「純文学って何?」「本をどう読んでる?」 文庫『人間』を上梓した又吉直樹に聞いた、本との付き合い方
東京ウォーカー(全国版)
“下投げ”で書くのは好きじゃない

――本はもちろん、あらゆる創作物に対して「わからないもの、共感できないものは悪」っていう空気があるじゃないですか。また、そういう意見が可視化されるようになった時代でもあります。『人間』はもちろんのこと、又吉さんが純文学というフィールドで小説を書かれる以上、そういった批判とも向き合わざるを得ませんよね。
又吉:そうですね。でも『劇場』を書く時も、嫌われ者の主人公を書きたいと思ったんです、共感されにくい人物を書きたいなって。『火花』の神谷という登場人物も共感されづらい人物だと思うんです。僕は、わかりやすく書こうというところまで計算できないですし、したいともあんまり思わないんですよね。
――一方で特にライブでは、お客さんの反応をリアルに体感してきた又吉さんだったら、多くの人が共感したり、悩むことなく楽しめる小説を容易にかけたんじゃないかとも思うんです。でもあえて純文学という姿勢を選んだ理由っていうのはあったんですか?
又吉:『火花』とは別に書いていた自伝的なものを、あともうちょっとの文量ができたら本にできるから、というお話もいただいていたんです。当時、僕の中には「伝えよう」というか、普段お笑いを見に劇場に来てくれているみんなが楽しめるものを、という意識が強くあったんですね。でもそれが、むしろえらそうやなって思ったんですよね。難しいことを書くことが「えらそう」って思われてるんですけど、「これくらいやったら皆さん理解できますよね?」「これ、皆さん好きでしょ?」という意識の方が、めちゃくちゃえらそうやなって。
――たしかに、「あなた方にはこの程度が面白いですよね」はえらそうです。
又吉:自分が作った作品に対してお金出して、図書館であったとしても時間使って読んでくれる人に対して、「これ好きやろ?」っていうのは違うんじゃないかなって。今、自分ができる最高のものを提示して、「もうこれ以上無理です」とか「これしかできないです」というものを差し出さないと舐めてるんじゃないかなって意識が僕にはあります。特に小説というジャンルに関してはそういう姿勢で臨んでいます。僕は小説もエッセイも好きで、形式によって上下をつけるつもりはないんですけど、イメージとしてエッセイは少し笑えるものにした方がいいかなとかって思ってるんですけど、いざ書き出すと一緒なんですよ。下投げで書くのがあんまり好きじゃない。
――『人間』の文中で「なぜか奥(※主要人物の一人)は創作者の態度に敏感だった」という一文があります。奥は最も又吉さん自身を想起させる登場人物ですが、下投げでは書かない、というのが創作者としての又吉さんの態度ということなんですかね?
又吉:手を抜いて面白い人はそうすればいいと思うんです。手を抜くって表現よくないですね、肩の力を抜いた方が面白くなるとか、この脱力感がいいんだよねっていうものを得意とする方はいいと思うんですけど、僕はそういうタイプではないのかなと思います。芸人でも「一所懸命頑張ってる姿を見せてはいけない」と言う人がいるじゃないですか。僕もネタ合わせしている風景とかはあんまり見せん方がいいと思うし、ネタ合わせをしない時もあるんです。そういう意味では共感できる部分ではあるんです。でも、楽なことってしんどいっていうか……。なぜかというと、サッカーやってたからかな(笑)。しんどい練習している方が、ちゃんと練習ができてると感じて気が楽な部分もある。気楽でいいよ、練習まあまあでいいよって言われるとめちゃくちゃ不安になって苦しい。芸人が頑張ってる姿を見せへんって、要は普通にしとけってことなんですよね。僕にとっては、一所懸命取り組むけど不器用な部分があってうまくいかへんこともある、それが普通なんです。いろんなことを気にし過ぎて疲れるでしょ、気にしなくていいよって言われたら余計しんどいんですよ。子供の頃からそうしてきたから、こうしないとしんどいんです。
――『人間』は何者かになろうとしてあがいた青春期を送り、40歳近くになってその呪縛から少しだけ解放される永山という人物が語り手として登場します。又吉さんにとっては、ちゃんと頑張る、そしていかなる結果が待ち構えていようとやりきることが、何者かになることより重要ということなんですかね。
又吉:そうですね。それがやりたいわけですからね。ジャッジがある世界ではあると思うんですけど仕方ないですよね、セットなのは。基本はやりたいからやってるんですけどね。
――何かをやっていないと「生」の実感がわかない?
又吉:それはそうですね。常に「次にこれを作ります」という目標がないと、何するんやったっけってなってしまうので。何もすることないなってなったら、本当にすることがないんで。することがないという状態のためにご飯食べたり、睡眠を取りたくないんで。全ては次に何かをするために寝たり、何かを食べたり、人と会ったり、お酒を飲んだりしたいんで。主体がなくなると自分の時間そのものがなくなってしまうので、全てが無意味になってしまう、そんな感覚は常にありますね。

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