雪上を舞台に笑いとサスペンスが交錯「疾風ロンド」
関西ウォーカー
日本を代表するベストセラー作家・東野圭吾原作で、作家本人が「映像化は無理」と諦めていた作品が映画化された!
11月26日(土)公開の映画「疾風ロンド」は、雪山に隠された生物兵器を追い求めて繰り広げられる笑撃サスペンス。スケールの大きな雪上アクションや、笑いもたっぷり盛り込まれ、引き込まれること間違いなし。映像化を成し遂げたのは「サラリーマンNEO」「あまちゃん」などでユーモアを描かせたらピカイチの吉田照幸監督。主演の阿部寛と関ジャニ∞の大倉忠義、大島優子と共に来阪し、合同記者会見が行われた。
MCから本作のオファーを受けた時のことについて聞かれた阿部は「吉田監督の『サラリーマンNEO』が好きで、ああいう演出をする方にすごく興味があった。監督からお話をいただいた時には一緒に仕事ができればと思い、二つ返事でお受けしました」と振り返る。また阿部が演じる主役の栗林和幸について「今回の役は結構人間的で、大騒ぎもするし、表情も豊かで楽しい役だった。でも、出番がすごく多くて、常に追い込まれている役なんですが、周囲の人はこの男がなぜ追い込まれているのかわからない。そこらへんの微妙な芝居を皆さんと作っていくのが面白さであり、苦労でもあった」と演技の上の苦労を語った。
吉田監督は「まじめにやるほど面白い、というのがコメディでは一番うれしい。阿部さんはドラマとコメディが融合できる役者さんだなと思っていました。時々『やりすぎかな』と相談されることもありましたが、それは本心から出た動きなので、編集するととても生きていて、本当に魅力的でした」と阿部について語る。
また、共演者の第一印象を尋ねられた大倉は「阿部さんは映像の中でしか見たことがなかったので、お会いして『実在するんだ』っていううれしさがあった」と振り返る。大島については「僕が体調を崩していたことも気軽に『大丈夫ですか?』って聞いてくれて、いろんな意味で壁がない人」と思ったそう。
大島優子は一番苦労したシーンを聞かれ「スノボでのアクションシーン」と答えた。9歳からスノーボードをたしなみ、雪とはなじみ深い大島ではあるが、今回は敵役のムロツヨシと雪上のバトルシーンがある。「初めて『自分スロー』でやってくださいと言われました」と語る。通常のスローシーンはスピードカメラで撮るが、今回は自分がゆっくりと動く「自分スロー」。「これは初めての体験で、自分でゆっくり動いて戦いながら撮るのは大変でした」という。大島渾身の演技はぜひ、スクリーンで確かめてほしい。
吉田監督も映像化の苦労を聞かれ「まずは雪上のアクションシーン。もう1点はサスペンスとコメディの両方を凝縮した作品にできるかどうかという点だった」「雪上シーンは従来の撮り方では『見たことがあるからつまらない』とカメラマンにいわれ(アクションカメラの)GoProで、主観で撮影することにした」という。その決断が、疾走感ある映像を生みだした。
会見後には吉田照幸監督の単独インタビューも実施。映像化の苦労や作品に込めたメッセージなどについて聞いた。
―雪上のアクションで映像化が難しかったというお話がありましたが、どのような点で苦労されたのでしょうか。
吉田 この作品で一番チャレンジングな部分はずっとスキー場にいる点ですね。スキー映画でも、室内シーンが多かったり、スキーのシーンが少なかったりすることもありますが、本作ではずっとスキー場を舞台にしています。その点が最も大きな挑戦でした。
もうひとつ、悩んだのが食事処「カッコウ」をスタジオセットにするか、現場で撮るかという点。カッコウはずっと窓の外にスキー場が見えています。でも、これはリスクが高くて天候が変わるとか、夕方5時までに撮らなければいけないとか、いろいろ制約があります。でも、ロケで進めました。それがよかったと思います。
ただ、スキー場ってどこをとっても景色が一緒なんですよ。だから、あくまでもシーンによって違いが分かるように気を付けました。
スキー場の外ロケは天候が変わったりするので難しく、普通はあまりやりませんが、今回は奇跡的に天候に恵まれました。吹雪になってほしいときには吹雪になったり。特に冒頭のウイルスを隠すシーンは、ピーカンだと美しくなってしまいます。そういうことがなかったので、今回はついていましたね。
―冒頭が明るいと、ミステリーにはなりませんね。
吉田 あそこだけは担保したいと思っていました。
もうひとつ、苦労したのは会話のシーン。スキーを履いているので歩けない。少し立ち位置を変えたいと思っても変えられないんです。変えようとするとどうしても芝居が止まってしまう。
―雪国を舞台にしていても、夜のコテージなどで話が進む作品が多い中で、本作は雪上で決着をつけていきますね。
吉田 本作はテストを1回したら、あとはずっと本番です。角度やカメラ位置が変わっても本番なんです。だからほぼ一発勝負になっている。そのライブ感を重要視したところはありますね。現場の人は雪上で立ち位置も決められないので、大変だったと思いますよ。でもそれが勢いになって、いい雰囲気になったとは思います。
―プロダクションノートで「あこがれの阿部寛さんを演出する」というプレッシャーに押しつぶされそうだった、ということを書かれていましたが、阿部さんは特別の存在感のある俳優さんでしたか。
吉田 まじめな作品から「テルマエ・ロマエ」までできる役者さんって、なかなかいないと思うんですよね。しかも主役で。その振れ幅の中で、自分が何か新しいキャラクターを作るのは非常にプレッシャーもありつつ、やりがいのある仕事だと思います。それで出来上がったのが、一番普通の人というのも皮肉めいていて、いいなと思いました。
―栗林は研究所で働いていて、特別な感じもありますが、そういう人でも面倒を抱えているという点にも面白さを感じました。
吉田 僕はNHKで育ったからかもしれませんが、特定の人たちだけではなく、老若男女関係なく楽しめる作品にしたいと思っています。
それに、僕の好きな伊丹十三さんは社会派とコメディを一緒にした人で、主人公は特殊な仕事はしていても思い入れができるような痛さやダメなところがある。そうなった瞬間にほかの世界に行ってもみんなついてこれるんですよね。
特に考えているのはスクリーンとテレビの違い。テレビは日常に見ているので、世界が向こう側にあります。でも、映画は真っ暗な中で見ているので、その世界に入ってほしい。そうなると、主人公に過剰移入できなければいけない。「サラリーマンNEO」のキャラクターは少し突っぱねたようなシュールさ、冷たさもありますが、そこに阿部さんの愛らしさがプラスされている。阿部さんのキャラクターで愛せる主人公にしてもらったと思っています。
―だからこそ、栗林に感情移入ができて、作品世界を楽しめるのだと思います。ありがとうございました。
【取材・文=関西ウォーカー編集部 鳴川和代】
鳴川和代
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