食品サンプル会社に聞いたヒット作と苦労。チャーハンが掃除道具のケースに

関西ウォーカー

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1973(昭和48)年の創業以来、関西の食品サンプル界を牽引してきた「森野サンプル」。飲食店の店先に飾られる料理のサンプルはもちろん、野菜などの素材や、食品サンプルが付いたアクセサリーや雑貨など幅広く製造するほか、製作体験や工場見学も実施している。

誰もが一度は目にしたことのある食品サンプルは、その細やかな技術やミニチュアフードのようなかわいらしさに魅了される人も多いはず。50年近い歴史のなかで、特に印象に残るアイテムや苦労した点を代表取締役の森野文男さんに聞いた。

脂ののり具合がリアルすぎる生肉


食品サンプルの生みの親と親しい先代が起業

ミナミの有名お好み焼き店の店頭に飾られた、ジャンボお好み焼きの食品サンプル


先代である森野さんの父・森野留吉さんは、食品サンプル生産量日本一の岐阜県郡上八幡市出身。同郷であり、食品サンプルの生みの親と呼ばれる食品模型岩崎製作所の岩崎瀧三氏の下で、食品模型の業界発展の一因を担ったという経歴を持つ。

桐箱に入ったローストビーフはサシが美しい


「父が創業した昭和48年から、材料は変わりましたが、作り方はほとんど変わっていません」と森野さん。本物から型をとって成型、着色する過程は昔ながらだという。また、一つずつ手作業で仕上げるのも変わっていない。

サイズ感を伝える役目も果たす大盛りメニューのサンプル。直径30㎝のビッグサイズ!

カービングの講師とコラボしたスイカ飾り切りのサンプル。もちろん本物から型をとる


「素材は少し変わりました。昔は寒天を使っていた型がシリコンになり、素材となる蝋がビニール(樹脂)中心になっただけ」と森野さんは話す。そこから何重にもエアブラシで色を重ね、質感を再現すれば、本物と見紛うほどの食品サンプルが完成する。

本物にシリコンを流し、型を作る

樹脂を流すのも手作業

オーブンで加熱して樹脂を固める

焼き上げれば食品サンプルの元となる形が完成する

エアブラシで色の濃淡や焦げなど、細かく調整しながら仕上げていく

寒天で型を作っていた当時の写真

創業以来、一つずつ手作りしている。抱っこされている少年が森野さん

現在はエアブラシが主流だが、筆で着色していたことも

大きなハムとソーセージなどは昔から製造していた

シイタケの飾り切りまで再現したすき焼き


野菜やドッグフードも!料理以外にも多彩なサンプルを製作

こちらはケーキのように華やかなドッグフード


料理のサンプルのほか、役場などで名産品として展示するため、ブドウやホウレンソウ、メロンといった食材を受注生産することも多い。「旬の時期が限られているもののサンプル製作依頼はよくあります。また、収穫時期の目安にするため山椒の枝や実を作ったこともあります。太い枝や細い枝をバラバラにして、一つずつ型を作って着色しました」と森野さん。

枝と粒を細かく再現したブドウ

ホウレンソウなどは名産品や栽培過程の展示に使用される

冬しか食べられない「寒締めホウレンソウ」

茎の凹凸や色の濃淡がリアルなワサビ

ポットに植えられた茶のセル苗は土もサンプル


ほか、香水や口紅といった化粧品、病院で使われる血尿スケールまで、食品だけにとどまらず、さまざまなサンプルを手がけている。森野さん曰く、「建築みたいにきっちりとするのは苦手だけど、質感を出すのは得意なのがサンプルのよさ」。目で見てわかりやすく伝えるサンプルは、あらゆる場面で活用されるそうだ。

お店のグッズとして製作した餃子のサンプル

艶や血まで再現した鶏生肉

特大のモモハムは焦げ目がリアル

本物のパッケージで包んだ贈答品のサンプル

特大のベーコンなど肉類の依頼は多いそうだ

クリスマスケーキの依頼も毎年恒例


お客さんとのイメージを共有することが難しい


「オーダーを受けて難しいと感じることはしょっちゅうです」と森野さん。何よりも苦労するのは、発注する人のイメージを再現することだという。「たとえば、おいしそうと感じるイチゴは人によって違う。だから、我々がいいと思って作ったものや、10人中9人がおいしそうと思うものでも、お客さんのイメージと違えば作り直しになります。いかに聞き取ってイメージを再現するかが大事です」と話す。

細かい足も一本ずつ作る伊勢エビ


もう一つ大変なのは、すべてイチから作ることだという。「料理を作ろうと思ったら食材はスーパーに行ったら売っているけど、サンプルはレタスなどの野菜から作らないといけない。すべて型をとって組み合わせていくので、使うものが多いほど手間がかかります」。

できあがりだけでなく、調理の一瞬を切り取ったサンプルも得意とする


印象に残っているのは、韓流アイドルのイベントで配られたチョコを残したい、ということで受けた依頼。チョコにデコペンでサインが書かれたもので、サインのなかでも細い部分の再現が難しかったという。

ファンの希望を見事に形に残したチョコのキーホルダー


「途中でビニールが切れてしまうので、何度も作り直しました」という甲斐あって、ファンの間で評判が広まり、約900枚も作ったそう。「せっかくのグッズも、チョコだと食べたらなくなってしまうので、食品サンプルならではの活用法ですね」と話してくれた。

「こういうものがあったらいいな」が新たな作品の誕生に

キーホルダーからバッグ、ペン立てまでクスリと笑えるグッズがそろう


もともと受注でサンプルを作っていたが、12~3年前からは製作体験の実施と合わせて、店頭でも商品を販売している。

食欲をそそるカレーが目を引く丸型ポーチ


「オーダー以外の作品は、社員が集まって『こういうのがあったらいいな』と話し合って形にしていきます。食品サンプルが付いたマグネットやヘアゴムは定番ですが、最近だとiPhoneケースやUSBメモリもできましたね」と、日々のアイデアから新作が生まれるそう。

インパクト抜群の掃除道具ケース

八宝菜と酢豚に覆われたフローリングワイパーケースは、たまたま買ってきた掃除用具で作ったもの。「なんとなく作ってみた一点物だったんですが、すぐに売れましたね」と森野さんは笑う。エビ入りのチャーハンが貼り付けられた粘着カーペットクリーナーのケースと共に、現在は受注製作している。

実用性の高い新商品や海外への展開も

ニンジンが目を引くカレー


現在は、バッグ作家とコラボした商品なども考案中。丸いお皿に食品サンプルをのせたものをポーチやバッグにして、手に取りやすいサイズ感と価格帯で販売する予定だという。

「オーダーメイド以外の食品サンプルは、あくまでも嗜好品。ヘアゴムや雑貨には付いていなくてもいいものですから。それでも買ってくれる食品サンプル好きな人たちに喜んでもらえるよう、ご意見を聞きながら作品を作っていきたいです」と森野さん。

食べ終わりの皿も海外からの依頼

海外からの依頼で作ったフラッペ

照りが食欲をそそるハンバーガー

精巧な作りを再現したダムカレー

フルーツティーなどドリンクの依頼も

ポップなソフトクリームのサンプルも海外へ送ったもの

海外へもさらに積極的に展開していきたいという。「海外でも食品サンプルが広がっていける市場はあるので、これからは販路も開拓していければ」と話した。

取材・文=上田芽依(エフィール)

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