老紳士が“チェスが弱いロボット”を雇ったら…結末が美しい短編に反響多数「鳥肌立った」「最高のオチ」【作者に聞いた】
チェスがきっかけでロボットを雇うことにした紳士。チェスが下手な戦場帰りのポンコツロボは日々、老人と盤を挟んで指し続けるが……。まさにチェスの棋譜のように鮮やかな展開と結末の短編漫画に「心が震えた」「なんだか涙が出る」と、感動の声が集まっている。

話題を呼んだのは、漫画家・イラストレーターのミヤギトオル(
@mitume333
)さんが昨年12月、自身のTwitterに「チェスが弱いロボットの話」として投稿した作品。5万件超のいいねを集めた同エピソードを紹介するとともに、ミヤギさんに本作の裏側を取材した。
戦地帰りのロボと同居、老紳士との日々で得たものに感涙

長距離列車で相席になったロボットとチェスに興じていた老紳士。機械なのにチェスが弱いロボットは、戦地で地雷除去の仕事をしていたものの、爆風によって大きなダメージを負ったのだという。

話を聞き、働き口を探しているというロボットを、紳士は使用人として雇うことに。自ら「ポンコツ」と語る通り、チェスはおろかコーヒーの淹れ方さえ分からないロボットに、紳士は果実酒の漬け込み、庭の手入れや買い物と、一つずつじっくりと仕事を教え込む。

そんなロボットの大きな仕事が、食後のチェスの相手役。毎夜盤を挟んでいくうちに、ロボットは時には紳士を感心させるような妙手も指せるようになっていった。
時は流れ、老紳士が車椅子が欠かせない歳になった頃には、「たまには勝たせてくれ」とぼやきたくなるほどにロボットのチェスの腕は上達していた。生活を共にし、「店を開けるレベルだよ」と老人がコーヒーの腕前を褒めれば、ロボットは「眠ル前ニ果実酒ヲ飲ミマスカ?」と、以心伝心の間柄になっていた二人。

そんな穏やかな夜を、窓の外の轟音がかき消した。老人の住む土地に戦火が及ぼうとしていたのだ。避難を提案するロボットに「しかし爆撃が…」と躊躇する老紳士。だがロボットは冷静にこう告げた。「相手ノ手筋ハ読メマシタ」

かつてチェスが弱かったロボットは、戦場という“盤面”を読み切り、老人を背負って真夜中の戦地をゆっくりと去っていくのだった。
“世の中のトピックをフィクションの世界で”どこかで繋がるオムニバス
結末から振り返ると、「戦地帰り」のロボットという境遇からよどみなく描かれるストーリーに驚かされる作品。その一方、老人との穏やかで幸福な日常の描写も愛おしい。
Twitterでは、「鳥肌立った」「最高のオチ」「伏線えぐ」とその構成や結末への声や、「おじいさんの癖?を学習していてかわいい」「一緒に育てたデイジーが満開」と、老人との日々や時の流れに感動するコメントが数多く寄せられた。
同作は、ミヤギトオルさんが白夜書房のWEBメディア「
ミライのアイデア
」で連載中の『
不思議ヶ丘の人々
』内の一篇。少し不思議な世界で起こるさまざまな出来事を描くオムニバス形式の連載作だ。エピソードのアイデアとともに、連載についても話を聞いた。
――『不思議ヶ丘の人々』の第5話「戦地のロボット」がSNSで大きな反響を集めています。
「SNSでの反響にはとても驚きました。これまで描いてきた漫画の中で一番反響の大きいものでした。読んでくださったみなさまありがとうございます。
漫画の中の物語の背景として『戦争』が出てくるのですが、そういう作品を描いたのも初めてでした。日常的にウクライナのニュースに接してたり、生活に戦争の影響を感じている中で出てきた作品なのですが、同じように感じている方がたくさんいて、お話に共感してもらえたのかなと思います」