松本幸四郎「絶対観に来てほしい、その思いを伝えたい!」

関西ウォーカー

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演劇ライター・はーこが不定期で配信するWEB連載「はーこのSTAGEプラス」Vol.82をお届け!

京都・南座でいよいよ歌舞伎興行が開幕した。南座で110年以上、戦争中も途切れることなく続いて来た毎年恒例の『吉例顔見世興行』だ。京都の冬の風物詩、“まねき”と呼ばれる人気役者の名前が記された“まねき看板”も南座の劇場正面上にズラリと掲げられている。

歌舞伎は、東京・歌舞伎座ではすでに開催されていたものの、大人数の移動など地方公演はコロナ禍での対応が難しかった。『顔見世』の歴史を途切れさせてはいけない!そんな歌舞伎役者やスタッフらの心意気と共に、松竹は万全の対策を講じて上演を決めた。

京の冬の風物詩、今年も南座に12月1日“まねき”が上がった


いつもなら昼夜二部制だが、南座改装中だった2016年の先斗町歌舞練場での『顔見世』以来となる三部制を導入。その第三部に出演する松本幸四郎が来阪した。劇場が閉館中にもオンライン歌舞伎など、新たな挑戦を続けている幸四郎。上方歌舞伎を愛する彼が、南座で挑む東京式『吉田屋』への特別な想い、コロナ禍で開幕した『顔見世』への意気込みを語った。

コロナ禍で開幕した『顔見世』への思いとは?


演目

第一部 第一『操(あやつ)り三番叟(さんばそう)』 第二『傾城(けいせい)反魂(はんごん)香(こう)』
第二部 第一『寿(ことぶき)二人(ににん)猩々(しょうじょう)』 第二『一谷嫩(いちのたにふたば)軍記(ぐんき) 熊谷(くまがい)陣屋(じんや)』
第三部 第一『末広(すえひろ)がり』 第二『廓(くるわ)文章(ぶんしょう) 吉(よし)田屋(だや)』
配役は、第一部:中村鴈治郎、第二部:片岡仁左衛門、第三部:松本幸四郎ら

コロナ禍に関西で公演する意気込み

「3月の公演が中止になり、その後4月、5月、6月、7月と決まっていた舞台が全部なくなった時、真っ先に思いました。東京の役者ですが、『顔見世』を我々が歌舞伎役者の時に途切れさせるわけにはいかないと。今回、開催の運びになったことは本当にうれしいです。京都でウィズコロナになって以降、今年最初の歌舞伎公演が開く。ここから続いていく責任を、とても感じています」

『吉田屋』あらすじ

舞台は、正月近い大坂新町の廓(くるわ)にある「吉田屋」。そこの遊女・夕霧のもとに通い詰めて勘当になった豪商・藤屋の若旦那・伊左衛門が、夕霧が病気(実は恋わずらいなんだけど)と聞いてやってくる。落ちぶれて遊ぶ金もない彼だが、吉田屋の主人夫婦の好意で会えることに。が、待たされて嫉妬し、やっと会えても子供のようにすねたり、ダダをこねたりの伊左衛門。痴話げんかとなるが、結局は仲直りして喜ぶ2人の前に藤屋から千両箱が届く。伊左衛門の勘当は解け、夕霧を身請けすることになってメデタシメデタシ。

上方の師走の風情の中に男女の恋心を微笑ましく描く、上方和事の代表作だ。

こたつに入りながら夕霧が来るのを三味線を弾きつつ待つ伊左衛門。白塗り、二枚目、エエとこのぼんぼん。松本幸四郎、ピッタリ!Ⓒ松竹

伊左衛門と夕霧は仲直り、身請けも決まってメデタシメデタシ。ここで「高麗屋!」「成駒家!」の掛け声…今回は心の中でⒸ松竹


演目は東京式の『吉田屋』

坂田藤十郎、片岡仁左衛門、中村鴈治郎…上方歌舞伎を牽引する役者たちが数多く演じてきた関西でおなじみの『吉田屋』。今回松本幸四郎が演じるのは“東京式”の『吉田屋』だ。伴奏音楽は関西では常磐津だが、東京バージョンは粋で軽妙な清元で上演。関西で清元の『吉田屋』が上演されることは滅多にない。それを今回関西で、しかも南座で、やる。

「とんでもない勇気ですね。その勇気をほめたいと思います、自分に(笑)。前から清元の『吉田屋』をやりたいと思い続け、襲名披露の時(2018年)に澤村藤十郎のおじさまに教わって、名古屋の御園座で初めてさせていただきました。今、ご存命でやっていらっしゃる方はおじさまだけで、『やる時には全部教えるから』って、ずっと前からお約束していたので。僕は自分なりのこだわりがありまして、この『吉田屋』を名古屋より西ではやらないと決めていました。西には常磐津の『吉田屋』がありますからね」

南座で東京式の『吉田屋』を演じることを、「とんでもない勇気」だと語った


西で東京式『吉田屋』をやる理由

「歌舞伎は8月と9月が開いた。10月は国立劇場と歌舞伎座で開いた。11月は歌舞伎座、国立、そして博多で開いた。で、12月は歌舞伎座、国立劇場、そして南座が開くというところまでたどり着きました。が、その先がわからない。この顔見世興行も、何とか初日に幕を開け、千穐楽の19日を全員で迎えることを目標にして勤めます。でも、今日もわからない、明日無くなるかもしれないという状態。今回、出演のお話をいただいた時に、いろいろな条件の中で『吉田屋』があるのでは、と思いました。これからも続いていってほしいという意味でも、今やる演目ではないかと。この時期だから西でやる。自分が南座で『吉田屋』をやるのはこれが最後になってほしいと思います(笑)」

東西『吉田屋』の違いと見どころ

「上演時間が20分ぐらい短くて、出演者も半分ぐらいです。夕霧と伊左衛門の2人に特化した『吉田屋』というような感じでしょうか。凝縮されて作られた、また新たな『吉田屋』のイメージができるといいなと思っています。見比べていただくのも楽しいかと。上方式と東京式で違う道具もあったり。こういう演目があると、顔見世の“東西合同大歌舞伎”という意味がもっと明確になってくるのではないかな、大きなことを言うようですけど」

東西の違いを見比べるのも、おもしろいⒸ松竹


伊左衛門役にどう挑む

「澤村藤十郎のおじさまから教えていただいたのは柔らかさ、丸さ。それに尽きます。僕のひいひい爺さん(三世 中村歌六)は上方出身ですから、どこかに上方役者の血があると思っていて。東京の人が作った上方もの、もうなりきるしかないと思いますね。なりきるほどおもしろいお芝居です」

伊左衛門の「柔らかさ、丸さ」にも注目をⒸ松竹


共演は中村壱太郎

18年の襲名披露に引き続き、今回の相手役・夕霧には再び壱太郎。彼は『吉田屋』の西の本家本元、中村鴈治郎の長男。とはいえ出身は東京なのだが。

「御園座でやらせていただいた時は、すごく助かるという感じでした。上方の匂いをとても感じたので、彼に乗っかれば上方の匂いが出るのでは、と頼って、やらしていただいた(笑)。ビックリするというと失礼かもしれないけど、それほどに彼から感じた上方の匂いはすごく強かったです」

共演の中村壱太郎に、上方の匂いを感じるそうⒸ松竹


江戸と上方、それぞれの魅力

「江戸の歌舞伎はヒーローものが多い。上方は人間的で、どこかひとつ欠点のある人が主人公になってる作品が多い、と思っていますね。そういう意味ではすごく人間くさいお芝居、人間味のあるお芝居が上方に多い。江戸のものは、ヒーローは完ぺき、強いのは完全に強い、二枚目は完全に二枚目。そういうところがヒーローの魅力だと思います。明確に東の歌舞伎、西の歌舞伎というものが存在してほしい。ただ自分はどっちにもいたいという思いはありますけど」

上方歌舞伎を好きになった理由

「20代の頃、歌舞伎座で坂田藤十郎のおじさまの『雁(かり)のたより』を拝見して衝撃を受けて。歌舞伎にこんなお芝居が存在することを知らなかったので、とても驚いた作品でした。おじさまは、父、私、せがれの襲名披露興行の全部の興行に出ていただいた。本当にご恩を感じています。いただいたご恩をお返しする前にお亡くなりになられたので、正直残念という気持ちでいっぱいです。ただ、教えていただいたことはたくさんありますので、自分がそれをできる心身をもっているかはわかりませんが、それを皆さまにお見せすることがおじさまがずっと生き続けていらっしゃることになると思うので、改めて教えていただいたことをしっかりと思い出し、これから表現できるようにしていきたいと思っています」

お客様へのメッセージ

「絶対観に来てほしいという思いがあります。その思いをもって舞台を勤めます。時節柄、観に来てくださいとは言えませんが、観に来ていただきたい!という思いで、まず『顔見世』を開けます!」

楽屋と舞台 コロナ感染拡大・予防対策

まず、役者たちの感染対策。PCR検査は毎月あり、今回は京都に来る前に実施。検温は毎日。前の部が終わって役者やスタッフが全員退出し、次の部の人たちが楽屋に入る。公演中の楽屋へは出演者と舞台スタッフ以外入れない。舞台上では大道具さんが道具を作って退出、次に小道具さんが小道具をしつらえて退出した後に役者が入る。「ご挨拶も禁止で、共演者も舞台上でしか会わない。稽古も稽古場ではなく舞台上。同じお芝居に関わっていても、大道具さんやスタッフさんとも会わないんです」と幸四郎。

一部と二部、二部と三部を完全入れ替えし、間に約2時間取って客席や楽屋など劇場内の消毒や換気を行う。幸四郎の出演する第三部の開演は18時40分。朝から夕方まで時間がある幸四郎は「舞台がない時期は、昔のものを調べたりする気持ちになれなくて、何もできませんでした。でも、こうやって再開できたので、いろいろ考えようと思います」

感染予防対策のこと

通常なら約1か月の上演期間を今回は2週間。客席は舞台前の1列と花道の両脇4列ほどをつぶし、総客席数1082席が466席という半分以下に。そして観客席は前後左右を空けた配置となる。非常時だからだけど、これはとても観やすい!ただし、掛け声はNG。

観客はマスク着用で、入場時にサーモグラフィーで表体温スクリーニング、手指を消毒し、自分でチケットの半券を切って回収箱に入れる。京都市新型コロナあんしん追跡サービスの登録もしておきたい。空調の換気や湿度は十分だが、観客が少なめのうえさらに公演中や前後に換気を行うので、席によっては寒く感じることもある。ストールなど温度調節できるものの持参を。ブランケットやオペラグラスの貸し出しは休止中で、コインロッカーなども制限あり。水分補給以外、客席やロビーの食事もNGだ。できれば前日か当日、変更や追加がないか、「歌舞伎美人」(下記参照)で確認してから、早めに出かけよう。

現在、劇場はそれぞれにコロナ対策を実施しているが、南座は劇場内の案内スタッフはもとより、消毒作業スタッフの人数が多いように感じる。消毒グッズを手に、ひと席ずつテキパキ消毒している姿に安心感をもらえる。1年に1度の年中行事、楽しみながら応援したい。

■STAGE チケット発売中

當る丑歳 吉例顔見世興行 東西合同大歌舞伎

日時:12月5日~19日(土) 第1部10:30 第2部14:30 第3部18:40
会場:京都・南座
料金:1等席16000円 2等席8000円 3等席4000円 特別席17000円
問:チケットホン松竹
電話:0570-000-489
HP:「歌舞伎(かぶき)美人(びと)」 https://www.kabuki-bito.jp

取材・文=演劇ライター・はーこ

※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。

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