人気アニメ「ゆるキャン△」テーマ曲対談、キミのね&亜咲花に聞く“作品の魅力”と“楽曲制作の舞台裏”
2024年4月4日から好評送中のTVアニメ「ゆるキャン△ SEASON3」。個性豊かなキャラが織りなす魅力的なキャンプシーンが人気を博し、アウトドアブームの火付け役となった作品として有名だ。3期となる今シーズンも魅力はそのままに、キャンプの醍醐味を見事に描ききっている。
今回、そんな人気作のオープニング曲を担当するキミのねの3人(つむぎしゃちさん、大谷舞さん、久下真音さん)と、エンディング曲を担当する亜咲花さんの対談を実施。今シーズンを見た感想、作品への思い、楽曲制作の舞台裏などを聞いた。
キャンプからの帰り道で聴いてもらいたい
――キミのねの皆さんと亜咲花さんが担当された楽曲、それぞれのテーマと聴きどころを教えてください。
【亜咲花】都会の喧騒から離れてキャンプを楽しんで。そうして自然を満喫した後、また都会に戻る。その「田舎から都会に戻る帰り道で聴いてもらいたい」というビジョンが、最初から何となくありました。聴きどころとしては、今回、「ゆるキャン△」としては初めてエンディング曲(以下、ED曲)を担当させていただくということで、これまで担当してきたオープニング曲(以下、OP曲)とは意図的に趣を変えてみました。ソウルフルなんだけど、そこに切なさも感じられる……といいますか。“聴いていて心が温まる歌唱”を意識して、いつもなら声を張り上げて歌う箇所を、今回はちょっと抑えめにするなど、歌い方にも変化をつけているので、そういったところも意識して聴いていただけるとうれしいです。
――OP曲とED曲では、そこまで違いを意識しないといけないんですね。
【亜咲花】OP曲はそのアニメを象徴する、“作品の顔”ともいえるものなので、「ここからどんな物語が始まるんだろう」というワクワク感を表現する必要があるんです。ED曲は逆に、ここまで観てきた物語の“締め”なので、「今日もおもしろかったな。また来週も観たいな」と思ってもらえるように、余韻を残すことを意識しています。他の作品でED曲を担当させていただくときは、自然にそれができるんですけど、「ゆるキャン△」の場合はこれまでの癖があって、どうしてもOP曲のような華を添えたくなってしまって。
「今回はそれはいらない。もっとしっとりと歌わないと」と、頭ではわかっているんですけど、なかなかその癖が抜けなくて、レコーディング中は声が出てしまうことが何度もありました。「『ゆるキャン△』の楽曲はこうあるべき」という観念が染みついているといいますか、それほど私にとって、「ゆるキャン△」とは大きな存在なんだということを、今回のレコーディングを通して改めて実感しました。
――キミのねの皆さんはいかがですか?
【つむぎしゃち】「レイドバックジャーニー」というタイトルなんですけど、こちらは「のんびりした旅」という意味で「ゆるキャン△」を英訳したものになります。最初の打ち合わせで、テーマが「キミのねができる最大限の『ゆるキャン△』サウンドを探していこう」となって。そこからイメージを膨らませつつ作り込んでいきました。
【久下真音】聴きどころに関してですが、サウンドプロデューサーとしてはボーカルとバイオリンのデュエットを強く推したいですね。非常に良い仕上がりになっているので、大勢の方にご試聴いただきたいです。
【大谷舞】私はBメロにある“ゆるラップ”の部分が個性的でおもしろいなと思います。「ゆるキャン△」ならではの“ゆるさ”が全開で、作品の雰囲気にぴったり当てはまっているんじゃないかと。
【久下真音】ラップの部分には「ゆるキャン△」らしさだけでなく、キミのねらしさもありますね。狙ってそうしたわけではないのですが、結果的にぴったりな仕上がりになったなと感じています。
――亜咲花さんとバトンタッチする形でOP曲を担当されることになったわけですが、プレッシャーは感じましたか?
【つむぎしゃち】これまでのシリーズ作で亜咲花さんが歌われたOP曲は、どれもイントロが流れた瞬間、一気にテンションが高まって「来た!」となる感じだったので、「レイドバックジャーニー」もそうなるようにしたくて。不安よりも、そうした曲に仕上げたい一心で取り組ませていただきました。特にイントロは、私たちも大好きな部分になります。
自然発生で生まれたアイデアを大切に
――収録で苦労されたところはありますか?
【亜咲花】ちょっとでも気を抜くとED曲であることを忘れちゃって。どんどんいろんな要素を盛り込もうとしてしまうので、それらを抜く“引き算の作業”に時間がかかりました。前述と被りますが、「いつもは声を張り上げて歌うところだけど今回は抑えめで歌おう」とか、「こことここを同じテンションで歌えば、もっと聴きやすくなるな」といった感じで、全体のバランスを見るのが大変でしたね。
――特に難しかった作業がありましたら、お聞きしたいです。
【亜咲花】Bメロの「出会い、別れ、色々あって~」のところのバランス調整が難しかったです。後ろのサウンドはサビと変わらずゆったりしているんですけど、歌詞が切なくて。でも、そうした感情を出し過ぎると、この楽曲には合わないという。歌詞は切ないんだけど、サウンドはフラットに進んでいく。そうした相反する要素を、ボーカルとしてどのように汲み取って、いちばんいい形に落とし込むか。今回の楽曲では、ここがいちばん大変なところでした。
【つむぎしゃち】私たちも歌い方にはかなり気を使いました。元気なイメージの曲なんですけど、その通りに元気よく歌うとぜんぜん違う雰囲気になってしまって……。あくまでも「ゆるキャン△」の楽曲なので、元気いっぱいというより、聴いていて落ち着く感覚を大事にしました。レコーディングブースでは「ゆるキャン△」の映像を流してもらって、意識的に力を抜くよう努めました。力を抜くのって、意外と難しいですね(笑)。
【大谷舞】バイオリンのパートは、これまでの曲作りとはかなりテイストを変えました。私はふだん、バイオリンパートについては「ここは歌メロがこうなっているから、バイオリンはその反対方向の音程でいこう」といったように、論理的に考えるんですけど、今回は考えすぎないことを意識して。自然発生的に生まれたアイデアを大事にして、曲作りに当たりました。とはいえ、いざやってみると、“考えない”というのはけっこう難しくて。自然の中で散歩をしたり、そこでたまたま見つけた切り株に腰を下ろしてぼんやりしてみたり。「自然発生のアイデアに任せる」という感覚になれるまでが大変でした。
――ご自身のなかで新しいチャレンジがあったわけですね。
【大谷舞】理論に頼らないというのはやはり不安ですね。「本当にこれでいいのか?」と、何度も疑いの気持ちが湧いてきました。
【久下真音】ふたりは苦労していましたが、僕は監督やスタッフの皆さんと打ち合わせをしながら、「こういう感じで行きましょう」と方向性を固めて。そうして作業を始めてからトラックダウンが終わるまでは、ただただ楽しい時間でした。いっさい迷うことがなくて、作詞、作曲、レコーディング、すべて楽しかったですね。実作業もスムーズに進んで、あっという間に完成したように思います。ただそのぶん、完成してからが大変でした。
――何があったのでしょう?
【久下真音】ようするにプレッシャーですね。無邪気に楽しく曲を作ったぶん、形になってから急激に「歴史のある、多くの方に愛されている作品のOP曲を、僕たちが担当して本当にいいのか?」ということが気になり始めて。納品してから「僕はこれでいいと思うんだけど大丈夫だよね?」と、制作チームのメンバーに確認を取ったりして。とにかく発表されて、皆さんに聴いていただくまでは不安の連続でした。曲そのものは自分も気に入っているし、作品にも合っているという自信はあったのですが、後になってそういった不安に駆られるというのは初めての経験でしたね。いい勉強をさせていただきました。
のんびり観て、癒やされて、世界観を楽しんで
――「ゆるキャン△」をご覧になられている方および、未視聴の方に向けて、今回のシリーズの魅力を一言ずつお願いします。
【久下真音】「ゆるキャン△」は普通のアニメのように起承転結がないのが特徴だと思います。のんびり観て、癒やされて、次の癒やしを求めてまた観たくなる……という。そういった気分に浸りたい方にはオススメの作品ですので、ぜひご覧になっていただきたいです。
【大谷舞】シーズン3だけでなく、劇場版の劇伴にも参加させていただいているんですけど、完成した作品を観て、改めて「音楽の存在ってすごく大きいんだな」と思い知りました。「ゆるキャン△」といえば癒やしの音楽。ゆるっとしているけど、元気で明るくて。OP曲、ED曲に加え、劇伴にも耳を傾けて、目でも耳でも「ゆるキャン△」を思いきり楽しんでいただけますと幸いです。
【つむぎしゃち】今回こうして「ゆるキャン△」に関わらせていただくことが本当にうれしくて、そのことを北海道のお祖母ちゃんに伝えたら、毎週、アニメを観てくれるようになって。それ以来、電話で話すと「リンちゃんが……」とか、お祖母ちゃんがキャラクターの名前を覚えてくれて、作品の話で盛り上がれるようになったことに感動しています。それくらい老若男女を問わずに楽しめる作品になっていますので、大勢の方に観ていただいて、楽曲も口ずさんでいただけたらうれしいです。
【亜咲花】劇場版に続きシーズン3も放送開始となって。話数が進むたびに、SNSでも“いいね”をしてくださる方が増え続けていることがありがたいです。先に劇場版で社会人になったキャラクターたちを描き、そのうえで高校生時代のシーズン3を描くことで、どちらもご覧になられている方からすると、「この出来事が劇場版のあのシーンに繋がっていくのか」といった観かたができるのもおもしろいですね。
そういった“シーズン3~劇場版”の流れも踏まえて、ED曲では「出会い、別れ、いろいろあっても、仲間と過ごした時間はかけがえのないものなんだよ」ということを表現しています。作品そのものもこれからさらに盛り上がっていきますし、この勢いのままシーズン4にも繋げていきたい、そうなるとうれしい!……という思いでいますので、大勢の方にご覧になっていただけるとうれしいです。
取材・文=ソムタム田井
【ゆるキャン△音楽祭2024】
■開催日
2024年6月8日(土)
■出演者
花守ゆみり、東山奈央、立山秋航+ゆるキャン△アコースティックバンド、キミのね、亜咲花
※出演者は変更となる場合があります。
■会場:YCC県民文化ホール 大ホール(山梨県甲府市寿町26-1)
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