男子フィギュア界の未来が見えた!躍進する山本草太に迫る
東京ウォーカー(全国版)
それは、新たな時代の幕開けを象徴する光景だった。フィギュアスケートのジュニアグランプリファイナル(12月中旬、バルセロナ・スペイン)で、宇野昌磨と山本草太が1位、2位を独占した。選手としてのタイプは全く違うが、共通するのは、かねてよりスケーティング技術の高さに定評があり、今季になってトリプルアクセルやクワド(4回転)ジャンプといった大技を習得して一気に評価を上げた点だ。これからの男子シングルをけん引していく存在になるであろう要注目の二人の中から、今回は山本草太に焦点を当てて紹介したい。
山本草太は現在14歳の中学生である。その素質は高く評価されており、羽生結弦が引っ張るシニア世代の後継者候補の一角と目されている。大阪府出身の山本は、荒川静香、本田武史、鈴木明子など数多くのトップ選手を輩出した名伯楽、長久保裕コーチに師事すべく、愛知県名古屋市への転居を決断したのが2シーズン前。それ以来、基礎の一つ一つを見直す日々を重ね、今季、ようやくその努力が開花し始めた。
11月初めの西日本ジュニア選手権(福岡)で優勝は飾ったものの、目標としていたトリプルアクセルの成功は果たせなかった。練習での成功率は「一割ぐらいです」とのこと。それは練習でもめったに成功していないことを意味する。確かに、昨季に比べれば改善されているのは明らかだが、試合での成功は遠いだろう、と悲観的な予測をせざるを得ない状態だった。
ところが、11月末の全日本ジュニア選手権(新潟)では、公式練習で美しいトリプルアクセルを決め、試合での成功も期待できるところまでに進歩していた。惜しくも本番では成功しなかったものの、試合後には「トリプルアクセルの成功はファイナルに取っておけ、と長久保先生に言われました」とコメント。前向きな姿勢を目の当たりにして、本当にファイナルで成功するかもしれない、と予感させた。
そして迎えた12月中旬のジュニアグランプリファイナル。山本はショートプログラムで、見事なトリプルアクセルを降りてみせた。試合本番で成功させたのは初めてで、こんな大舞台で初成功を収めたことは衝撃的だった。この結果、1位で迎えたフリープログラムでは気負いもあり、トリプルアクセルを残念ながら失敗。それでも宇野昌磨に続く総合2位と大健闘を見せ、日本男子が上位を独占する素晴らしい結果をもたらした。
大会後、トリプルアクセルの成功について聞いたところ、「ここ1週間で良くなりました。先週の愛知県TP大会まではあまり良くなくて、その後の1週間で飛躍的に確率が上がりました」と答えてくれた。
若い発展途上の選手にはこういった驚きの進化が起こり得るのだ。大舞台を目前に控えた独特の緊張感の中で、苦労を重ねた練習の蓄積が一気に開花したのである。わずか1週間での劇的な進化は、あっぱれとしか言いようがない。
山本は自分でも自覚しているようだが、とにかくスケーティングが伸びる。ひと蹴りでの伸びがジュニア選手としては傑出していて、ジャンプも高さと幅があって質が高い。そういった長所をどのジャッジも理解しているからこそ、ジャンプさえ決まれば高い得点がたやすく出る。とはいえ、男子シングルの世界で高い評価を得るためにはトリプルアクセルやクワドジャンプといった“飛び道具”が必要で、山本は今回、そのハードルをようやく一つ越えてみせた。
12月25日(木)から28日(日)まで、長野県長野市のビックハットで開催されている全日本フィギュアスケート選手権大会(全日本選手権)での目標を、大会を目前に控えた山本に聞いてみた。「順位や点数の目標は考えられないのですが、フリーでは2度のトリプルアクセルを入れるプランがあるので、ショートとフリーで、合計3回のトリプルアクセルを成功させたいです。そして、世界ジュニア選手権の代表の座を掴みとりたいと思います」と力強い言葉が返ってきた。
山本ならば十分に達成可能な目標のはずだ。尊敬する羽生結弦をはじめ、高い壁がいくつも立ちはだかる全日本選手権。強烈な緊張感の中でどんなパフォーマンスを見せてくれるのか…失敗を恐れずに堂々と挑戦してほしい。若手注目株が目白押しの今年の全日本選手権では、男子フィギュア界の未来予想図が、その結果からはっきりと読み取れるはずだ。【東京ウォーカー/取材・文=中村康一(Image Works)】
同じまとめの記事をもっと読む
この記事の画像一覧(全14枚)
キーワード
テーマWalker
テーマ別特集をチェック
季節特集
季節を感じる人気のスポットやイベントを紹介
おでかけ特集
今注目のスポットや話題のアクティビティ情報をお届け
キャンプ場、グランピングからBBQ、アスレチックまで!非日常体験を存分に堪能できるアウトドアスポットを紹介