんと違う手触りにしたいという気持ちの強い表れだったりすると思います。違うものを差し出していきたいという気持ちです」

――最後にメッセージを。

「今頃は次の映画に入り始めていてもおかしくないタイミングなんですが、『君の名は。』だけの日々になってしまいました。年内には次の作品の脚本、企画に入らなければ、3年以内に作品を出すことができないと、だんだん焦っている毎日です(苦笑)。まだ白紙なんですが、11月、12月くらいで何かが見えてくればいいなと。観客が何を望んでいるんだろう、何を観てもらうことが皆さんに楽しんでもらえることにつながるんだろうと、耳を澄ませて、目を開いて、感じていければ、と今は思っています。『君の名は。』も続きますが、次の作品ができたときに、良かったらまた見ていただければと思います」

社会現象となった「君の名は。」。そのヒットの理由を、全スタッフが「ズルをしなかった」ことと表現した新海監督。「ズルをしない」姿勢は、この日のトークショーからも十分に伝わってきた。【ウォーカープラス編集部/浅野祐介】

浅野祐介

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