井浦新「俳優としてのビジョンはまったくない」自身が思う“俳優の真価”
東京ウォーカー(全国版)
ドラマ「ドラゴン桜」(TBS)で話題の女優・志田彩良主演の映画『かそけきサンカヨウ』が10月15日(金)より公開される。本作は、志田演じる高校生の主人公・陽が、父親の直(井浦新)の再婚をきっかけに、新たな暮らしに戸惑いながらも大人へと成長していく、思春期の複雑な心模様を描く青春群像劇だ。窪美澄の短編集から、自ら映画化を希望した今泉力哉監督がメガホンをとる。

本作で、日々心が揺れ動く主人公を優しく見守る父親を演じた、井浦新にインタビュー。繊細な物語へのアプローチの方法から、映画に対する思いまでたっぷりと語ってもらった。
共演者同士で反響し合いながら、自然とセリフが出る現場
――今作で演じたのは、思春期の娘と向き合う父親役。どのように役作りをされましたか?
【井浦新】何が父親らしいのか、というのは人それぞれ考え方があると思いますが、今作で演じた直は思春期の陽を育てていくには未熟であって、父としては足りないところがたくさんあると思ったんです。それでも、自分の未熟さを理解したうえで、直なりにいつでも陽に寄り添っていたいという気持ちがあると解釈しました。

直が石田ひかりさん演じる元妻の佐千代と別れた理由は、ふたりがそれぞれ自分の道を進みたいと踏み切ったからだと思うんです。そんな風に自分の道を進むことしかできない男は、娘が自立せざるを得ない状況、早い段階で大人への階段を登らせる環境を作ってしまった。そしてそれは、直自身も自覚している。自身の未熟さをどうしていいのか解決できないまま、思春期の娘と時間が合わず、時間が合ったとしても深く入っていくこともできないし、させてもらえない。そんな複雑な親子関係の中でも、娘に寄り添えるよう苦悩しつつ努力している姿を描けるようにと演じていました。

――ご自身の役柄だけでもかなりナイーブだったと思うのですが、思春期の女の子の繊細な心の動きを描くストーリーの作品作りをするうえで、今泉監督とはどんなお話をされましたか?
【井浦新】今泉組の現場は初めてで、まず監督がどういう作品作りをされているのかをキャッチするところからスタートしました。今泉監督はお芝居ではなく、作られた虚構の中でいかに本当のことを俳優たちが表すのか、ということを求めている人でした。

それは『かそけきサンカヨウ』の現場でも共通で、俳優陣は熟練の芝居などの技術的な部分はかなり削ぎ落としていたと思います。現場では手探りで、共演者同士で感じたことを反響し合いながら、気持ちが揺れて、セリフが自然と出てくる…そんな風に作品作りをしましたね。まずセリフを言うのではなくて、そのシーンにおいて心で何を感じたかを大切にして、志田さんと向き合いながら芝居をしました。
父と娘が向き合うシーンは、一発本番で撮影
――娘役の志田さんにはどんな印象を抱き、向き合いましたか?
【井浦新】志田さんは本番前のテストの段階から、この作品における、若い主人公の瑞々しさや危うさみたいなものに包まれていました。そして、自分が演じる父親の直もまだ大人になりきれていない未熟な部分がたくさんある。それを踏まえて、父親の立場で娘とどう向き合うべきかというのを考えて演じました。

――物語の中盤で、これまで見守るばかりだった直が、娘とふたりきりで真剣に話をするシーンがありました。静かなのに緊張感のある、印象的な場面ですが、撮影時にどんな思いで挑みましたか?
【井浦新】未熟な父親と、ひりひりとした思春期の娘の危うさが、演技ではなく反射的に出たシーンの真骨頂がここだと思います。台本を読むだけでもとにかく気が滅入るような語りの場面でしたね。監督とは、会話をせずともこのシーンが物語の中で分岐点になったり、陽にとってなにかしらのきっかけやスタート地点になりえるシーンだということは自然と共有できていたので、丁寧に演じたいという思いがありました。
――難しい場面を、どうやって撮られたのでしょう?
【井浦新】長いシーンの中で、陽が赤ん坊だった頃の思い出の映像が入ってくるので、台本上では3〜4グループに分かれているんです。なのでグループごとに1回ずつカメラを止めながら撮影する、というのもひとつの手でした。しかし、静かな場面ながら陽と直のふたりの心が激しく動き続けるシーンなので、一度撮影を止めて、はい次のシーンです、と再度気持ちを作って撮るのは無理だと思ったんです。

そこで、テストの1回目はこのシーンをすべて通して監督に見てもらおうと、志田さんとふたりで演じました。それを見終えた監督がぼそっと「このシーン、切れないな」ってつぶやいた瞬間に、現場の士気が高まりましたね。15分近い長回しを一発撮りで、というのはかなりの緊張感でしたが、こういうシーンに出合えるってなかなかないことなので、感謝しながら丁寧に向き合いました。

――その結果、「ひりひりとした親子の危うさが、演技ではなく反射的に出たシーンの真骨頂」になったと。
【井浦新】本番では、志田さんが演じているうちに、陽のセリフを自分の奥底から吐き始めたように見えましたね。志田さんの心が動いて、セリフを自分の言葉として発したことがわかって、その時にドキッとしました。台本上の陽のセリフが直に何を伝えたいかっていうことが、志田さんが口にすることで本当に理解できたというか。それができるということがとても素直だなと思いましたし、僕の琴線に触れたんです。

1回のテストでさまざまな実験をしながら整理して、そこからの一発本番だったので、現場の緊張感はかなりのものでしたけど、監督と志田さんと、“その場で生まれたことを信じていこう”、“生まれた言葉を丁寧に築き上げていこう”と、本番前に話していたことが実現できました。監督のOKが聞こえたあとの現場の熱気も忘れられないですね。
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