【漫画】自分のことを嫌う娘のために執筆、小説家の男性が遺作に込めた“伝えきれなかった思い”とは【作者に聞いた】
「父の書斎に勝手に入らないでください!」。書斎にやってきた色に、烏丸は成実の遺言とともに彼が最期に書いていた小説の原稿を差し出す。ところが、色はその原稿をはたき落としてしまう。そんなものはいらない。「父からなんて嘘までついて、ただの葬儀屋さんのくせに勝手なことしないでください!」。感情を爆発させる色に、烏丸は冷静に声をかける。「これは貴女のための物語です」「どうか後悔しない選択を」。書斎に1人になった色は、床に散らばった原稿に手を伸ばす。

葬儀に集まった人たちへの喪主挨拶の場で、色は父・成実との個人的な話を始める。私は小説を愛する父が嫌いだった。記憶のなかの父はいつも後ろ姿で、私や母より小説が大事なのだろう。もし死ぬときは本に囲まれながら死ぬのだろうと思っていた。そしてそれは皮肉にも現実になった。でも父は、最期に“ある物語”を残してくれた。

それは小説「物語の在処」の続編で、しかし主人公は前作とは違って作者自身。彼は本を愛するあまり周囲が見えておらず、それによって失ったものは多く、たった1人の娘とも向き合い方がわからずに時間だけが過ぎていく。それを振り払うようにひたすら小説を書き続けていると、ある日娘からこんなことを言われてしまう。「お父さんは私のことなんてどうでもいいくせに」。

彼はそのひと言で目が覚め、同時に恥ずかしくもなった。読者に向けて話を書くが、実の娘には何一つ伝えられていなかった。そこで彼は娘のためだけに作品を書くことにした。一度だって娘のことをどうでもいいと思ったことはない。不安にさせてすまない。生まれてきてくれてありがとう。愛している。彼は娘に伝えたかったことのすべてを作品に込めた。

作品を読んだ色は涙ながらに、本当は自分も素直になれなかったのだと語る。そして、「大好き…愛しています」と心の奥にしまい込んでいた亡き父に対する本音を口にするのだった。挨拶のあと、色は烏丸に、あの原稿は途中からあなたが書いたのではないかと尋ねる。父が書いた字でないことくらいわかる。それでも、本当にお父さんが書いている気がした。「…ありがとう」という色に、これが自分の役目だと烏丸は答えるのだった。

作者の吉良いとさんに話を聞いてみた。
「商業連載『ようこそ亡霊葬儀屋さん』の中でも特に好きなお話です。連載冒頭のネームを描く時に、唯一筆に迷いがありませんでした。色(しき)の後日談を描き下ろした同人誌を発行していますので、興味があればぜひお読みいただけますと幸いです」
Twitterにアップされると、「ホント名作」「ダメだ傷心した夜に見るもんじゃねぇ普通に泣く」といった反応が読者からが寄せられている。物語の最後には、久遠寺色が烏丸葬儀社にアルバイトとして仲間入りする描写もある今回のお話。このあとどんな展開が待っているのか、続きが気になってしまう!
画像提供:吉良いと(@kilightit)