【漫画】「ガチ泣き」「胸が苦しい」半世紀前のアメリカ、若者たちの追う夢の“表と裏”描く漫画に心震える

ブロードウェイ・シアターで上演される舞台を訪れた老作家。自身の代表作を観劇しながら、彼は半世紀以上も前、突然の別れを迎えた少女「ベティ」と過ごした時間を振り返る――。川松冬花( @ffarte12 )さんの創作漫画『いとしのベティ』は、1950~60年代のアメリカを舞台に、夢を追う若者たちが辿った理想と現実、その表裏を描いた作品だ。

半世紀以上前のアメリカを舞台に、それぞれの夢を追った若者たちの人生を振り返る創作漫画「いとしのベティ」川松冬花(@ffarte12)

同作は「ジャンプルーキー!」月間ルーキー賞(2023年1月期)ブロンズルーキー賞や、pixivコミック月例賞(2022年11月投稿分)優秀賞を受賞したほか、Twitterでも2万2000件を超えるいいねとともに「涙した」「引き込まれました」と多くの反響を集めている。同作の紹介とともに、作者の川松さんに制作の舞台裏について話を聞いた。

夢にまっすぐな少女と、惹かれた少年。緻密な構成で描かれる“運命のかけ違い”

主人公の「オリバー・ウィリアム」は、20世紀を代表する小説家。この漫画のタイトルであると同時に、作中での彼の代表作の名前でもある「いとしのベティ」の内容をなぞるように、彼が小説家になるまでの若かりし頃を回想する形で物語られる。

「いとしのベティ」(9)川松冬花(@ffarte12)


実の父親に置き去りにされた田舎町で、売春宿の住み込みとして働いていたオリバー。仕事でも理不尽な仕打ちが多い中、姉のような存在である「エミリー」に支えられながら鬱屈とした日々を過ごしていた。

「いとしのベティ」(12)川松冬花(@ffarte12)


そんな彼には、頭を悩ませるもう一つの問題が学校にあった。それは、学校一の問題児の少女「ベティ」の世話係。ベティは町一番の美人である一方、自ら牛の肥溜めに入ったり、気にせずその姿のまま歌い出したり、幼児のような奇行を繰り返していた。

教師から命じられ、彼女の面倒を見る羽目になったオリバーは、ある時ふとしたいきさつから、ひそかに書き溜めていた自作の小説をベティに読ませることになる。

「いとしのベティ」(22)川松冬花(@ffarte12)


周囲からは「頭がおかしい」と扱われていたベティだが、彼女は「オリバー…あなたすごいわ」と、その小説に涙し、普段とは真逆の理性的な姿を垣間見せる。ベティは、売春が大きな働き口の町で自らを守るため、あえて奇人を演じ続けていたのだ。

「いとしのベティ」(24)川松冬花(@ffarte12)


「演技の勉強にもなる」と言い放つ彼女が夢見るのは、ニューヨークのミュージカル女優。夢のために全身全霊を注ぐ強烈さに魅了されたオリバーは、ベティと二人の時間を過ごしていく内、やがて自らも「小説家になる」という夢を育んでいく。そして、作品を応募した出版社の編集者「ジュリアーノ」から入選の知らせが入ったオリバーは、ベティに「一緒にNYに行こう」と誘うが――、というストーリー。

「いとしのベティ」(41)川松冬花(@ffarte12)


劇中作の「いとしのベティ」は彼の青春時代をもとに描かれながらも、結末が現実とは異なることが明かされていく。荒んだ田舎町で、オリバーとベティがともに刺激しあい夢を語らう青春の日々と、夢に手が届くまさにその時起きてしまった悲劇を描いた、まさに一本の映画のような雰囲気を持った力作だ。

約80ページの大作を支えるのは、“描かなかった”膨大なバックボーン

自身の教室を持つフラメンコダンサーのかたわら、昨年11月には「 タンデム・ファッション 」(サイコミ)にてプロの漫画家デビューを果たした川松さん。『いとしのベティ』は、2022年11月に自身のTwitter・pixivにて公開した作品だ。漫画賞応募のために制作したものの、最初に応募した賞では酷評を受けたという同作。SNSを中心に集まった大きな反響への思いや、作品にこめた思いをインタビューした。

――『いとしのベティ』を描いたきっかけを教えてください。

「担当編集さんに『漫画賞に応募しませんか?』と言われ、ずっと描きたかったけれどページ数が長くて断念していた“ベティ”のネームを見せたらすごく面白いと言ってくれたので描いてみました。残念な事にその漫画賞には落選したのですが、別の漫画賞に応募したら月間一位になり賞も受賞できたので嬉しかったです」

――現代から1959年を振り返るような構成で、どこか古いアメリカ映画のような雰囲気を感じるのが印象的です。世界観や舞台設定で特に意識されたポイントはありますか?

「髪型と衣装、そしてキャラクターは全部の漫画を通してしっかり考えるのですがこのベティに関してはどんなルーツを持つアメリカ人なのか?など細く意識して作りました。当時のアメリカは今よりも差別が当たり前にあったので、オリバーの編集者になるジュリアーノをイタリア系アメリカ人にしたのもそうした時代背景を意識しての事です」

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