35期連続で増収増益!ニトリホールディングスが躍進し続ける理由
東京ウォーカー(全国版)
「お、ねだん以上。」のキャッチコピーでお馴染み、大手家具・インテリア用品を扱う株式会社ニトリなどをグループ会社に持つ株式会社ニトリホールディングス。国内に750店舗以上、海外に120店舗以上を持つ巨大グループは35期連続で増収増益となり、その労働生産性は2271万円と、国内トップクラスを誇る。そんなニトリホールディングスの躍進を支えてきた、代表取締役社長の白井俊之さんに、ニトリグループの強さの理由や、近年、精力的に力を入れているIT部門やアプリ、成功をつかむための働き方について話を伺った。
未来を見据え躍進を続ける「ニトリグループ」の強さ
ーー2022年7月に公開された有価証券報告書によると、ニトリホールディングスの平均年収は約835万円。 同業の家具・インテリアメーカーの平均年収は373万円というデータが出ており、それを大幅に上回っていますが、いつ頃からの施策でしょうか?
【白井俊之】ニトリグループでは、30年以上前から従業員1人あたりが生み出す荒利益額である「労働生産性」に注目し、四半期単位で設定している20数項目の目標指標のひとつとして取り入れています。2020年の労働生産性は2271万円です。日本の一般的企業の平均809万円と比較すると約2.8倍です。近年は円安なので、ドルベースでみるとアメリカ企業の数字はあがっているかもしれませんが、アメリカの平均1454万円よりもニトリは高い数字を維持しています。
【白井俊之】ニトリグループの高い生産性は、工夫の積み重ねの結果です。例えば、店舗メンバーが、短時間で商品を品出しできるように、商品のパッケージを小さくしています。ギュッと圧縮してぐるぐる巻きにしたマットレスを、ベトナムの自社工場で作っています。従来のマットレスに比べて容積を1/4程度に小さくすることで、トラック4台で運んでいた荷物が1台で運べるようになったり、お客様ご自身で、店舗からお持ち帰りいただけるようになりました。圧縮することでお客様も便利になり、物流面では積載効率がよくなり、CO2の削減効果にもつながっています。このように、さまざまな施策、企業努力を積み重ねることで労働生産性の向上につなげています。
【白井俊之】店舗の仕事を“店舗だけで”改善しようとしても、できないことが多いんです。ニトリグループは、独自のビジネスモデル「製造物流IT小売業」の強みを生かし、店舗とは別の分野で商品や物流などの仕組みを変えることによって、結果的に労働生産性を高めています。それが、給料水準の引き上げや教育投資、それからさまざまな事業上の投資につながり、従業員や社会に還元することができていると考えています。19年連続のベア(定期昇給とは別に、基本給部分の金額テーブル表を書き換え、一律に賃金を増額させること)は、会社が本気になって30年以上、労働生産性向上への改革を続けてきた成果だと思っています。この労働生産性という言葉が、マスコミに取り上げられるようになったのは、ここ7、8年だと思うんです。ニトリグループでは、労働生産性が高まるのに比例して、労働条件も改善されました。1996〜2021年の25年間、日本の主要企業の平均月収は30.5から31.4万円へと賃金はほぼ横ばいです。ところが、ニトリの場合は1996年に26.4万円だったのに対し、2021年は34.5万円(役職除く。組合員平均)にまで伸びました。ニトリで働く社員の平均年齢は31.5歳と主要企業の平均よりも若いので、同年齢で比較するともっと違いが出てくるはずです。
【白井俊之】ニトリグループには、国内外に販売機能はもちろん、貿易や物流、商品を作るメーカーなど、いろいろな機能がある。そのため、結果的に1人当たりの生み出す労働生産性が高くなっているのです。
ーー創業の地・札幌にてIT人材を増やす計画を立てていらっしゃいますが、都心ではなく、札幌という地に力を入れる理由を教えてください。
【白井俊之】札幌に力を入れるというより、札幌“にも”力を入れています。北海道はニトリ創業の地。そのため、北海道へ恩返ししたいという気持ちは常に抱いています。現在、本部機能は東京と大阪にありますが、本社は札幌に置いたままです。
札幌本社には、350名規模のシステム開発/運用拠点がありますが、IT部門は、東京と札幌2拠点制にしています。IT分野の人材の確保も、東京と札幌の2拠点で行っています。2カ所で人材を集めることで、より多くの人材と巡り合うチャンスがあるんじゃないかと。IT部門のほかに、eコマースに関する部署やコールセンターなどの機能も札幌にあります。
また、北海道大学と協力して、IT人材育成の講座にも取り組んでいます。北海道大学が札幌本社の近くにあるので、ニトリから1人研究室に出向して、実装型の研究を行っています。
【白井俊之】札幌が、アメリカのシリコンバレー、中国の深圳、台湾の新竹のようにITを中心とした都市になれば、人が集まり産業が生まれ、企業が集まります。そうすると、地域社会全体の生産性が上がり、都市が豊かになります。東京よりも土地がある札幌がさらに豊かになれば、より広い家に住むことができ、課題となっている少子化にもきっと歯止めをかけられるはずです。札幌を、ITを中心とした人材が活躍する都市としていくことを後押しし、北海道や日本の未来に貢献していきたいです。
ーーITに強い人材は、北海道大学から入社される方が多いのですか?
【白井俊之】北海道大学出身で活躍している社員は多くいますが、国内外問わず、さまざまな大学から入社されています。4年前から新卒でIT人材の採用枠を設けています。「あなたには、将来IT部門で活躍することを期待していますよ」という形で、採用の段階からキャリアプランを描いた採用を行うようにしました。この制度でこれまでに約55名が入社しています。もちろん、入社後にIT部門に携わりたいと思う方にも道は開かれています。ニトリグループでは年2回、自己申告書を提出する機会を設けており、自身のキャリアプランを提出できます。IT部門で活躍する社員のなかには、入社後、店舗経験を長く積み、店長をした後にIT部門に移ってマネジャーをしている方も実際にいます。
ーー柔軟にキャリアプランが選べるのですね。
【白井俊之】ニトリでは、基本的には入社後、店舗からスタートして、一部署につき2~3年の短い就労期間で多くの部署を経験し、徐々にキャリアを積みながら希望の部署、希望の職種に異動する「配転教育」システムを採用しています。ニトリグループは製造物流IT小売業と自らを称していますが、そのほかに商社や貿易部門、店舗開発や広告、品質管理など、さまざまな機能が存在します。販売部門には店舗やeコマースもあれば法人のBtoBもあり、そのため、多くの職種があります。社員は自己実現のために、あらゆる部署を経験し、自らのキャリアの可能性を広げることができるのです。
【白井俊之】若い方々には、「何になりたいと考える前に、どんな仕事があるのか知ることが大切だ」とよく言っています。知っていることの範囲からしか、希望の仕事って考えられないですよね。言葉では知っているつもりでも、実際の中身を知らないことってよくあります。だから、まず仕事とその中身を知ることが大切なのです。ニトリグループでは、『ニトリ図鑑』という、部署や職種を紹介する冊子を作って配布するなどして、それぞれの部署や職種についての理解を深める取り組みを行っています。
例えば、学生時代のアルバイトで、品質検査をやった経験がある人はあまりいないのではないでしょうか。でも、実際にやってみたら楽しいと思うかもしれないですよね。まず「仕事を知る」というところからスタートするのがベストなんです。その後、希望が変わるのは当然のことなので、「キャリアは最初から決めるものではない」と考えていますね。
ーー違う部署へのキャリアチェンジは難しいことではないとお考えですか?
【白井俊之】そうですね。例えば、広告の部署と、出店場所の調査や交渉を行う店舗開発の部署、この2つの部署は全く違う仕事に見えますよね。ですが、我々からすると7〜8割同じなんです。
なぜかというと、広告を出すうえで、効果がどうなのか検証することが大事ですよね。“どの地域にどれだけの方が住んでいらっしゃって、どのような買い物をしているか?”などを調べておかないと、費用対効果は出せないわけですから。一方、店舗開発も、既存の店舗に“どういう条件でどの地域から、どのぐらいお客様が来ているか”などを検証しています。両者は目的こそ違いますが、お客様の動向を科学的に数字で把握する部分は非常に似ています。
【白井俊之】ですが、それぞれの仕事をやったことのない人から見ると、全然違う仕事に見えてしまうと思うんですよね。仕事って、共通しているところがたくさんあって、そういうところをどんどん紹介していくことによって、知らない職種、知らない仕事に興味を持つことにつながると思います。
ーーそういう部分にもITの力は生かされているのでしょうか?
【白井俊之】ITは、ほとんどの業務と表裏一体だと思います。例えば、レジひとつとっても、昔は、計算間違いをしない、お金を管理するための道具だったのが、現代では、「どの商品とどの商品が一緒に売れているのか、どのぐらいの年齢の方がどんなものを買っているのか、時間帯別にどういうものが売れるのか」とか、さまざまなデータが取れるようになりました。裏側でデータがとれる仕組みを備えているわけですね。通販も同様です。最初は紙媒体から始まりましたが、今ではeコマースと呼ぶようになり、ネットを介して行うことで自然にいろいろなデータが入ってくるわけです。
すべての仕事に対して、ITが必ず表裏一体になっています。社内でも、「IT・デジタルとはなんぞや?」みたいな議論をよくしています。そこで、まず「状態を数値化すること」を、デジタル化の最初のフェーズとしました。
【白井俊之】データサイエンティストという仕事も、なんとなく最近の言葉のように聞こえますが、データを分析するような職種が以前はなかったのか?というと、そんなことはありません。例えば、コンピューターがない時代から保険会社は存在し、保険の料率について計算する部署はあったわけです。その部署で働く人こそ、今でいうデータサイエンティストです。コンピューターのない時代は、代わりに電卓やそろばんを弾き、データを蓄積させていって、確率論で保険の料率を計算していたわけです。要は、使う道具が違うだけなんです。ニトリグループでは、昔から「数字のない会話は遊びだ」との考えがあり、数字で会話をするために、まず状態を数値化してきました。その次に、道具としてコンピューターやインターネットがあり、そこで蓄えられたデータをどのように使いこなしていくかが、次のフェーズとなるのです。
この記事のひときわ
#やくにたつ
・さまざまな部署での経験、見聞きしたことを財産と考える
・仕事とその中身を知る前に、キャリアを最初から決めつけない
・知らない仕事に興味を持つ
・「数字のない会話は遊び」数字で会話をするために「状態を数値化」する
取材・文=北村康行/撮影=三佐和隆士
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