“客室清掃員”のリアルを描いた漫画で話題!ホテル増加の裏側を支える仕事の実態に迫る

東京ウォーカー(全国版)

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裏方の職業・ホテル清掃員のリアルを漫画に!

九州5県でホテルの客室清掃事業を展開する「セイビ九州」。実在の社員をモデルにした漫画「客室清掃の魔法」を出版し、話題を集めている。普段、表に出ることのない客室清掃の仕事とは?業界の歴史とノウハウを知るセイビ九州の代表取締役社長・森永幸次郎さん、漫画のモデルにもなったベテラン客室清掃員・田中久子さんに話を聞いた。

清掃業のプロとして創業50年を迎えるセイビ九州が出版した漫画「客室清掃の魔法」。清掃業界の裏側に迫る


ーーあらためて「セイビ九州」とはどんな会社なのでしょう?
【森永幸次郎】九州5県でホテルの客室清掃事業をはじめとするビルメンテナンス事業を展開する会社です。現在は福岡で30軒、長崎7軒を中心に九州各地のホテルを担当しています。現在の西鉄グランドホテルがオープンすることになった1969年。ホテルに精通する人材がいないかということで、もともと福岡でホテルマンをしていた父に声がかかり、グループ会社「セイビ」に入社したことが始まりです。

代表取締役社長・森永幸次郎さん。客室清掃を描いた漫画「客室清掃の魔法」の発案者でもある

【森永幸次郎】初めは客室清掃ではなく、共用部分などのビルメンテナンスが中心でした。朝から晩までホテルにいた父は、お客様にも信頼されていたんです。そこで「客室清掃もしないか?」と声をかけられ、客室清掃に携わることになりました。当時は客室清掃のアウトソーシング自体が例になく、そのはしりとなりました。その頃のホテル業界は狭く、新しいホテルができると、もともとホテルで働いていた人が移っていくのが普通でした。それからホテルラッシュだったこともあり、立て続けにホテル清掃の仕事が決まり、その人脈でホテルの総合ビルメンテナンスと言えば「セイビ九州」という地位を確立していきました。

ーーホテルの増加に反して人手不足という清掃業界の現状について教えてください。
【森永幸次郎】福岡市だけでも4万室以上ある福岡はもちろん、九州新幹線や西九州新幹線の開業に伴い、長崎駅や鹿児島駅の開発が今も続き、ホテルは増加傾向にあります。それに反して清掃員は不足している状態。人手不足というのは、国内の全産業の問題だと思います。特に大きな原因として新型コロナウイルスの影響がありました。それまで365日ほぼ満室状態でしたが、予約の激減で仕事が減り、1400人いた従業員は気づけば1000人に減っていました。残っている従業員に聞くと「忙しいのは大変だけど、仕事がないのはつらい」と。給与を保障しても、やりがいがないとみんな辞めていくんです。

ホテル一棟を20名ほどの清掃員で担当している


ーー客室清掃の仕事を漫画として出版し、話題になりました。その狙いは何ですか?
【森永幸次郎】理由は2つあります。ひとつは入社してくる人たちに向けて。マニュアルなどを使って教育していましたが、もっとわかりやすくこの業界のことや仕事のやり方を理解できるものがないか?と考え、そのカリキュラムのひとつになればと思いました。もうひとつは、社会に対してです。今、世の中にある仕事は、どんな仕事でも価値があるから成り立っていると思います。でも、客室清掃の仕事というのは一般の人に知られることはない。普通はホテルの従業員が客室清掃やビルのメンテナンスもしていると思いますよね。この仕事がどんなものか、知る機会がないんです。だから、この仕事の素晴らしさ、楽しさ、社会に役立っているということを伝えたいと思いました。その先に、今の若い世代にも、もっとこの仕事に興味を持ってもらえたらいいなという思いを込めて。

第1号の本では未経験の主人公が清掃という仕事を通して成長する姿が描かれている


ーー漫画のモデルとなったベテラン清掃員・田中久子さんについて教えてください。
【森永幸次郎】田中は当初、いち客室清掃員として働いていましたが、今では現場責任者として活躍しています。当時、責任者として女性は成り立たないと言われていましたが、お客様に「この人だけは変えないでほしい」と言われるほど信頼されるようになり、半年後には社内でも「逆に変えてもらっては困る」と…!田中が素晴らしいのは、社員ばかりでなく、パートタイマーや外国人労働者などさまざまな事情を抱える従業員がいるなか、厳しさと愛情の両面を持ち合わせて接することができるところです。

「漫画のなかには何人か実在の人をモデルに入れて、リアリティを持たせています」


【森永幸次郎】当社では、20年前から留学生を採用しはじめました。当時の現場は抵抗がありましたが、いろいろな人を活用していかないと現場が成り立たない状況でした。田中が根気よく教育してくれたおかげで、3年前には我が社で第一号の外国人社員が誕生し、今では300室を任される現場責任者に成長しました。さらには、そのネパール人の社員が、ネパールから来た60人の採用試験を取り仕切ってくれるように…!客室清掃という現場の仕事を知っている社員が母国語で説明することで、面接を受ける方も安心してもらえたと思います。今度はネパール人スタッフが入社したら現場でも教育してくれると思います。人を育てることでまた人が育つ、いい連鎖が生まれるんです。

【森永幸次郎】また、壁や難題が出てきたときに、自分でどうにかしようと積極的に取り組めるところも田中のいいところ。時代と共に、管理や帳簿などパソコンでのマネジメントシステムを扱わなければいけないことも増えましたが、田中は覚えると驚くほどに早い。人は苦手なものほど遠ざける傾向があるけど、田中の場合、地道に努力して克服していくんです。

ーー実際に漫画はどのようにして作られたのでしょうか?
【森永幸次郎】企画から完成まで半年以上かかりました。私の話だとどうしても堅くなってしまうので、現場の客室清掃員の意見をもとに、ホテルサービス部のチームを中心に作ってもらいました。

【森永幸次郎】実は私がはじめに作ろうと思ったのは、「すでに現場責任者である主人公が最強のチーム作りをする」というストーリーだったんです。でも、みんなに話したところ、第1号では未経験でこの業界に入った主人公がゼロから客室清掃という仕事を覚えていくストーリーを描きたい、と言われて。第2号ではその主人公が責任者へと成長していく構成になりました。そこで来年、第3号の本でチーム作りの話を出版する予定です。この仕事のテーマはチーム作りです。いいチームがお客さんに喜んでもらえたり、利益を上げるという成果につながっていきます。

ーーこれからの「セイビ九州」についてどうお考えですか?

12月にはビル清掃をテーマにした漫画「ビル清掃の魔法」も出版予定です


【森永幸次郎】これからは、客室清掃ができる指導者、技術者を育てていくのが私たちの仕事だと感じています。ホテルができても、フロントだけじゃ成り立たない。ホテルは客室が大事で、客室は清掃が一番大事だと思うんです。労働人口が減っていくなか、入社してくる人数も今後増えることはないと思っています。だからこそ、入社してきた人材を、今からいかに育成していくかが課題。清掃の仕事というのは、昔から下の地位に見られていたと思うのでそれを変えていきたいです。働く環境が大事になってくるので、待遇や環境の改善に取り組みたいと思っています。

【森永幸次郎】欧米ではすでに取り組まれています。昔はホワイトカラーが上でブルーカラーが下とされていましたが、ブルーカラーがいないと世の中は成り立っていかない。私はドイツなどの現場を視察しましたが、給与は高く、認知もされ、環境・待遇もよくなっています。日本も介護施設や保育所などでの人手不足を問題視し、徐々に待遇が変わってきてはいますが、清掃業界も変わるべきだと思います。民間の企業だけだと難しいところもあるので、国でも理解してほしいですね。その第一歩がこの漫画だと思います。客室清掃だけでなく、12月に「ビル清掃の魔法」も出版予定です。客室清掃だけだと限定されすぎているので、幅広く関わっている人について知ってほしいと思っています。

清掃員の仕事の魅力を発信している漫画「客室清掃の魔法」。そのモデルになったベテラン清掃員・田中久子さんにも話を聞いた。

ーーこの仕事についたきっかけを教えてください。


【田中久子】10歳のとき、1年近く入院していた時期があって、仲良くなった准看護師さんに教えてもらって、自分のベッドメイクをやっていたことがきっかけです。どんな仕事なのか何となく想像できたので、抵抗なくこの業界に入れました。

ーーこの仕事の大変なところ、逆に好きなところはどんなところですか?
【田中久子】この仕事はひとりではできない仕事で、周りの協力があってこそ、ひとつの現場が終えられます。だから、「苦しいときにも周りと協力して終えられるところ」が好きなところです。

【田中久子】大変なのは人間関係です。同じことを伝えても受け止める人によって違うので、わかるまで根気よく伝えます。機械ではなく、手仕事なのでいいところも悪いところも指摘しながらやっていっています。留学生や学生もいるので、その教育をしながら日々の業務をやっています。外国人も多く、言葉がわからないことも多いので、同じことを何度も話したり、スマホの翻訳機能を駆使したりしてます。漫画では厳しい指導のように描かれていますが、今はそんなに厳しくないですよ(笑)。

ーーベテランの田中さんの今までで一番大きな失敗談を教えてください。

客室の中でベッドメイクに時間がかかるという


【田中久子】シーツの中にお客様のスマホを巻き込んだまま、交換に出してしまったんです。その後、壊れた状態で戻ってきてしまって。今考えると忙しさに追われず、ちゃんと見ればよかったなあと。

ーー田中さんにとってこの仕事を続けるうえでのモットーは何ですか?
【田中久子】「信じるのは自分だけ」。この仕事は機械に変えることができない、必ず人の手が必要な仕事なので、何事も人のせいにせずにシンプルにコツコツやることが大事だと思っています。

この記事のひときわ #やくにたつ
・給与を保障しても、やりがいがないとみんな辞めていく
・人を育てることでまた人が育つ
・苦手なものを遠ざけない
・人のせいにせず、シンプルにコツコツやることが大事

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