なぜ旅行業社がPTA業務代行を?近畿日本ツーリストが“持続可能なPTA活動”を目指す理由とは
東京ウォーカー(全国版)

保護者と先生と地域が連携を図り、子どもたちのために活動する社会教育関係団体・PTA(Parent-Teacher Association)。その在り方や活動内容の是非について関心が寄せられる昨今、近畿日本ツーリスト株式会社が、保護者や先生をサポートするPTA業務アウトソーシングサービスを開始し、話題を集めている。
長年、修学旅行などを通して教育現場に関わってきたノウハウを生かし、PTAの業務をサポートし負担軽減をすることで子どもたちと向き合う時間を増やしてもらうという、子育て世代を応援する取り組みとなっている。今回は、近畿日本ツーリストをグループに持つKNT-CTホールディングス株式会社、社長室未来創造事業担当の担当者に話を聞いた。

自社グループのリソースを活用し、PTA運営に関わるさまざまな業務をワンストップで対応
ーーPTA業務アウトソーシングサービスについて概要を教えてください。
保護者の方や先生方の負担軽減を目的とし、当社のグループリソースを生かしたサービスを展開しています。
現時点での具体的なサービスの内容は、PTAの広報誌などの「印刷・デザイン」や「ウェブサイト制作」、学校行事やPTA主催のイベント行事を企画運営する「イベント関連」、受付のお手伝いなどの「人材派遣」。それに加えて、これまでに修学旅行の事前学習で提供していたコンテンツなど、弊社の強みを生かした「出張授業・学習支援」。これら5つのサービスメニューをご用意しています。
ーー2022年8月にサービスを開始したとのことですが、問い合わせの状況や提供実績はいかがでしょうか?
ありがたいことに、お問い合わせは毎日のようにあり、「来年こういうことをやりたいのだけど」といった、来年度へ向けたご相談を非常に多くいただいているような状況です。実施にいたった一例としては、ある中学校で周年記念式典と合唱コンクールを同時開催するとのことで、受付のお手伝いとして人材派遣のご依頼をいただきました。現役の添乗員を派遣したのですが、手際のよさをお褒めいただくことができ、とても光栄でしたね。
サービス提供開始後、トータルで80件以上のお問い合わせをいただいており、少しずつ認知が広まっているのではないかと考えています。メディアで取り上げていただくなど、想像以上に大きな反響を受け、社会的にも注目されていることを実感しました。

ーー具体的に、どういった内容のご相談が多いですか?
ローンチが8月末だったので、9〜10月の運動会などのPTA主催行事に関するご相談が多かったです。あとは印刷物の修正や文章校正といった事務作業のご相談は多い印象です。実際にお話を聞いてみて、どこにPTAの皆さまの労力がかかっているのかなど、細かな部分も見えてきましたね。意外なご相談内容で言えば、エリアによっては外国籍の保護者の方が多くいらっしゃる学校もあるようで、資料の英訳作業についてご相談を受けたこともありました。
ほかには、「自分の代わりにPTAの会議に出席してほしい」という代行のご相談もあり、あくまで個人ではなく、組織からのご依頼を受け付けているためにお断りさせていただいたのですが、PTAの大変さを痛感する内容でした。

ーー実際にサービスを始めてみて、今後の課題や改善点を感じた部分はありますか?
お問い合わせいただいてから実現するまでに、かなりのタイムラグが発生してしまうことが、実際やってみてよくわかりました。保護者側と学校側、両者のコンセンサスが必要なケースが多いので、発注していただくまでに時間がかかってしまうようですね。年度末など、需要が高まりそうな時期が少しずつ見えてきたので、発注シーズンに向けてどう準備していくか、どういうサービスを提供していくか、もっと中身を作り込んでいかなければいけないと感じています。
PTA経験者の声をもとにサービスを開発。「外注ニーズは意外にも高かった」
ーーそもそもPTA活動に着目したのはなぜでしょうか?
コロナ禍で修学旅行等が一切なくなってしまったときに、「旅行業以外でも何か教育現場のお力になれることはないか」と考えたのがきっかけです。そこで学校や家庭を取り巻く環境について調べてみますと、教員の働き方改革や共働き世帯の増加などの社会構造の変化を受けてPTAの従来の在り方が課題となっているということがわかりました。日頃の営業活動の中で、学校の先生方だけではなく、保護者の方との接点もあったことから、学校とご家庭の両方のお力になれるという点でPTA活動に着目いたしました。
ーーサービスを開発するにあたり、社内の反応はいかがでしたか?
市場を調べてみますと、PTAに特化したサービスを展開している企業はそんなに多くないことがわかりました。弊社では、自社のグループリソースを活用することで、多様なサービスを提供できるという強みがあるため、社内からも「やってみようよ」という肯定的な意見が多く、事業化する運びとなりました。
ーーサービスを形にするにあたって、苦労された点や難しかった点はありますか?
初めての取り組みということもあって、「そもそも外注ニーズがあるのか」「仮にあったとして、どういうサービスが求められるのか」、ということを把握する必要がありました。そこで、社内のPTA経験者を対象にアンケートを実施するなどしてニーズを調査し、まずはKNT-CTグループの各会社の既存サービスの範囲内ですぐに提供可能なもの、かつ、調査結果を参考に、外注ニーズの高かったものからサービスの提供を開始することにしました。
保護者の方や先生方の負担を減らしたい。持続可能なPTA活動を目指す
ーー新型コロナによって教育現場やPTA活動に変化はあったのでしょうか?
例えば教育現場では、授業のオンライン化が進んだり、学校行事の運営形態を変えなくてはいけなくなったりと新型コロナによりさまざまな変化が起きています。PTAに関しても同様に、従来の運営方法や活動内容が見直される時期にあるのではないでしょうか。

ーーこの流れは、貴社の提供するアウトソーシングサービスにとってマイナスに働きませんか?
もともとこのサービスは、“すべて弊社に委託してください”という方針ではないんです。保護者の方や先生方が、やるべき・やりたいと思われていることと、そうではない事務作業のような誰がやってもいいことが、きっとあるはずです。後者の誰がやってもいいことを弊社にお任せいただき、保護者の方や先生方の負担を減らして、子どもたちと接する時間を増やしていただきたい。そんな思いがこのサービスのコンセプトでもあります。
ーー近年、共働き世帯の増加によりPTA活動が大きな負担となることから、PTAの必要性が議論されていますが、これについてはどのように思われますか?
これまでPTA活動が果たしてきた役割は大きいものがあると思います。社会環境が変化してきている中で、PTA活動を持続可能なものにしていくための1つの選択肢としてアウトソーシングを活用いただければと考えています。
自治体や教育現場と連携し、アウトソーシングを活用した新たな取り組みの実現へ
ーー事業としては今後どのように展開をさせていく予定なのでしょうか?
現在は、アンケート調査で判明したニーズをもとに、すぐに始められそうな5つのサービスを優先的に進めていますが、PTAの方々から現状のサービス以外のご相談をいただくこともあり、他社との協業も含めて、ご提供できるサービスメニューの拡充をしていきたいと考えています。
実際にPTA業務アウトソーシングサービスを始めてみると、弊社の営業担当経由でサービスを知った先生がご相談をしてくださったり、メディアで取り上げていただくことで先生方の目に留まり、今までお付き合いがなかった学校からお問い合わせがあったりと、徐々に広まっているように感じます。本業の旅行業との相乗効果にも期待しています。

ーーそのほかにも、「今後こういうことに取り組みたい」といった展望はありますか?
自治体の方からのお問い合わせで、「国語・算数といった通常科目ではない授業を作りたい」というお話がありました。弊社の強みでもある旅行業でのノウハウを生かしたコンテンツで、普段の教科学習とは異なる非日常体験も含めた学びをご提供することは可能だと考えています。出張授業などを通してご支援ができたり、子どもたちにさまざまな体験をしてもらえるといいなと思います。このPTA業務アウトソーシングサービスをきっかけに、全く新しいことにも挑戦していきたいです。
この記事のひときわ
#やくにたつ
・自社のリソースを細分化・再分析し、新たなアプローチを考える<br />・新規事業開発の肝は、ターゲットのニーズ把握<br />・自社と社会の接点から、“自分たちにできること”を見つける<br />・コロナ禍で起きた社会や現場の変化を見逃さない<br />
取材・文=北村康行
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