【漫画】「ガチ泣き」「胸が苦しい」半世紀前のアメリカ、若者たちの追う夢の“表と裏”描く漫画に心震える
――フィクションの中で、その当時に生きた人々の姿を映し出そうとしたんですね。
「娼婦宿で働く孤児のオリバーをいくら才能があったとしても、都会に呼び出して面倒を見るまでのロジックが普通だったらありえないのですが、ジュリアーノに当時アメリカで差別の対象であったイタリア系という背景設定を持たせ、なぜ彼がそこまでするのか、まずは彼の人生をプロットで書いてみたりもしました」

――本作も約80ページの力作ですが、描かなかった部分も綿密に作り込まれたとは驚きです。
「主役はオリバーなので、ジュリアーノの背景はこのベティの読み切りには載せられない部分でした。『そこまで考えなくても…』と思われるかもしれませんが、読み切りには載せられなくても、読者の方がそうした裏側を感じとってくれる様な魅力的なキャラクターを考えなきゃといつも思っています。また、自分の漫画に自信がないので『とにかくやれる事は全部考えて読者の方にぶつけてみよう!』と、設定についてはいつも本当に細かく考えています」
――そうしたバックボーンを知ると、この作品で語られなかった部分も読みたくなります。
「ジュリアーノの設定だけでも読み切り漫画に出来るので、時間ができたら描きたいなとは思っています。読者の方の感想で『ジュリアーノにもそう言う背景があるのかも…』とコメントしてくれた方がいて、それを読んだ時は『描いてないのに読み取ってくれてありがとうございます!』と小さくガッツポーズしました(笑)」
――劇中作「いとしのベティ」と、オリバーやベティが実際に辿った現実とは運命が大きく異なり、「夢」の表裏を描いた作品のように感じました。
「夢を追うということは何かを犠牲にすることとよく言われていると思うのですが、何を犠牲にしてるのか?と考えた時に“犠牲=人間関係”なのではないかなと思いました。
人は皆嫉妬心を持っているし、全員不幸な時も幸福な時もあります。そういったタイミングや関係性がどんぐりの背比べをしている時はまだいいと思うのですが、横並びだった誰かが夢に羽ばたこうとする様を間近で見させられた時、人はどうなるのだろうか、ということを考えました。
善良で本人も辛く悲しい人生を歩んではいるけれど、誇り高く人を助け、前を向いて生きているキャラクターがどうなるのかを描ければ、夢の残酷さを映し出す構図になって面白いんじゃないかと。なので、この作品の主役は実はオリバーではなく実はエミリーなのかもしれないと、描き終わった時に少し思いました」

――キャラクターの見せ方としてはどんなところにこだわられましたか?
「主要なキャラクターは皆、“いい人”であるという事をちゃんと読者の人に分かってもらえるように描きました。彼らは逆境にも負けないいい人達であるのに、タイミングや伝え方一つで人生があまりにも変わっていく様を表現できればと思い構成しました」
――読者からは多くの感動の声を集めた作品です。反響についてご自身ではどう思われていますか。
「ここまで反響があるとは思いませんでした。最初の漫画賞に出した時は、有名な漫画家の先生から五点満点中一点をつけられたり、正直酷評でした(笑)。なので、その時の審査と世間との評価の違い、ギャップに驚いています。本当に漫画って難しいな、とつくづく思いました。
でもやっぱり、どんなに編集部で酷評されようと私は読者の方々に『面白かった!』と、言ってもらえる作品にしていきたいのでブレずに頑張っていきたいと思っています」

――最後に、今後の漫画制作の展望について教えてください。
「今、いろいろな所で水面下で漫画を頑張っています。新しいのも面白い!と思ってもらえるように頑張りますので今後ともよろしくお願いいたします!」
取材協力:川松冬花(@ffarte12)